14 / 25
第一章 復讐の少女。
第十二話 死と贈物
しおりを挟む
あれから数分後、俺とステーデの二人は村へ帰るために木に囲まれた道を歩いていた。
気まずい空気が流れ、お互いに無口な状態だ。
何か気のきいた言葉を掛けてやりたいけど....さっきあんなことが合ったばかりじゃな....。俺がチキンな訳じゃないぞ、同じ立場になれば皆理解出来るって。....いや、やっぱり俺はチキンかも....。
俺が一人うじうじしていると、おずおずとステーデが俺に話かけてきた。
「あの、クレイン....さん。さっきは本当にすみませんでした。謝って許されることじゃないのは分かっています。ですから、その......私にできることであれば何でも......」
「い、いや別にいいよ。確かにすっごい、もうこれまで感じたことがないくらい痛かったけどさ、腕も戻ったし傷も治った。お前とも和解できたし十分だ」
「で、でも」
「良いんだって。じゃあ、これ以上しつこく謝ってくるなら許さないっ、てのでよろし?」
あの争いからずっと気にしてたらしい。まぁ俺も気にしてて気まずい思いしてたから攻めれないんだけどな。
彼女はまだ納得仕切れてない様子だったが遂には頷いた。
「さ、最後に、その....本当に傷は大丈夫何ですか? 再生スキルを持つ者でもあれほどのダメージは後遺症が残ることもあるので......心配なんです」
そんなものなのか。
俺は左腕の引きちぎられた場所を見て、何度か動かしてみたが何の違和感も無い。
「うん、全然大丈夫。何の問題もない....筈だよ」
「筈?」
「ああ。何度か軽い切り傷とかはしたことはあるけどここまで大きい傷を負ったのは初めてだからな、今の感覚でしか言えないんだよ」
「そう、なんですか....。でも、無事なら良かったです」
そう言い、ステーデは少し気が楽になったのか肩を少し落とす。
んー、ステーデにもそろそろ俺のスキルと転生について話しておこうかな。傷について安心させるのもそうだし、さっきも後で話すと伝えたばかりだ。話していない事を伝える事で生まれる信頼も多少はできるだろ。
「ステーデ、俺のスキルについてと、もうひとつ伝えたい事があるんだけどな....」
俺が、スキル【不老不死】と【肉体超再生】を所持していることや、自分が転生者だと言うことを全て伝えると彼女は目を見開いて驚いた。
「クレインさんは転生者だったんですか!? 通りであんな特殊なユニークスキルを持っていたり美味しい食べ物を知ってる訳なんですね....」
「うん、美味しい食べ物は関係無いね。実際ここの食べ物、結構美味しいぞ」
「そうですか? 僕、お肉しか食べなくて....舌が少し肥えてるんですよ。それでも美味しいと感じるのはクレインさんの料理が美味しい証拠です!!」
ん、うん。なんか凄いべた褒めされたな。嬉しいけど、それはやっぱり転生関係無いよね。
ていうか初めて会ったときから思ってたけど、ステーデは本当に食べ物が好きだな。
それからは、さっきまでの事など気にせずにお互いの事を話し合った。
「あの、クレインさん」
ステーデが真剣な顔で俺の事を見つめ、切り出してきた。
「さっき、最後に言っていた事なんですけど....僕に協力してくれるんですよね」
「ん、ああ。勿の論だ。魔王軍全体を相手にするのは無謀だけど、幹部一人が相手....何れぐらいやれるか分からないけど手伝うよ。やっぱりこう言うのも主人公っぽいしな」
「そう、ですか。でも止めないんですか? 危険だからとか、復讐に意味がないとかで」
「ん、まぁ最初はそういって止めるべきかとも考えたけどな、あそこまで行動する相手にこんなこと言っても止まらんだろ? だから、な。せめてお前を死なせないぐらいの事はしたいと思っただけだよ
それに....。あの夜の約束を思い出す。
「それに、前世のだけど、ある幼なじみの女の子約束したからな。全てを守れる主人公になるってな」
今の俺の力じゃ、全てを守れない。でもせめて、自分の仲間ぐらい守らないとな。それさえ出来ないなら、主人公失格だ。
「と言うわけで、自分はヒロイン探してるわけよ。お前を守るのはその一環....と、俺の我が儘だ」
そう言うと彼女は少し拗ねた感じで顔を背けた。
