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58.ファンゴ湿地の戦い
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俺はすぐにコーネリウス伯爵領との国境から、領都までの間にある街々へ指示する書類を書く。
そしてジークが呼び寄せた鳥達の足に結びつけ、各街の警備兵の詰所と私兵の屯所まで飛んでもらった。
それから俺は執務室へジェシカ、ハミルトン、フランソワの三人を呼んだ。
ハラデテール伯爵、コビヘラート男爵、コーネリウス伯爵が自領へ攻めてくることを話すと、三人の表情が厳しく変わる。
続けて戦略について話をすると、ハミルトンが一歩前に出た。
「ファンゴ湿地の湿地はそれほど深くありません。膝下ぐらいしか埋まりませんが」
「それでいいんだ。そのほうがいい。兵士も馬も強引に歩こうとして体力を消耗するからな」
「我等の私兵も戦いにくいのでは?」
「それについては対策は立てている。領都を出るまでには間に合うはずだから安心してほしい」
俺は三人を見回して、敵軍が領内まで攻めてきた時の作戦を話した。
三人が執務室を去った後、俺は倉庫にいるドルーキンとカーマインの元へ向かう。
俺が倉庫に着くと、カーマインとドルーキンは『ズキューン(改)』を整備している最中だった。
俺はゆっくりと歩きながら二人へ話しかける。
「今回、ドルーキンもカーマインも、二人とも戦に連れて行くつもりはない。二人は残って領都を守ってくれ。それと湿地用のかんじきを作ってくれないか?」
「かんじきって何だ?」
ドルーキンは不思議そうにまぶたをパチパチと動かす。
俺は二人にかんじきを説明する。
するとカーマインは胸の前で腕を組み、大きく頷く。
「なるほど靴底の面積を大きくするのか」
「脱着機能もつけておこう」
二人はアイデアを出し合い、嬉々として湿地帯用のかんじきを作り始めた。
そして翌日から湿地帯用のかんじきの量産を開始した。
それから二日後、執務室の天井裏からスイが下りてきて、俺の前に片膝を着く。
「ハラデテール伯爵の調査を終えました。伯爵はケーキの食べ過ぎと、酒の飲み過ぎで糖尿病でござる。ちなみに正妻が1人、側室5人、全員が太っていて病気でござるよ」
「そんな情報はどうでもええわい!」
俺は手を振り回して声を荒げる。
戦が前の忙しい時に、いらん情報を持ってくるな!
突っ込みをスルーしてスイは懐から紙の束を取り出して、俺に手渡す。
その書類を内容を読むと、ビッシリとハラデテール伯爵の情報が書かれていた。
俺は目を見開いてスイに問いかける。
「先のトルーデント帝国が侵攻して、ザカリア砦が落とされたのは、ハラデテール伯爵の手引きだったのか」
「御意。ハラデテール伯爵はトルーデント帝国と内通し、リンバインズ王国の情報を売っていたでござる」
俺は書類の束をスイに渡し、低い声で命じる。
「この書類をレイモンドへ見せてくれ」
「御意」
スイは深く礼をすると、そのまま転移で姿を消した。
それから三週間後、ジークの情報ではハラデテール伯爵軍とコビヘラート男爵軍は、コーネリウス伯爵領に近づいたということだ。
俺は陣を先に敷いて、敵軍を迎え撃つことにした。
フレンハイム伯爵軍は領都を出発し、コーネリウス伯爵領との境界線を目指して行軍する。
領地の境界線の近くで、敵軍をファンゴ湿地へ誘いこむため、ジェシカの部隊は布陣した。
ジェシカの部隊と別れたフレンハイム伯爵領軍はファンゴ湿地にへ向かう。
そして領都を出て二週間後、湿地帯の中で、一番大きな湿地を目の前に陣を構えた。
先鋒部隊をフランソワ、中央部隊をハミルトン、本陣を俺が指揮する作戦だ。
天幕の中で俺が座っていると、ジークが入口の布を開けて入ってきた。
「コーネリウス伯爵軍、ハラデテール伯爵軍、コビヘラート男爵軍の連合軍がコーネリウス伯爵領の領都を発った。二週間ほどでジェシカ部隊と交戦に入るぞ」
とうとう戦が始まるんだな。
何度経験しても戦はイヤだけど、今更、ナシとはいえないよな。
