上 下
12 / 25
第一章 復讐の少女。

第十話 復讐の少女

しおりを挟む
 僕は予定通り、昨夜にしつけた氷牙狼達にクレインさんを襲わせた。

 その力を得るために、だけど自分の手を下したくなかったから。

 クレインさん程度の実力なら氷牙狼には敵わないと思っていた。最初は想像通り、クレインさんは苦戦を強いられていた。

 だが途中に、持っているとは思っていなかった範囲攻撃用のアサルトスキルを使い、形勢逆転されてしまい彼女が狩ってしまった。勝ってしまった。

 何で....このまま終わってくれれば、僕が行かなくてよかったのに。

 僕はスキル【潜伏】を解除し、草むらから丘の上にでて、クレインさんに姿を現した。

 クレインさんが僕の身をあんじてくれる。そんな彼女に僕は罪悪感で押し潰されそうだ....。

 けれど....僕の心が擂り潰されようとも、僕が行う罪は消えない。

 それでもやるしかないんだ。死んでいった仲間の為に、復讐を。

 ....ごめんなさい。

 僕はクレインさん目掛けて爪を降り下ろした。


 +   +   +


 目の前に腕が飛んでいる。それは色白で綺麗な柔らかそうな質感をもつ左腕。

 俺の腕だった。

 そう俺が認識した瞬間、

「ぁっ? ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!!!」

 痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛いッ痛い....ッ!!

 これまでの感じたことのない激痛がやってくる。幾つもの爆竹が続けて弾ける様に痛みが引くこともなく、断続して何度も何度も弾ける。

 俺の左肘から先が消えており、腕の断面から血がとめどめなく流れる。飛ばされていた腕が音をたてて落ちた。

 今、いったい何が....ッ!!!!

 俺は意識が飛びそうな痛みのなか、左腕を押さえ、しゃがみこみながら、必死に確認する。

 何とか首を動かし、前を見るとそこには腕を血の赤で塗らしたステーデが俺のことを見下ろしていた。

 千切られたのか、ステーデに俺の腕を?

 何故? 彼女にはこんなことをする理由が分からない..ッ!!

 ステーデが血と【血爪】の魔力で赤く染めた腕を振り上げた。

 それを見て、転がり込むようにその場を離れ、痛みをこらえ、何とか立ち上がる。

「す、ステーデ!? どうしたんだッ、何でこんなことを....ッ」

 ステーデと出会ってまだ三日。
 信用し合うには短いかもしれないが、だからと言って恨みをかうようなことをした覚えもない。彼女がこんなことをする動機が見つからないッ!!

 何がステーデの琴線に触れたのか、俺のことが気にくわなかったのか。

 それとも....出会う前から、最初からこのつもりだったのか....ッ!?

「ステーデ!! なん、でだッ。答えろよッ!!」

 彼女は答えようとせず、再び両腕を構え、走ってくる。

 くそ、一度取り押さえて話を聞くしかないかッ。

 ステーデの腕を何とか掻い潜り、彼女の背に手を伸ばし【インパクト】を発動するが、交わされる。

 彼女が振り向くと同時に蹴りを受けてしまう。
 彼女が蹴りを入れられてのけ反る俺に、更に続けてボディブローを入れてくるが、それを貰う前にその腕を掴んで受け流し、その勢いのまま背負い投げをして投げ飛ばす。

 彼女は空中で体勢を整え、綺麗に着地する。その顔は晴れない。が、この戦いでの疲労ではないだろう。

 ....ヤバイな、近接戦では明らかにステーデの方に分がある。技も速さも彼女には敵わない。

 なら、どうする....

「....お願いします、大人しく僕に仕留められてください。これ以上、傷つけたく無いです....」

 互いに構え、牽制しあっていると、彼女が声をかけてきた。

「抵抗せずに、殺されろと? 何でだよ。殺されるのは断るけど、襲いかかられるなら理由ぐらい聞かせ..」

 ステーデは俺への説得が不可能と判断、言葉を待たずに攻撃を繰り出してきた。

 どうする....理由は全く分からないが、ステーデは殺す気満々だ。だからと言って俺は彼女を殺したくないし、理由も知りたい。だが、そんなことを考えて相手できる相手でもないッ。

 今も彼女の攻撃を捌くだけでも精一杯、いや捌ききれてもいない。

 くそ、ステーデには悪いが、それ相応の反撃をさせて貰う!!