「......分かりました。要するに僕を守るのは、その幼なじみさんとの大事な大事な約束を守る為なんですね。そうですか、僕はただの踏み台ですか、僕をヒロインとして考えての行動じゃないのですか、そうですか」
何だかステーデさんが拗ねてらっしゃる....。ぷんすかっ、と擬音が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「あのー、ステーデさん? 何をそこまで怒ってらっしゃるのですか?」
「気づかないならいいですッ」
「ええぇ....」
......本当に分からんな、女の気持ち。
何に怒っているのかもう一度聞くべきかどうか悩んでいると、道の先から複数の人影が走っているのが見えた。ステーデも気づいたようで、二人で一度立ち止まる。
「あれは....エルフの村の人たちだな」
村人、それも幼い子供や女性、年寄りがこちらへ、何かを恐れるかの様に村の方角を気にしながら走っている。
「おーいっ!! どうしたんだ!?」
俺が声をかけるとあちらも気づいたようで若い人達が急いで近づいてくる。
「レインちゃん!! 大変なんだッ。村に、村に魔王軍が襲ってきたんだ!!」
「はぁ!? 何でだよッ」
魔王軍が村を襲っている。何でだと思ったのは一瞬、直ぐに心当たりを思い出す。
三日前の夜、あの時に魔王軍の兵、黒兵とやり合ったばかりだ。その報復か、もしくは....。
チラッとステーデの顔を見ると、彼女も心当たりがあるようだ。
もしくは....ライカンスロープの生き残りであるステーデを探しに来た、といういう可能性。
「....今、村はどんな状況だ」
「戦える者が黒兵と応戦しているが時間の問題だ。黒兵だけなら何とか数で押せたかも知れないが......」
「どうしたんだ」
「....炎帝が現れた。村の建物に火が移って大惨事、戦っている者達も太刀打ち出来ない....んじゃないかと」
炎帝。その名を聞いた瞬間背後のステーデから殺気が溢れてきたのを感じた。それを手で制する。
このまま感情に任せて行かせても、無駄死にするだけ....
ここまで考えていた俺は、次の話を聞き思考を止めた。
「エレンちゃん、あの娘も駆り出された。このままだと、あの娘だけじゃない。皆の命が危n..」
最後まで話を聞かず、俺は走り出していた。エレンが魔王軍と戦う?
「あのバカ野郎!! 何で逃げようとしないんだよッ」
前の黒兵と戦ったときだって震えていたくせにッ。自分より格上の相手にビビって動けない癖に!!
後ろからステーデが走って追いかけてくる。
「クレインさん、他人は止めるのに自分は動くんですね」
「うるせっ、俺は不死だからいいんだよッ」
「....そうですか。なら僕も行きますよ、エレンさんは僕の....仲間ですから」
そういい、ステーデは俺と並行して走る。その顔は真剣だ。
「ステーデ、まだ幹部と戦うには早いだろ。行くのは俺だけでいい、エレンや村人達を逃がすだけなら一人でも出来る!!」
「別に戦うわけじゃないです。....炎帝が現れた一つの原因は僕にあるんです。それなのに、自分は何もせずにいるのが嫌なんです。避難させるだけなら僕にだって出来ます」
彼女の目は、戦う前のただただ復讐するだけに生きていた時と違った。ちゃんと真っ直ぐ前を見据える目だ。
「....分かった。なら、軽く黒兵の相手の手伝いとエレン探しを手伝ってくれ」
「はい!!」
視界の先、まだ距離はあるが煙が上がっているのが見えた。村の方からだ。
俺たちは急ぎ、村を目指した。
村にたどり着くと、あちこちで建物が燃え、黒兵とエレン達が戦っていた。
「あの時と同じだ....」
ステーデがそう呟く。
「ライカンスロープの村が襲われたときとか....」
取り敢えず今はエレンを探そう。
そう思い足を踏み入れると、暴れていた黒兵が数人立ちふさがってきた。
その黒兵の鎧には赤い血で濡れていた。
「くそッ、コイツら。邪魔すんな!!」
俺が黒兵を数人を【部分装甲】で殴り、【インパクト】で吹き飛ばすがいっこうに数が減らない。
黒兵の攻撃をかわしながら攻撃を与えるだけでも一苦労だ。
もう少し練度が高ければ«スラント·テンペスト»で数を一気に減らせたかも知れないが....