俺は土魔法士を中心とした工兵部隊に命じ、リーファとオーラルと練った作戦を実行に移す。
連合軍がコーネリウス伯爵領を出てから二週間後、予想通りに連合軍とジェシカ部隊が交戦を開始した。
そしてジェシカ部隊は徐々に後退を始め、連合軍をファンゴ湿地まで誘導してくる。
俺はそれぞれの部隊に配置に着くように指示を出した。
ファンゴ湿地へ到着したジェシカ部隊は大きな湿地を避け、遠回りをするように撤退する。
連合軍の先鋒であるコーネリウス伯爵軍は、ジェシカ部隊の動きを無視して、俺達がいる天幕めがけ湿地帯へと進軍してきた。
大きな湿地へ敵軍が足を踏み入れた途端、動きが大幅に鈍る。
敵軍の弓兵、騎兵隊、重歩兵は、湿地の泥に足をもつれさせ、役に立たない。
それでも必死に、敵軍は前進を進める。
大きな土嚢の島の上に登って待機していたフランソワの率いる先鋒部隊と敵兵達の戦いが始まる。
この土嚢の島は開戦前に兵士達に命じて作っておいたものだ。
フレンハイム伯爵軍の兵士達は湿地用のかんじきを履いているので、普段の通りに行動することができる。一方、連合軍の兵士達は、足が鈍り、バタバタと斬られていく。
フランソワは隆々とした筋肉を利用し、大剣を一振りするごとに敵兵三人を吹き飛ばす。
「オラオラオラ、弱っちい攻撃してんじゃないわよ! ゴラァ!」
敵兵士達は、フランソワと先鋒部隊がいる一つ目の島を占拠するのを断念し、迂回するように本陣を目指してくる。
二つ目の土嚢の島に近づくにつれ、敵兵達の動きがガクっと落ち、一歩一歩、足を強引に抜いて歩いてくる。
これはリーファの発案で、湿地の泥を天幕へ近づくほど少しずつ重くなるように、土魔法で泥の質を変化させていたのだ。
動きの鈍る敵兵達にハミルトン率いる中央部隊が牙を向く。
味方の兵は湿地用のかんじきの効果で動きが鈍ることはない。
ハミルトンは剣で敵兵を薙ぎながら、周囲の兵達を鼓舞する。
「敵は策にハマって動けない! 油断せずに確実に仕留めろ! フレンハイム伯爵領を侵略しようとする敵を見逃すな!」
そしてジークが呼び寄せた鳥達の足に結びつけ、各街の警備兵の詰所と私兵の屯所まで飛んでもらった。
それから俺は執務室へジェシカ、ハミルトン、フランソワの三人を呼んだ。
ハラデテール伯爵、コビヘラート男爵、コーネリウス伯爵が自領へ攻めてくることを話すと、三人の表情が厳しく変わる。
続けて戦略について話をすると、ハミルトンが一歩前に出た。
「ファンゴ湿地の湿地はそれほど深くありません。膝下ぐらいしか埋まりませんが」
「それでいいんだ。そのほうがいい。兵士も馬も強引に歩こうとして体力を消耗するからな」
「我等の私兵も戦いにくいのでは?」
「それについては対策は立てている。領都を出るまでには間に合うはずだから安心してほしい」
俺は三人を見回して、敵軍が領内まで攻めてきた時の作戦を話した。
三人が執務室を去った後、俺は倉庫にいるドルーキンとカーマインの元へ向かう。
俺が倉庫に着くと、カーマインとドルーキンは『ズキューン(改)』を整備している最中だった。
俺はゆっくりと歩きながら二人へ話しかける。
「今回、ドルーキンもカーマインも、二人とも戦に連れて行くつもりはない。二人は残って領都を守ってくれ。それと湿地用のかんじきを作ってくれないか?」
「かんじきって何だ?」
ドルーキンは不思議そうにまぶたをパチパチと動かす。
俺は二人にかんじきを説明する。
するとカーマインは胸の前で腕を組み、大きく頷く。
「なるほど靴底の面積を大きくするのか」
「脱着機能もつけておこう」
二人はアイデアを出し合い、嬉々として湿地帯用のかんじきを作り始めた。
そして翌日から湿地帯用のかんじきの量産を開始した。
それから二日後、執務室の天井裏からスイが下りてきて、俺の前に片膝を着く。
「ハラデテール伯爵の調査を終えました。伯爵はケーキの食べ過ぎと、酒の飲み過ぎで糖尿病でござる。ちなみに正妻が1人、側室5人、全員が太っていて病気でござるよ」
「そんな情報はどうでもええわい!」
俺は手を振り回して声を荒げる。
戦が前の忙しい時に、いらん情報を持ってくるな!