 俺は左右から迫り来る紅い爪を掻い潜り、しゃがみこんだまま背負う片手剣を抜刀、同時に切りかかる。

 降り下ろし、即座に切り上げ、横払い。だが俺の攻撃は全て交わされる。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 腕はまだ再生されていない。俺がパッシブスキル【肉体超再生】の発動を押さえているからだ。

 痛い、けどまだだ。
 彼女にはのスキルを教えられていないから、優位に立てていると思っている筈だ。

 俺は剣をつき出すが、それを彼女が交わし、大きな隙ができた俺に反撃しようと腕を引く。

 この時、ステーデは防御を捨てた、隙だらけだ。

 【肉体超再生】を発動、左腕が再生する。
いつもならかすり傷でもそこそこ時間を掛けて再生する。だがこの時は再生を押さえ続けていたぶん断面に魔力が溜まり続けたおかげでか、はたまた戦闘中ということもあってそれに合わせたのか、大きな傷を負ったのは初めてで分からないが即座に元に戻った。

 このスキルも強力だな、と改めて考えながら再生した左腕をステーデのがら空きになった体に触れる。

「《衝撃よ、放たれろ》!! 【インパクト】ッ!!」

 直撃するッ、と思ったのは一瞬。彼女は尻尾を大きく振るい、無理やり体勢を崩して【インパクト】を躱わした。

「くそッ」

 毒づきながら、倒れたステーデに剣を降り下ろす。
 勿論斬るつもりは全く無い、寸止めして押さえるつもりだったが、彼女は【血爪】で紅く染まる手で降りおろされる剣を掴みかかった。

 肉を斬るような感触は無く、替わりに金属に叩きつけたような衝撃と共に剣の動きは止まった。

 彼女の手は傷つくことなく剣を受けてめていたのだ。

 これが彼女のスキル【血爪】!! 未完成でこれなのか、まるで鉄で出来た鎧のようだ。

 何とかその場を離れようとするが、彼女は剣を放さない。

 彼女が起き上がると同時に放った蹴りを腹にまともに受けてしまう。

 おもわず背を曲げてしまう俺の頬に彼女の拳を受けてしまい、俺は吹き飛ばされ丘の下へ転がり落ちる。

「肉体再生スキルですか....。厄介なスキルですね....諦めて、じっとしていてください。すぐに終わらせますから」

「嫌、だね。もう死ぬような真似はしたくないんでね」

 俺が何とか立ち上がりながら答えると、ステーデは悲しそうな顔をし、再び構える。

「なら、なんとか痛み無く終わらせれるよう努力するだけですね」

「なんでそうなるんだよッ」

 くそったれが、本ッ当にくそったれッ!!
 心の中でもいくら毒づこうが状況は変わらない。

 俺は【宙蹴り】を使い、空を二回蹴り、背後の空中に飛ぶ。

 ステーデと少しだけ距離が開くがすぐに彼女は距離を詰めようと近づいてくる。

「《清らかな水よ、命の源の恩恵の力を、我が障害を防ぐ壁と成れ》、【水壁ウォーターウォール】!!」

 俺と俺に飛びかかっって来る彼女の間に分厚い水の壁が現れ、ステーデの進行を妨げる。

 彼女が【血爪】を振りかぶるのが見えた。あれだけの力の攻撃だ、一瞬とは言わなくても直ぐに破壊されるだろう。

 だが、時間稼ぎは数秒でいい。動きを止めている間に次のスキル詠唱を!!

「《暴風よ、我が魔力にて集い、敵を吹き飛ばせ》、【ウインドブラスト】!!」

 ステーデが【ウォーターウォール】を破壊すると同時に放つ。

 防ぎきれず、風の塊の直撃を受けたステーデは地面に向かって吹き飛ぶ。

 アサルトスキルをまともに受けたのだ。流石のステーデだってただじゃすんでないはずだ。

 そう思い、俺も着地してステーデの元に歩きよる。

 ステーデが力無く横たわっていた。だから油断していた。だから....彼女がスキル詠唱をすることにきづかなかった。

「....《我が影、我が分身....我が名はステーデ=フェンリル、その分身の名もステーデ=フェンリル....》」

 気づいたときには遅かった。彼女の影が俺の足下を覆う様に広がる。

 危険を感じ【宙蹴り】で空へ避難しようとして....

「《半身よ....、その闇の身体を今一度....幾本もの凶器と化し、敵を刺し貫け》ッ、【影針殺圏シャドウニードル・キルレンジ】!!」

 足下を覆っていた影から幾つもの漆黒の針が現れ、身体を貫き、俺の動きを封じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...