「クレインさん、三十秒間、時間を稼いでください!! お願いします!!」
別の黒兵をその手で叩き潰していたステーデが告げてくる。
この数を三十秒....仕方ないかッ。
「分かった、任せろ!!」
ステーデを後ろに下がらせ、おれが前に出る。
大剣をかわし、炎の矢をかわす。黒い鎧の巨体に«インパクト»で鎧の中に衝撃を与える。が、他の黒兵が直ぐに現れる。
あと二十秒ぐらいか? ならッ。
「清らかな水よ、命の源の恩恵の力を、我が敵を防ぐ壁となれッ【ウォーターウォール】!!」
俺とステーデの回りに水の壁が生まれ、近接攻撃を仕掛けてくる黒兵の攻撃を防ぐ。
だが、相手にもアサルトスキルを扱う者も多い筈だ、全力で魔力を注ぎ込んでいるが長くは持たないだろう。
ステーデの様子を確かめると、詠唱を続けていた。
「....半身よ、その闇の身体を今一度....」
水の壁が少しずつ薄くなっていき、裂け始めてきた。
このままでは持たない、まだか。
「....幾本もの凶器と化し、敵を刺し貫けッ」
遂に水の壁が消失し、黒兵達が押し寄せてくる。複数の武器が押し寄せて、俺達を切り裂く....ことは無かった。
いつの間にか黒兵達の足元には影が広がっており、その影から何本もの針が生え、黒兵達を鎧ごと貫いていた。
「....【シャドウニードル·キルレンジ】ッ」
周りにいた複数の黒兵達は完全に動きを封じられていた。このスキルは....
「僕の数少ない強みの一つのエクストラスキルです。範囲攻撃のスキルで詠唱が長いのがネックですがこういう時に使えます」
「俺がくらったやつか....まさか、自分を苦しめた奴に救われるとはね...」
「あうッ。ご、ごめんなさい....」
「気にすんな、終わったことだし結果オーライだ。エレンを探しに....」
探しに行こうと続けようとした俺の視界の先、道の先、建物の影から見覚えのあるエルフが座り込んでいた。
そのエルフの目の前には前世で言う和服に身を包んだ、炎を纏う一本角の大男が仁王立ちしていた
あれは....
「おい、ステーデッ!! あれはもしかしてッ」
「エレンさんと....炎帝......」
やっぱりか。炎帝は炎を纏わせた、丸太の様に大きな腕を頭上に振り上げた。
あれを降り下ろす先に要るのは、エレン。
「おい、ステーデッ。森の中へ逃げろ!! そうすればお前も姿を眩ませれるし、奴も村から離れるかも知れないッ、いいな!!」
「えっ!? クレインは....!?」
「すまん、また後でだ!!」
ステーデを置いてエレンの元へ走る。
炎帝に近づくほど熱気を感じる。
炎帝が振り上げた腕に力を入れているのが分かる。
間に合え、間に合え!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおッ!!」
俺は走る勢いをそのまま、エレンをドロップキック気味に吹っ飛ばす
やべぇ、熱いなこのおっさん。
さっきの走った勢いで走り抜けれないかな....?
