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72.黒い水と死の水
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ヴァイスマン伯爵は大きく息を吐き、両手で髪をかく。
「ハラデテール伯爵が捕まるまでは私はハラデテール伯爵の寄り子だったのだ。あの二人のことはハラデテール伯爵に言われて、名ばかりの寄り親になっただけのこと。二人の実質の寄り親はハラデテール伯爵だったのだ。これ以上、私に頼られても困るのだ」
「事情は理解しました」
「わかってくれましたか。ではフレンハイム伯爵があの二人の寄り親になっていただけると」
「それは、ちょっと遠慮したいというか……」
俺は顏を引きつらせて手の平を前に出した。
一応、これで仲介役としてヴァイスマン伯爵に会いに来た。
あとはヴァイスマン伯爵に全てを押し付けても良いのだが。
そうするとヴァイスマン伯爵の人生が詰みそうな気がする。
俺は胸の前で両腕を組んで考える。
「正直に言うと、コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵の寄り親になるつもりはない。しかし、ヴァイスマン伯爵の話も聞いた以上、全く知らない振りもできない。二人の領地の開発については、私も協力いたしましょう。領地が順調に開発できれば、あの二人でも何とかなるでしょう」
「かたじけない。私の寄り親になってくれる気はないか?」
「キッパリとお断りします」
しばらくの間、ヴァイスマン伯爵と話し合い、俺は伯爵は応接室へ戻ることにした。
そしてソファに座った俺は、今回だけコシヌーケ子爵とビビルベルト男爵の領地開発について協力すると説明した。
「それで黒い水の話を聞かせてもらいたい」
「私の領地はカストレル連峰に面しており、クロック火山からも、そう離れていません。なので領地を掘れば温泉が出ると思い、ヴァイスマン伯爵から借りた資金で地面を掘り返したのです。すると黒い水がブワーっと吹き出したのですぞ」
「私の領地は黒い水は出なかったが、カストレル連峰に鉱脈があると考え、洞窟の中を掘っていくと、地下水が湧き出る水があったのです。それで兵が水を飲んだところ、苦しみもがいて死んでしまったんですぞ。見舞金を払うことになり、大変でしたぞ」
コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵は自分達がどのように失敗したかを言い合う。
クロック火山はカストレル連峰の中にある小さな火山だったよな。
リーファが難しい表情をして唇に指を当てる。
「たぶん、その黒い水は火炎水ね。火山地帯の近くによく湧くと言われてるわ」
火炎水……たぶん前世の日本の記憶にある石油のことだろう。
洞窟の中に湧く地下水……飲むと死ぬということは水ではないよな。これは調査が必要かもな。
俺は姿勢を整え、コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵を見る。
「一度、現場を見せていただけますか?」
「喜んでお見せしますぞ」
「それでは今宵は私の邸にお泊りください」
ヴァイスマン伯爵の一言で、今日は伯爵の邸に泊めてもらうことになった。
翌日、俺達はコシヌーケ子爵領を目指して『アクルマ二号』を走らせた。
五日かけてコシヌーケ子爵へ戻ってきた俺達は、黒い水が湧きでる現場に赴く。
子爵の言った通り、黒い水がボコボコと湧き上がり、大きな池のようになっている。
俺は黒い水をコップ一杯分をすくい取り、黒い池から離れた。
そして焚き木を集め、火打ち石で火をおこす。
その火の上にコップの黒い水をぶちまけた。
するとボンという音と共に、炎が一気に大きくなり、煙をモウモウとあげる。
やはり黒い水は石油に違いない。
俺はポンと手を叩き、コシヌーケ子爵を見る。
「この黒い水を私なら上手く活用することができる。この黒い水の湧き出る周囲の発掘権と利用権を私が買いましょう。そうなればコシヌーケ子爵に定期的にまとまった金額を支払います」