突っ込みをスルーしてスイは懐から紙の束を取り出して、俺に手渡す。
その書類を内容を読むと、ビッシリとハラデテール伯爵の情報が書かれていた。
俺は目を見開いてスイに問いかける。
「先のトルーデント帝国が侵攻して、ザカリア砦が落とされたのは、ハラデテール伯爵の手引きだったのか」
「御意。ハラデテール伯爵はトルーデント帝国と内通し、リンバインズ王国の情報を売っていたでござる」
俺は書類の束をスイに渡し、低い声で命じる。
「この書類をレイモンドへ見せてくれ」
「御意」
スイは深く礼をすると、そのまま転移で姿を消した。
それから三週間後、ジークの情報ではハラデテール伯爵軍とコビヘラート男爵軍は、コーネリウス伯爵領に近づいたということだ。
俺は陣を先に敷いて、敵軍を迎え撃つことにした。
フレンハイム伯爵軍は領都を出発し、コーネリウス伯爵領との境界線を目指して行軍する。
領地の境界線の近くで、敵軍をファンゴ湿地へ誘いこむため、ジェシカの部隊は布陣した。
ジェシカの部隊と別れたフレンハイム伯爵領軍はファンゴ湿地にへ向かう。
そして領都を出て二週間後、湿地帯の中で、一番大きな湿地を目の前に陣を構えた。
先鋒部隊をフランソワ、中央部隊をハミルトン、本陣を俺が指揮する作戦だ。
天幕の中で俺が座っていると、ジークが入口の布を開けて入ってきた。
「コーネリウス伯爵軍、ハラデテール伯爵軍、コビヘラート男爵軍の連合軍がコーネリウス伯爵領の領都を発った。二週間ほどでジェシカ部隊と交戦に入るぞ」
とうとう戦が始まるんだな。
何度経験しても戦はイヤだけど、今更、ナシとはいえないよな。
俺は土魔法士を中心とした工兵部隊に命じ、リーファとオーラルと練った作戦を実行に移す。
連合軍がコーネリウス伯爵領を出てから二週間後、予想通りに連合軍とジェシカ部隊が交戦を開始した。
そしてジェシカ部隊は徐々に後退を始め、連合軍をファンゴ湿地まで誘導してくる。
俺はそれぞれの部隊に配置に着くように指示を出した。
ファンゴ湿地へ到着したジェシカ部隊は大きな湿地を避け、遠回りをするように撤退する。
連合軍の先鋒であるコーネリウス伯爵軍は、ジェシカ部隊の動きを無視して、俺達がいる天幕めがけ湿地帯へと進軍してきた。
大きな湿地へ敵軍が足を踏み入れた途端、動きが大幅に鈍る。
敵軍の弓兵、騎兵隊、重歩兵は、湿地の泥に足をもつれさせ、役に立たない。
それでも必死に、敵軍は前進を進める。
大きな土嚢の島の上に登って待機していたフランソワの率いる先鋒部隊と敵兵達の戦いが始まる。
この土嚢の島は開戦前に兵士達に命じて作っておいたものだ。
フレンハイム伯爵軍の兵士達は湿地用のかんじきを履いているので、普段の通りに行動することができる。一方、連合軍の兵士達は、足が鈍り、バタバタと斬られていく。
フランソワは隆々とした筋肉を利用し、大剣を一振りするごとに敵兵三人を吹き飛ばす。
「オラオラオラ、弱っちい攻撃してんじゃないわよ! ゴラァ!」
敵兵士達は、フランソワと先鋒部隊がいる一つ目の島を占拠するのを断念し、迂回するように本陣を目指してくる。
二つ目の土嚢の島に近づくにつれ、敵兵達の動きがガクっと落ち、一歩一歩、足を強引に抜いて歩いてくる。
これはリーファの発案で、湿地の泥を天幕へ近づくほど少しずつ重くなるように、土魔法で泥の質を変化させていたのだ。
動きの鈍る敵兵達にハミルトン率いる中央部隊が牙を向く。
味方の兵は湿地用のかんじきの効果で動きが鈍ることはない。
ハミルトンは剣で敵兵を薙ぎながら、周囲の兵達を鼓舞する。
「敵は策にハマって動けない! 油断せずに確実に仕留めろ! フレンハイム伯爵領を侵略しようとする敵を見逃すな!」
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