あーなんかデジャブ感じ....
痛みも、熱さも感じる間もなく、俺の体は燃え尽きた。
なんかフワフワするな....。手足の感覚がない。
....どこかで似たような体験した気がする。
ああ....前に死んだ時だっけ。確かあの時は......
....魔王討伐.......だったか、俺約束したぞ。
そうだ、今と同じ真っ暗な中で、少女の声が聞こえてきて....説明受けて、魔王討伐をお願いされたんだったな。何で忘れてたんだろう。
うん、全部思い出した。....炎帝にあったには必然的だったのか?
まぁいいか....今は取り敢えず、ステーデとの約束を守らないとな。
例の【不老不死】の効果が正しいなら俺はもうそろそろで蘇るはず......
精神が身体に戻ろうとしているのか意識が朦朧としてきたぞ、こんな状況で意識もくそもない気もするけどな
....いくか。痛いのは嫌だけど、約束は守らないとな。
《報告。スキル【?????】が覚醒、【贈物】を獲得しました》
《報告。【贈物】解放条件《一度の死を迎える》を達成。【贈物】が変化、ユニークスキル【贈物·痛みの対価】を獲得しました》
《報告。【痛みの対価】の効果発動により、エクストラスキル【炎帝】を獲得しました》
なん....か、めちゃくちゃ....スキル手に入ってる....くね?
意識が体に戻り行く中、幻書の声が聞こえた。
作者から
お気に入りありがとうございます&少し落ち着こう。
まさかここまでお気に入りが増えるとは思わなんだ....。
本当は「どうせ20行けばいい感じだろうし、書いてる分だけ投稿して気まぐれに投稿しよ」とか考えていました。
うん、一応二十五話ぐらいまで書き溜めしてるので暇さえあれば投稿します。
それ以降の話は語彙力、文章力、想像力、文字数、投稿頻度共に低下してるはずですので、それでもいいという方はこれからもよろしくお願いします。
たくさんのお気に入りありがとうございます。
気まずい空気が流れ、お互いに無口な状態だ。
何か気のきいた言葉を掛けてやりたいけど....さっきあんなことが合ったばかりじゃな....。俺がチキンな訳じゃないぞ、同じ立場になれば皆理解出来るって。....いや、やっぱり俺はチキンかも....。
俺が一人うじうじしていると、おずおずとステーデが俺に話かけてきた。
「あの、クレイン....さん。さっきは本当にすみませんでした。謝って許されることじゃないのは分かっています。ですから、その......私にできることであれば何でも......」
「い、いや別にいいよ。確かにすっごい、もうこれまで感じたことがないくらい痛かったけどさ、腕も戻ったし傷も治った。お前とも和解できたし十分だ」
「で、でも」
「良いんだって。じゃあ、これ以上しつこく謝ってくるなら許さないっ、てのでよろし?」
あの争いからずっと気にしてたらしい。まぁ俺も気にしてて気まずい思いしてたから攻めれないんだけどな。
彼女はまだ納得仕切れてない様子だったが遂には頷いた。
「さ、最後に、その....本当に傷は大丈夫何ですか? 再生スキルを持つ者でもあれほどのダメージは後遺症が残ることもあるので......心配なんです」
そんなものなのか。
俺は左腕の引きちぎられた場所を見て、何度か動かしてみたが何の違和感も無い。
「うん、全然大丈夫。何の問題もない....筈だよ」
「筈?」
「ああ。何度か軽い切り傷とかはしたことはあるけどここまで大きい傷を負ったのは初めてだからな、今の感覚でしか言えないんだよ」
「そう、なんですか....。でも、無事なら良かったです」
そう言い、ステーデは少し気が楽になったのか肩を少し落とす。
んー、ステーデにもそろそろ俺のスキルと転生について話しておこうかな。傷について安心させるのもそうだし、さっきも後で話すと伝えたばかりだ。話していない事を伝える事で生まれる信頼も多少はできるだろ。
「ステーデ、俺のスキルについてと、もうひとつ伝えたい事があるんだけどな....」