「おお、それは助かりますな。これで邸の者に給金も払えるし、娘の服を買ってやれるというもの。感謝いたしますぞ」
コシヌーケ子爵は両手を組んで、俺を見ながら泣き崩れる。
あまりにも大袈裟に喜ばれたので照れた俺は、困った表情をして髪をかく。
するとビビルベルト男爵が近寄ってきて鼻息を荒くする。
俺達は『アクルマ二号』に乗ってカストレル連峰の洞窟を目指す。
四日後、山道を登っていった先に目的の洞窟はあった。
松明を灯して、洞窟の中を歩いていくと、灯りに驚いたのかコウモリの大群が天井で騒ぎだした。
上を見ると、天井一面ビッシリとコウモリ達が張り付いている。
洞窟の最奥まで歩いていくと、大きな透明な池があった。
ビビルベルト男爵は悲しそうな表情で池を指差す。
「ここが死の池です。ここ池の水を飲んで兵が死んだのです」
池の周囲からは獣のフンのような匂いが立ち込めている。
俺は池からコップ一杯分の水をすくいあげ、匂いをかいでみる。
これはアンモニアの匂い……硫酸であれば匂いはしない……これは硝酸かもしれないぞ。
俺は後ろを振り返って、ビビルベルト男爵を見る。
「この水は毒ですね。池の水を持ち帰り調べてみます。有用だとわかれば、利用権を買いましょう。
コシヌーケ子爵と同じように定期的にまとまった金額をお支払いします」
「どうかお願いいたしますぞ」
「こればかりは調べてみないとわからないが、善処はします」
必死にしがみつくビビルベルト男爵を俺は強引に引き剥がした。
俺は服を整え、コシヌーケ子爵、ビビルベルト男爵、ヴァイスマン伯爵の三人を見る。
「三人の領地の中で、温泉が湧き出ている地域で、卵臭い場所を保有している方はいませんか?」
するとヴァイスマン伯爵が小さく手の平をあげる。
「私の領地はクロック火山の近くまである。たしか温泉が湧く場所の近くで卵の腐ったような匂いのする場所があったはずだが……」
「それが本当なら、その場所の採掘権と利用権を買いましょう。お支払い方法はコシヌーケ子爵と同じです」
「それは助かる。ぜひ調べてほしい」
これで全ては揃ったぞ。
後の実験はカーマインとドルーキンに任せてもいいよね。
「ハラデテール伯爵が捕まるまでは私はハラデテール伯爵の寄り子だったのだ。あの二人のことはハラデテール伯爵に言われて、名ばかりの寄り親になっただけのこと。二人の実質の寄り親はハラデテール伯爵だったのだ。これ以上、私に頼られても困るのだ」
「事情は理解しました」
「わかってくれましたか。ではフレンハイム伯爵があの二人の寄り親になっていただけると」
「それは、ちょっと遠慮したいというか……」
俺は顏を引きつらせて手の平を前に出した。
一応、これで仲介役としてヴァイスマン伯爵に会いに来た。
あとはヴァイスマン伯爵に全てを押し付けても良いのだが。
そうするとヴァイスマン伯爵の人生が詰みそうな気がする。
俺は胸の前で両腕を組んで考える。
「正直に言うと、コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵の寄り親になるつもりはない。しかし、ヴァイスマン伯爵の話も聞いた以上、全く知らない振りもできない。二人の領地の開発については、私も協力いたしましょう。領地が順調に開発できれば、あの二人でも何とかなるでしょう」
「かたじけない。私の寄り親になってくれる気はないか?」
「キッパリとお断りします」
しばらくの間、ヴァイスマン伯爵と話し合い、俺は伯爵は応接室へ戻ることにした。
そしてソファに座った俺は、今回だけコシヌーケ子爵とビビルベルト男爵の領地開発について協力すると説明した。
「それで黒い水の話を聞かせてもらいたい」
「私の領地はカストレル連峰に面しており、クロック火山からも、そう離れていません。なので領地を掘れば温泉が出ると思い、ヴァイスマン伯爵から借りた資金で地面を掘り返したのです。すると黒い水がブワーっと吹き出したのですぞ」
