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43.人口増加

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レイモンドの別邸の庭で『物語イベント』が開催された。

しかし、俺の企画ミスにより、場はシーンと静まり返っている。

俺は心の内で冷や汗を流す。

この冷え冷えした空気を何とかしなければ……

俺は咳ばらいを一つして出演者達を見た。

「これにて「アピールタイム』を終了したします。これより「交流タイム』に入ります。出演者の方々は自由に交流を深めてください」

なんとか審査員であるエルナ、アンナ、クレアの三人が、参加者の物語を読み終えるまでは、時間を作らないと。

そこで俺は隣でニヤニヤしているレイモンドの肩を握る。

「俺は審査員三人の援護をしてくるから、レイモンドは出演者達を頼む」

「いいですよ。何もすることないですからね」

出演者達をレイモンドに任せ、俺はステージにいる三人の隣に座る。

そしてクレアの前に置かれている、羊皮紙の束を手に取って速読を始めた。

どの作品も拙いが個性があって面白いな。

俺が読むことに集中していると、庭で参加者の男女が言い合いを始めた。

それをレイモンドが仲裁に入っている。

二人が揉めている様子を見ていた俺へ、隣に座っているクレアが話しかけてくる。

「書き手って、自分の作品を子供のように愛していますから、作者同士がぶつかることって、よくあるんですよ。しばらくすれば仲直りしますから大丈夫です」

そういえば前世の日本でもクリエイター同士って、よく揉めるって聞いたことがあったな。

しばらくすると揉めていた二人も、冷静になったのか仲良く話し始めた。

それから二時間後、いよいよ結果発表となった。

審査委員長のエルナは演壇の前に立つ。

「結果発表を行います。それぞれの作品を読ませていただきました。どれも個性的で面白い物語ばかりです。私の結果は、どの作品も最高ー! 私には選べないわ! みんな愛してる!」

エルナの発表を聞いて、俺は愕然と体の力が抜ける。

そういえば、エルナは小説のことになると、おバカになるんだった!

俺はしかたなく、アンナの隣まで行き、目で合図を送る。

すると意図を察したアンナは演壇まで歩き、一位から三位までの受賞者を発表をおこなった。

俺はパチパチと拍手をした後に演壇へ向かう。

「これにてコンテストを終了する。一位から三位までの受賞者には、賞の報酬として、こいはる商会が作品が本にし、本屋『こもれび』で販売することを確約します」

俺の言葉を聞いて庭に座っていた参加者達は立ち上がり、盛大な拍手をする。

拍手が鳴りやまぬ中、俺は話を続けた。

「参加者の皆さんの中で、書き手として雇用されたい方は個人面談いたしますので、後ほど審査員にお声をかけてください。これにてコンテストを終了いたします」

俺がステージから下りると、レイモンドが楽しそうの笑む。

「書き手の募集が目的だったんですね。アクスは貴族よりも商人になったほうが大成しそうですね」

「俺も時々そう思うよ」

イベント終了後、参加者の中から七人が個人面談を希望し、俺は七人すべてを採用することに決めた。

そして、レイモンドの別宅に泊まることになった俺は、こいはる商会について説明し、 エクムント辺境伯領でも、本屋『こもれび』が事業展開することになった。

それから二日後、俺達は王都から帰路についた。

旅は順調に進み、一カ月後に邸へと帰ってきた。

雪がチラホラ積もり、季節は冬真っ只中である。


邸に帰ってきたアンナとクレアは新作の執筆に入った。

王都から来た書き手達は、こいはる商会の使用人として製本作業をしている。

カーマインとドルーキンは、その指導係だ。

リリーとエルナは本屋『こもれび』で元気に接客を行っていた。

執務室へこもり書類整理に追われている。

俺は事務作業をする手を止め、大きく息を吐く。

すると一緒に作業をしていたオルバーンが椅子から立ち上がった。

「邸に戻って来てから仕事続きですからね。紅茶でも入れましょう」

「ありがとう。助かるよ」

一度グンと背中を伸ばして気を取り直してた俺は、書類を数枚持ってヒラヒラとさせる。

「俺が領都を留守にしている間に、領民が急激に増加してるなんて思ってもみなかったよ」

「ええ、私も調査表を読むまでは、全く把握していませんでした」

机に紅茶を起きながら、オルトバートは深く頷く。

報告書によれば領都の人口は四割増加、領内全体では三割の増加となっている。

オルトバートは片腕を広げて俺を見た。

「増加した人口のほとんどが人族です。ルッセン砦の戦いに敗北してから、領内の人族の人口は現象していたのですが、急に増加を始めたようです。原因はフレンハイム子爵領の景気と思われます」

ルッセン砦の戦いに破れ、街は荒廃し、その時の小麦の収穫は不作だった。

そこで俺は施作として領内の税を減らしていた。

トルーデント帝国軍を撤退させてから、私兵団の兵士の補強、鉱山の鉱夫の増員、ゴミ焼却場、印刷工場、パピルス村の製紙工場のなどの稼働など、領内の雇用が増えている。

今年になって小麦の収穫も例年通り、王宮へ定期的に『ぱぴるす』を卸しているため、資金繰りも順調。

他の領地から見れば、 フレンハイム伯爵領は景気が良く感じるのかもしれない。

実情は出費もそれなりにあったので、それほど儲かってはいないけどな。

俺は書類を見ながら、ため息をつく。

「この人口の増加が続けば、今の領都の規模では領民が溢れてしまうぞ」

「食料などはまだ余裕はありますが、新しく領民の住居がありません」

住む場所がなければ、路上や外壁の外に人が溢れる。

それでは難民問題と同じじゃないか。

俺は椅子から立ち上がって、窓の外を眺める。

「やはり領都の拡大しか方法はなさそうだな」

俺が伯爵に昇爵したことは、すぐに噂となって南部諸侯達の耳に入るよね。

この時期に領地の増築なんてしたら、また悪目立ちするだろうな。

別に気にしないけどね。
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