俺が、スキル【不老不死】と【肉体超再生】を所持していることや、自分が転生者だと言うことを全て伝えると彼女は目を見開いて驚いた。
「クレインさんは転生者だったんですか!? 通りであんな特殊なユニークスキルを持っていたり美味しい食べ物を知ってる訳なんですね....」
「うん、美味しい食べ物は関係無いね。実際ここの食べ物、結構美味しいぞ」
「そうですか? 僕、お肉しか食べなくて....舌が少し肥えてるんですよ。それでも美味しいと感じるのはクレインさんの料理が美味しい証拠です!!」
ん、うん。なんか凄いべた褒めされたな。嬉しいけど、それはやっぱり転生関係無いよね。
ていうか初めて会ったときから思ってたけど、ステーデは本当に食べ物が好きだな。
それからは、さっきまでの事など気にせずにお互いの事を話し合った。
「あの、クレインさん」
ステーデが真剣な顔で俺の事を見つめ、切り出してきた。
「さっき、最後に言っていた事なんですけど....僕に協力してくれるんですよね」
「ん、ああ。勿の論だ。魔王軍全体を相手にするのは無謀だけど、幹部一人が相手....何れぐらいやれるか分からないけど手伝うよ。やっぱりこう言うのも主人公っぽいしな」
「そう、ですか。でも止めないんですか? 危険だからとか、復讐に意味がないとかで」
「ん、まぁ最初はそういって止めるべきかとも考えたけどな、あそこまで行動する相手にこんなこと言っても止まらんだろ? だから、な。せめてお前を死なせないぐらいの事はしたいと思っただけだよ
それに....。あの夜の約束を思い出す。
「それに、前世のだけど、ある幼なじみの女の子約束したからな。全てを守れる主人公になるってな」
今の俺の力じゃ、全てを守れない。でもせめて、自分の仲間ぐらい守らないとな。それさえ出来ないなら、主人公失格だ。
「と言うわけで、自分はヒロイン探してるわけよ。お前を守るのはその一環....と、俺の我が儘だ」
そう言うと彼女は少し拗ねた感じで顔を背けた。
「......分かりました。要するに僕を守るのは、その幼なじみさんとの大事な大事な約束を守る為なんですね。そうですか、僕はただの踏み台ですか、僕をヒロインとして考えての行動じゃないのですか、そうですか」
何だかステーデさんが拗ねてらっしゃる....。ぷんすかっ、と擬音が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「あのー、ステーデさん? 何をそこまで怒ってらっしゃるのですか?」
「気づかないならいいですッ」
「ええぇ....」
......本当に分からんな、女の気持ち。
何に怒っているのかもう一度聞くべきかどうか悩んでいると、道の先から複数の人影が走っているのが見えた。ステーデも気づいたようで、二人で一度立ち止まる。
「あれは....エルフの村の人たちだな」
村人、それも幼い子供や女性、年寄りがこちらへ、何かを恐れるかの様に村の方角を気にしながら走っている。
「おーいっ!! どうしたんだ!?」
俺が声をかけるとあちらも気づいたようで若い人達が急いで近づいてくる。
「レインちゃん!! 大変なんだッ。村に、村に魔王軍が襲ってきたんだ!!」
「はぁ!? 何でだよッ」
魔王軍が村を襲っている。何でだと思ったのは一瞬、直ぐに心当たりを思い出す。
三日前の夜、あの時に魔王軍の兵、黒兵とやり合ったばかりだ。その報復か、もしくは....。
チラッとステーデの顔を見ると、彼女も心当たりがあるようだ。
もしくは....ライカンスロープの生き残りであるステーデを探しに来た、といういう可能性。
「....今、村はどんな状況だ」
「戦える者が黒兵と応戦しているが時間の問題だ。黒兵だけなら何とか数で押せたかも知れないが......」
「どうしたんだ」
「....炎帝が現れた。村の建物に火が移って大惨事、戦っている者達も太刀打ち出来ない....んじゃないかと」
炎帝。その名を聞いた瞬間背後のステーデから殺気が溢れてきたのを感じた。それを手で制する。
このまま感情に任せて行かせても、無駄死にするだけ....