「私の領地は黒い水は出なかったが、カストレル連峰に鉱脈があると考え、洞窟の中を掘っていくと、地下水が湧き出る水があったのです。それで兵が水を飲んだところ、苦しみもがいて死んでしまったんですぞ。見舞金を払うことになり、大変でしたぞ」
コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵は自分達がどのように失敗したかを言い合う。
クロック火山はカストレル連峰の中にある小さな火山だったよな。
リーファが難しい表情をして唇に指を当てる。
「たぶん、その黒い水は火炎水ね。火山地帯の近くによく湧くと言われてるわ」
火炎水……たぶん前世の日本の記憶にある石油のことだろう。
洞窟の中に湧く地下水……飲むと死ぬということは水ではないよな。これは調査が必要かもな。
俺は姿勢を整え、コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵を見る。
「一度、現場を見せていただけますか?」
「喜んでお見せしますぞ」
「それでは今宵は私の邸にお泊りください」
ヴァイスマン伯爵の一言で、今日は伯爵の邸に泊めてもらうことになった。
翌日、俺達はコシヌーケ子爵領を目指して『アクルマ二号』を走らせた。
五日かけてコシヌーケ子爵へ戻ってきた俺達は、黒い水が湧きでる現場に赴く。
子爵の言った通り、黒い水がボコボコと湧き上がり、大きな池のようになっている。
俺は黒い水をコップ一杯分をすくい取り、黒い池から離れた。
そして焚き木を集め、火打ち石で火をおこす。
その火の上にコップの黒い水をぶちまけた。
するとボンという音と共に、炎が一気に大きくなり、煙をモウモウとあげる。
やはり黒い水は石油に違いない。
俺はポンと手を叩き、コシヌーケ子爵を見る。
「この黒い水を私なら上手く活用することができる。この黒い水の湧き出る周囲の発掘権と利用権を私が買いましょう。そうなればコシヌーケ子爵に定期的にまとまった金額を支払います」
「おお、それは助かりますな。これで邸の者に給金も払えるし、娘の服を買ってやれるというもの。感謝いたしますぞ」
コシヌーケ子爵は両手を組んで、俺を見ながら泣き崩れる。
あまりにも大袈裟に喜ばれたので照れた俺は、困った表情をして髪をかく。
するとビビルベルト男爵が近寄ってきて鼻息を荒くする。
俺達は『アクルマ二号』に乗ってカストレル連峰の洞窟を目指す。
四日後、山道を登っていった先に目的の洞窟はあった。
松明を灯して、洞窟の中を歩いていくと、灯りに驚いたのかコウモリの大群が天井で騒ぎだした。
上を見ると、天井一面ビッシリとコウモリ達が張り付いている。
洞窟の最奥まで歩いていくと、大きな透明な池があった。
ビビルベルト男爵は悲しそうな表情で池を指差す。
「ここが死の池です。ここ池の水を飲んで兵が死んだのです」
池の周囲からは獣のフンのような匂いが立ち込めている。
俺は池からコップ一杯分の水をすくいあげ、匂いをかいでみる。
これはアンモニアの匂い……硫酸であれば匂いはしない……これは硝酸かもしれないぞ。
俺は後ろを振り返って、ビビルベルト男爵を見る。
「この水は毒ですね。池の水を持ち帰り調べてみます。有用だとわかれば、利用権を買いましょう。
コシヌーケ子爵と同じように定期的にまとまった金額をお支払いします」
「どうかお願いいたしますぞ」
「こればかりは調べてみないとわからないが、善処はします」
必死にしがみつくビビルベルト男爵を俺は強引に引き剥がした。
俺は服を整え、コシヌーケ子爵、ビビルベルト男爵、ヴァイスマン伯爵の三人を見る。
「三人の領地の中で、温泉が湧き出ている地域で、卵臭い場所を保有している方はいませんか?」
するとヴァイスマン伯爵が小さく手の平をあげる。
「私の領地はクロック火山の近くまである。たしか温泉が湧く場所の近くで卵の腐ったような匂いのする場所があったはずだが……」
「それが本当なら、その場所の採掘権と利用権を買いましょう。お支払い方法はコシヌーケ子爵と同じです」
「それは助かる。ぜひ調べてほしい」
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