辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月

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70.アクス倒れる

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王都での用事を済ませ、俺達は領都フレイムへ戻ることにした。

クレトが呆れた表情で俺を見る。

「『アクルマ一号』も『ニクルマ一号』も献上しちゃって、俺達、どうやって邸へ帰ればいいんだよ」

「別にクレトだけ走って帰ってもいいんだぞ」

「俺の足だと何カ月もかかるわ。その前に死んじゃうだろ。何か考えがあるの?」

俺は人差し指を立て左右に振る。

「スイ、出てこい」

「御意」

シュタッと天井裏から現れたスイは片膝をついて礼をする。

「皆を一人一人、邸へ転送してくれ」

「無理でござる」

「え! なんで?」

無理と言われて、俺は驚きの声をあげる。

スイは澄ました顏で話を続けた。

「人一人を転移させるのに相当の魔力が必要でござる。アンナ、カーマイン、コハルの三人まででしたら、転移させることができるでござる」

「どうしてその人選になった?」

「単なる仲良しの度合でござる。アンナは私と友達でござるし、カーマインは暇な時に私の話し相手になってくれるでござる。コハルは可愛いからに決まっておりましょう」

スイとアンナが友達になってたなんて全く知らんかったわ。

カーマインは結構、面倒見がいいからな。

コハルの可愛さ、それは神!

俺は仕方なくスイの言うことを受け入れた。

「わかった。クレトとリーファは何とかしよう」

「御意」

スイは立ち上がると、アンナ、カーマイン、コハルを順番に一緒に転移していった。

俺はリーファと向き合う。

「ここで見たことは内緒にしてくれるか?」

「何? 言うなと言われたら、言わないわよ」

リーファはコクコクと大きく頷く。

「それじゃあ、俺がジャンプした時に、俺の体に捕まってくれ。

「ジャンプ?」

「いいから、やるんだ」

俺は両手を真っ直ぐに上げ、グルグルと回転させる。

そして、体の力を抜いていき、膝を屈めて、カエルのように真上に飛び上がった。

その瞬間にリーファが俺の体にしがみつく。

「領都の邸へ!」

視界が真っ白になり、次の瞬間に、俺達は執務室に座り込んでいた。

そしてリーファは俺の顔を指差して、大声で笑い転げる。

「アハハハ、何? あのポーズ! カエルみたいだったわよ!」

「うるさい。ああしないと転移魔法が使えないんだよ」

笑い転げるリーファを放置して、俺はソファに座ろうと立ち上がる。

しかし、目の前がグルグルと回転して、そのまま倒れてしまった。

慌てたリーファが俺に近寄る。

「ちょっと、大丈夫なの? アクス?」

「ああ……ちょっと、二人で転移したから魔力切れ……らしい……」

俺はそう言い残して、意識を手放した。

俺が目を覚ますと、私室のベッドで寝かされていた。

そしてベッドで、リーファが椅子に座ったまま眠っている。

「アクス様がずっと寝込んでいる間。リーファ様は凄く心配されて、ずっと看病されていたのですよ」

私室の片付けをしていたセバスがにこやかに答える。

俺は上半身だけベッドから起き上がり、セバスに礼をする。

俺とセバスの声が聞こえたのか、リーファが目を覚ました。

「あれ? アクス、目が覚めたのね。心配したのよ」

「ずっと付きっきりで様子を見てくれてたんだってな。ありがとう」

「でも、魔力切れは怖いからね。そのまま意識不明になるケースもあるぐらいだか」

えー何それ? 全く知らなかったよ。

これからは魔力切れにならないように転移魔法を使わないとな。

すると天井の板がスーッと動き、スイが顔を出した。

「主よ。体力をつけるでござる。体力が上がれば、運動できるエネルギーが増える故、魔力量も少しは増えるでござる。もしくは服を脱ぐでござる。その分だけ重さが減るので、転移に使う魔力量も減るでござるよ」

「毎回、転移する度に服を抜いでいられるか」

「夜の体力作りであれば、拙者がお相手つかまつる」

「そんなことしないわ!」

スイと話していると、どうも脱線していく。

俺とスイが言い合いをしていると、リーファはクスッと笑い、椅子から立ち上がる。

「それだけ元気なら大丈夫ね。早く、レクトを迎えに行ってあげたほうがいいわよ。アクスが倒れてから今日で三日目だから。王都で泣いてるかもしれないわ」

え! 三日も経ってるのか!

でもスイは俺が倒れたことを知ってたよな……それにレクトが王都にいることも?

「スイ! なぜレクトを助けに王都へ行かないんだ!」

「だって、レクトには、いつも忙しいと邪険にされるでござる。レクトはイジワルでござるよ」

お前は子供か!

何とかゴネるスイを説得し、王都にいるレクトを転移で邸に連れ戻した。

そして俺はレクトから散々、泣き言を聞かされた。

これって俺が悪いのか?

王都から戻ってきて一週間が過ぎた。

昼を過ぎた頃に二台の馬車が邸に到着した。

執務室の扉が開き、リーファが部屋に入ってくる。

「コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵が来ているわよ。アクスと相談したいことがあるって」

コシヌーケ子爵領もビビルベルト男爵もカストレル連峰の一部とその麓を領地に持つ諸侯である。

俺はフレンハイム伯爵領から王都へ向かう時、コシヌーケ子爵領の領地の峠の道を利用している。

二人を無下に扱うと今後、王都へ行くのに遠回りをしないといけないからな。

俺は考えた末に椅子から立ち上がる。

「お会いしよう。二人を来客室へ通しておいてくれ」

しばらくして来客室へ向かうと、二人は必死に菓子を頬張っていた。

俺は何も見なかったことにして、手を差し伸べる。

「私がアクス・フレンハイムです。お初にお目にかかります」

「今、南部で一番勢いがあると言われている。フレンハイム伯爵の高名は我が領地まで届いております」

「フレンハイム伯爵のその威勢に私もあやかりたいモノです」

二人共、俺の手を握って、唾を飛ばして熱弁する。

悪い人達ではなさそうだが、どこか貧相な感じなんだよな。

俺は手を強引に引き抜き、笑顔を作る。

「私でよければ相談に乗りますよ」

「「フレンハイム伯爵、我等を助けてくだされ!」」
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