ここまで考えていた俺は、次の話を聞き思考を止めた。
「エレンちゃん、あの娘も駆り出された。このままだと、あの娘だけじゃない。皆の命が危n..」
最後まで話を聞かず、俺は走り出していた。エレンが魔王軍と戦う?
「あのバカ野郎!! 何で逃げようとしないんだよッ」
前の黒兵と戦ったときだって震えていたくせにッ。自分より格上の相手にビビって動けない癖に!!
後ろからステーデが走って追いかけてくる。
「クレインさん、他人は止めるのに自分は動くんですね」
「うるせっ、俺は不死だからいいんだよッ」
「....そうですか。なら僕も行きますよ、エレンさんは僕の....仲間ですから」
そういい、ステーデは俺と並行して走る。その顔は真剣だ。
「ステーデ、まだ幹部と戦うには早いだろ。行くのは俺だけでいい、エレンや村人達を逃がすだけなら一人でも出来る!!」
「別に戦うわけじゃないです。....炎帝が現れた一つの原因は僕にあるんです。それなのに、自分は何もせずにいるのが嫌なんです。避難させるだけなら僕にだって出来ます」
彼女の目は、戦う前のただただ復讐するだけに生きていた時と違った。ちゃんと真っ直ぐ前を見据える目だ。
「....分かった。なら、軽く黒兵の相手の手伝いとエレン探しを手伝ってくれ」
「はい!!」
視界の先、まだ距離はあるが煙が上がっているのが見えた。村の方からだ。
俺たちは急ぎ、村を目指した。
村にたどり着くと、あちこちで建物が燃え、黒兵とエレン達が戦っていた。
「あの時と同じだ....」
ステーデがそう呟く。
「ライカンスロープの村が襲われたときとか....」
取り敢えず今はエレンを探そう。
そう思い足を踏み入れると、暴れていた黒兵が数人立ちふさがってきた。
その黒兵の鎧には赤い血で濡れていた。
「くそッ、コイツら。邪魔すんな!!」
俺が黒兵を数人を【部分装甲】で殴り、【インパクト】で吹き飛ばすがいっこうに数が減らない。
黒兵の攻撃をかわしながら攻撃を与えるだけでも一苦労だ。
もう少し練度が高ければ«スラント·テンペスト»で数を一気に減らせたかも知れないが....
「クレインさん、三十秒間、時間を稼いでください!! お願いします!!」
別の黒兵をその手で叩き潰していたステーデが告げてくる。
この数を三十秒....仕方ないかッ。
「分かった、任せろ!!」
ステーデを後ろに下がらせ、おれが前に出る。
大剣をかわし、炎の矢をかわす。黒い鎧の巨体に«インパクト»で鎧の中に衝撃を与える。が、他の黒兵が直ぐに現れる。
あと二十秒ぐらいか? ならッ。
「清らかな水よ、命の源の恩恵の力を、我が敵を防ぐ壁となれッ【ウォーターウォール】!!」
俺とステーデの回りに水の壁が生まれ、近接攻撃を仕掛けてくる黒兵の攻撃を防ぐ。
だが、相手にもアサルトスキルを扱う者も多い筈だ、全力で魔力を注ぎ込んでいるが長くは持たないだろう。
ステーデの様子を確かめると、詠唱を続けていた。
「....半身よ、その闇の身体を今一度....」
水の壁が少しずつ薄くなっていき、裂け始めてきた。
このままでは持たない、まだか。
「....幾本もの凶器と化し、敵を刺し貫けッ」
遂に水の壁が消失し、黒兵達が押し寄せてくる。複数の武器が押し寄せて、俺達を切り裂く....ことは無かった。
いつの間にか黒兵達の足元には影が広がっており、その影から何本もの針が生え、黒兵達を鎧ごと貫いていた。
「....【シャドウニードル·キルレンジ】ッ」
周りにいた複数の黒兵達は完全に動きを封じられていた。このスキルは....
