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第一章 復讐の少女。

第十六話 炎帝討伐の影響

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 魔王城、《ラグロア城》内。

 私は苛立たしげに自慢の銀髪をかきあげ、王室に続く廊下を歩いていた。

「遅すぎる。いつになったら戻ってくるんだ、あの脳筋はッ」

「あれ? どーしたの《黒龍騎士ダークドラグーン》。そんなに苛々して。もしかして炎帝のおっちゃんに負けたのー?」

 愚痴を溢していると不意に話しかけられた。

 振り向くとそこには二人の吸血鬼ヴァンパイア。燃え上がるような赤い髪のニヤニヤする少女と、凍てつくような青い髪の少女。

「何の用だ、《熱血鬼》、《冷血鬼》。私はお前達には用はないぞ」

 この二人は炎帝の子分だ。嫌な奴と顔を会わせてしまった。

 私と炎帝は互いに競い会う仲だ。その炎帝の子分二人は何かと私を目の敵にして突っかかってくる。

「私は魔王様に呼ばれたから」

「私もだよー。ただ苛々してる黒龍騎士を見かけたからさー、気になっただけさー」

 冷血鬼は物静かだが熱血鬼はこれだ。本当に面倒な奴。

「お前達もか。私も魔王に呼ばれた」

「えッ、黒龍騎手も? なんだろうねー、幹部であり魔王の側近である騎士様と私達が呼ばれるなんて珍しーし。もしかして幹部格交代とかかなー」

「ほざけ、さっさといくぞ」

 私が半分無視し歩き出すと、トタトタと吸血鬼二人が着いてくる。

 だがしかし....確かに珍しいな。何処かへ攻め入るのなら幹部格だけを集めればいいだろうに。
 この二人は実力はあれど幹部では無い。

 何があったのだろうか。


「失礼します」

 大きな扉を開き、王室内に入る。

 王室内は壁に掛けられた魔導具によって生み出される光で赤く照らされている。

 真紅のカーペットの先の王座の上に、大きな力を内に秘めた者が一人。

 魔王だ。
 魔王は体に大きなローブを巻き、端からではどの様な体つきも分からず、顔には純白の仮面をつけている為に人相も窺えない。

 普段見せないその素顔を幹部は謁見する機会も度々あるが、今回はその仮面で隠されている。

「何の用ー? 私達と黒龍騎手が一緒なんてことは珍しいけど?」

 熱血鬼がそう無礼な態度で聞き、冷血鬼もそれに頷く。

 すると魔王は男とも女とも聞こえ、幼い子供にも年老いた老人にも聞こえる、くぐもった声でゆっくりと答えた。

「......熱血鬼、冷血鬼。お前達を幹部格へ昇格する。そしてリズ....いや、黒龍騎手。まだ先だが....私の目で確認したいことがある。詳しくはまた話す、その時まで待機しておけ......以上だ」

 少しの間、沈黙が流れる。

「えッ!? 私達、幹部になったのー!? 嘘ッ、やったねー、冷血鬼!!」

 熱血鬼がおおはしゃぎし、冷血鬼も珍しく興奮した様子でコクコクと激しく首を縦に振っている。

 しかし、私は納得出来ていない。

「どういうことですかッ!? 急に昇格だなんて....理由を聞かせてくださいッ!!」

 幹部への昇格は簡単ではない。
 大きな実力持つ者、功績を残した者、他のものでは賄えない稀有な能力を秘めたものなど....そういった他にない者が幹部として名乗ることを許される。

 確かにこの二人の実力は確かだが、急に昇格など.....

「幹部の枠に穴が空いた、それだけだ。幹部に枠空いたと他の国の魔族の王に知られ調子に乗られても面倒だ、幹部の枠を埋める必要があったのだ。ちょうどあの二人は幹部に足る力を有している....」

 幹部の枠に穴が......? これ以上答えるつもりがないのか、魔王は黙る。

「......一つ、質問していいですか」

「なんだ」

「あの脳筋....炎帝はまだ帰ってこないのですか?」

 私がそう聞くと、吸血鬼姉妹もそれに乗ってくる。

「そうだー!! 炎帝のおっちゃんはまだ帰ってこないのー?」

「....そうです。私達に名付けをした魔王様なら、炎帝のおじ様の居場所は大体把握できるはずです。教えてください」

 すると魔王は少し顔を伏せ、黙った。

「魔王? どうしたんですか?」

「......死んだよ」

 仮面越しでもわかる、普段とは少し違う声音で....どことなく憂いを感じる声で一言そう言った。
  
 なにを言っているか分からなかった。

「何をいってるんですか!? あの炎帝ですよ。アイツは脳筋ですが、そんじょそこらの雑魚に負けるような玉じゃない」

 アイツを殺せるのは同じ魔王軍の幹部か、《覇王》や《断罪火》、人間の王や他の王などの種族の頂点に立つ王の実力者ぐらいだッ。

「そうだよッ。おっちゃんが行った場所には炎帝の力を押さえれるような奴は居ないはずだよーッ!!」

「....そうですよ。そんなのが居たら、私達の耳に入るはずですよ....ッ」

 姉妹もそう言うが、魔王はそれに対して何も言わない。

「......本当に....アイツが死んだのか....」

 やはり信じられない。元オーガの首領、魔王軍のパワーファイターであったアイツが死ぬことは誰も考えた事がない。

「一体誰が....ッ」

 そう呟くと、魔王から返答が来た。

「恐らく......私に次ぐ存在...。新たに資質を持つ者が転生してきたのだろう」

 それを聞き、私達の表情が引き締まる。

 魔王と同じ存在。それは要するに....。

 魔王は何か、見えないものを見るかのように仰ぐ。

「そうか....遂に来たんだな......」

「....魔王?」

 私が呼び掛けると、再び私達へ視線をもどした。

「熱血鬼、冷血鬼。お前達は炎帝の埋め合わせだ。そして黒龍騎士、いつでも出発できるように準備をしておけ」

「「「分かりました」」」

「......もう下がっていいぞ」

「はい....失礼します」

 私達が王室を離れるため扉に手をかけて閉めようとしたとき、魔王が仮面を外して、か細い少女の声で呟いていた。

「........千鶴....」


━━━━━━━━━━━━━━

 
人間ヒューマンと魔族が共存する国、《シノネア王国》。

 その一室には一人の女性と、男性が向かい合っていた。

 女性は通信し終えた念話石を机に起き、男性に語りかけた。

「今アカツキさんと一期いちごさんから連絡が付きました。どうやら炎帝は何処かへ姿を消したそうです」

「ああ? あのデカ物がか。チッ、よく探させろ。アイツは大人しく帰ってくれるようなやつでもなし、隠れて不意討ちするほど器用な奴じゃねぇ」

 男性はそう吐き捨てた。

「そうですね、私も同感です」

 女性もそれに同意した。だがその表情は優れない。

 それに気づいた男性は女性に問いかける。

「まだ何かあんのかよ。言いたいことがあるならハッキリといいやがれ」

 そう問い出すと女性は口を開く。

「あの新たな魔王が君臨してもう三年ほど立ちましたよね。だとしたら、そろそろあの素質を持つものが現れてもおかしくない。もしその者が転生していれば、炎帝を倒していてもおかしくないと思いまして」

「ふん、覇王の俺や断罪火のお前でも勝つ事は難しい相手にか。だが、まぁ....これまでの歴史通りのストーリーをなぞるなら、確かにおかしくはないな」

 そう男性、《覇王》はニヤリと笑う。

「もしソイツが現れたんなら、手合わせ願い
てぇなぁあ?」

 そんな覇王を咎めるような視線を向ける《断罪火》が話す。

「私達は戦うだけが仕事では有りませんよ。もしその者が転生してきたのならば、これ迄と同じ道を辿らないように私達が手を差しのべるのです」

「....チッ、わーてるよ。この《覇王》である項羽に、《断罪火》のジャンヌ様がいればだいじょーぶだって。なぁ?」


 こうして少しずつ、少しずつと....炎帝討伐の影響は広がる。
 クレインの異世界での生活の始まりは終わり、新たな物語へ向かい始める。
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