辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月

文字の大きさ
表紙へ
上 下
33 / 61
連載

70.アクス倒れる

しおりを挟む
王都での用事を済ませ、俺達は領都フレイムへ戻ることにした。

クレトが呆れた表情で俺を見る。

「『アクルマ一号』も『ニクルマ一号』も献上しちゃって、俺達、どうやって邸へ帰ればいいんだよ」

「別にクレトだけ走って帰ってもいいんだぞ」

「俺の足だと何カ月もかかるわ。その前に死んじゃうだろ。何か考えがあるの?」

俺は人差し指を立て左右に振る。

「スイ、出てこい」

「御意」

シュタッと天井裏から現れたスイは片膝をついて礼をする。

「皆を一人一人、邸へ転送してくれ」

「無理でござる」

「え! なんで?」

無理と言われて、俺は驚きの声をあげる。

スイは澄ました顏で話を続けた。

「人一人を転移させるのに相当の魔力が必要でござる。アンナ、カーマイン、コハルの三人まででしたら、転移させることができるでござる」

「どうしてその人選になった?」

「単なる仲良しの度合でござる。アンナは私と友達でござるし、カーマインは暇な時に私の話し相手になってくれるでござる。コハルは可愛いからに決まっておりましょう」

スイとアンナが友達になってたなんて全く知らんかったわ。

カーマインは結構、面倒見がいいからな。

コハルの可愛さ、それは神!

俺は仕方なくスイの言うことを受け入れた。

「わかった。クレトとリーファは何とかしよう」

「御意」

スイは立ち上がると、アンナ、カーマイン、コハルを順番に一緒に転移していった。

俺はリーファと向き合う。

「ここで見たことは内緒にしてくれるか?」

「何? 言うなと言われたら、言わないわよ」

リーファはコクコクと大きく頷く。

「それじゃあ、俺がジャンプした時に、俺の体に捕まってくれ。

「ジャンプ?」

「いいから、やるんだ」

俺は両手を真っ直ぐに上げ、グルグルと回転させる。

そして、体の力を抜いていき、膝を屈めて、カエルのように真上に飛び上がった。

その瞬間にリーファが俺の体にしがみつく。

「領都の邸へ!」

視界が真っ白になり、次の瞬間に、俺達は執務室に座り込んでいた。

そしてリーファは俺の顔を指差して、大声で笑い転げる。

「アハハハ、何? あのポーズ! カエルみたいだったわよ!」

「うるさい。ああしないと転移魔法が使えないんだよ」

笑い転げるリーファを放置して、俺はソファに座ろうと立ち上がる。

しかし、目の前がグルグルと回転して、そのまま倒れてしまった。

慌てたリーファが俺に近寄る。

「ちょっと、大丈夫なの? アクス?」

「ああ……ちょっと、二人で転移したから魔力切れ……らしい……」

俺はそう言い残して、意識を手放した。

俺が目を覚ますと、私室のベッドで寝かされていた。

そしてベッドで、リーファが椅子に座ったまま眠っている。

「アクス様がずっと寝込んでいる間。リーファ様は凄く心配されて、ずっと看病されていたのですよ」

私室の片付けをしていたセバスがにこやかに答える。

俺は上半身だけベッドから起き上がり、セバスに礼をする。

俺とセバスの声が聞こえたのか、リーファが目を覚ました。

「あれ? アクス、目が覚めたのね。心配したのよ」

「ずっと付きっきりで様子を見てくれてたんだってな。ありがとう」

「でも、魔力切れは怖いからね。そのまま意識不明になるケースもあるぐらいだか」

えー何それ? 全く知らなかったよ。

これからは魔力切れにならないように転移魔法を使わないとな。

すると天井の板がスーッと動き、スイが顔を出した。

「主よ。体力をつけるでござる。体力が上がれば、運動できるエネルギーが増える故、魔力量も少しは増えるでござる。もしくは服を脱ぐでござる。その分だけ重さが減るので、転移に使う魔力量も減るでござるよ」

「毎回、転移する度に服を抜いでいられるか」

「夜の体力作りであれば、拙者がお相手つかまつる」

「そんなことしないわ!」

スイと話していると、どうも脱線していく。

俺とスイが言い合いをしていると、リーファはクスッと笑い、椅子から立ち上がる。

「それだけ元気なら大丈夫ね。早く、レクトを迎えに行ってあげたほうがいいわよ。アクスが倒れてから今日で三日目だから。王都で泣いてるかもしれないわ」

え! 三日も経ってるのか!

でもスイは俺が倒れたことを知ってたよな……それにレクトが王都にいることも?

「スイ! なぜレクトを助けに王都へ行かないんだ!」

「だって、レクトには、いつも忙しいと邪険にされるでござる。レクトはイジワルでござるよ」

お前は子供か!

何とかゴネるスイを説得し、王都にいるレクトを転移で邸に連れ戻した。

そして俺はレクトから散々、泣き言を聞かされた。

これって俺が悪いのか?

王都から戻ってきて一週間が過ぎた。

昼を過ぎた頃に二台の馬車が邸に到着した。

執務室の扉が開き、リーファが部屋に入ってくる。

「コシヌーケ子爵とビビルベルト男爵が来ているわよ。アクスと相談したいことがあるって」

コシヌーケ子爵領もビビルベルト男爵もカストレル連峰の一部とその麓を領地に持つ諸侯である。

俺はフレンハイム伯爵領から王都へ向かう時、コシヌーケ子爵領の領地の峠の道を利用している。

二人を無下に扱うと今後、王都へ行くのに遠回りをしないといけないからな。

俺は考えた末に椅子から立ち上がる。

「お会いしよう。二人を来客室へ通しておいてくれ」

しばらくして来客室へ向かうと、二人は必死に菓子を頬張っていた。

俺は何も見なかったことにして、手を差し伸べる。

「私がアクス・フレンハイムです。お初にお目にかかります」

「今、南部で一番勢いがあると言われている。フレンハイム伯爵の高名は我が領地まで届いております」

「フレンハイム伯爵のその威勢に私もあやかりたいモノです」

二人共、俺の手を握って、唾を飛ばして熱弁する。

悪い人達ではなさそうだが、どこか貧相な感じなんだよな。

俺は手を強引に引き抜き、笑顔を作る。

「私でよければ相談に乗りますよ」

「「フレンハイム伯爵、我等を助けてくだされ!」」
しおりを挟む
表紙へ
感想 63

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

笑福音葉 🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。