「僕の数少ない強みの一つのエクストラスキルです。範囲攻撃のスキルで詠唱が長いのがネックですがこういう時に使えます」
「俺がくらったやつか....まさか、自分を苦しめた奴に救われるとはね...」
「あうッ。ご、ごめんなさい....」
「気にすんな、終わったことだし結果オーライだ。エレンを探しに....」
探しに行こうと続けようとした俺の視界の先、道の先、建物の影から見覚えのあるエルフが座り込んでいた。
そのエルフの目の前には前世で言う和服に身を包んだ、炎を纏う一本角の大男が仁王立ちしていた
あれは....
「おい、ステーデッ!! あれはもしかしてッ」
「エレンさんと....炎帝......」
やっぱりか。炎帝は炎を纏わせた、丸太の様に大きな腕を頭上に振り上げた。
あれを降り下ろす先に要るのは、エレン。
「おい、ステーデッ。森の中へ逃げろ!! そうすればお前も姿を眩ませれるし、奴も村から離れるかも知れないッ、いいな!!」
「えっ!? クレインは....!?」
「すまん、また後でだ!!」
ステーデを置いてエレンの元へ走る。
炎帝に近づくほど熱気を感じる。
炎帝が振り上げた腕に力を入れているのが分かる。
間に合え、間に合え!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおッ!!」
俺は走る勢いをそのまま、エレンをドロップキック気味に吹っ飛ばす
やべぇ、熱いなこのおっさん。
さっきの走った勢いで走り抜けれないかな....?
あーなんかデジャブ感じ....
痛みも、熱さも感じる間もなく、俺の体は燃え尽きた。
なんかフワフワするな....。手足の感覚がない。
....どこかで似たような体験した気がする。
ああ....前に死んだ時だっけ。確かあの時は......
....魔王討伐.......だったか、俺約束したぞ。
そうだ、今と同じ真っ暗な中で、少女の声が聞こえてきて....説明受けて、魔王討伐をお願いされたんだったな。何で忘れてたんだろう。
うん、全部思い出した。....炎帝にあったには必然的だったのか?
まぁいいか....今は取り敢えず、ステーデとの約束を守らないとな。
例の【不老不死】の効果が正しいなら俺はもうそろそろで蘇るはず......
精神が身体に戻ろうとしているのか意識が朦朧としてきたぞ、こんな状況で意識もくそもない気もするけどな
....いくか。痛いのは嫌だけど、約束は守らないとな。
《報告。スキル【?????】が覚醒、【贈物】を獲得しました》
《報告。【贈物】解放条件《一度の死を迎える》を達成。【贈物】が変化、ユニークスキル【贈物·痛みの対価】を獲得しました》
《報告。【痛みの対価】の効果発動により、エクストラスキル【炎帝】を獲得しました》
なん....か、めちゃくちゃ....スキル手に入ってる....くね?
意識が体に戻り行く中、幻書の声が聞こえた。
作者から
お気に入りありがとうございます&少し落ち着こう。
まさかここまでお気に入りが増えるとは思わなんだ....。
本当は「どうせ20行けばいい感じだろうし、書いてる分だけ投稿して気まぐれに投稿しよ」とか考えていました。
うん、一応二十五話ぐらいまで書き溜めしてるので暇さえあれば投稿します。
それ以降の話は語彙力、文章力、想像力、文字数、投稿頻度共に低下してるはずですので、それでもいいという方はこれからもよろしくお願いします。
たくさんのお気に入りありがとうございます。
0
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる