おにぃちゃんと私のラブコメは形は違えど、現在進行形なのです！

プロローグ その一 長かったです⋯⋯でも！！

「あぁ、とうとうこの日がやって来たんですね！」

　そう言って結菜ゆいなは両手を天に突き上げ背伸びをする。

「本っ当に長い道のりでした。でもようやく終わったんです」

　結菜は、今までの人生を振り返るかのように、目を瞑りつぶり首を「うんうん」と縦に振った。
　側はたからみれば、一人の少女が電車から降りるや否や、いきなり叫びを上げ、すぐに何かぶつぶつと言い出すのである。
「頭おかしいのか？」と思う者や、「元気があって良いねぇ」と思う者もいるだろう。

『おいおい、なに言ってんだよ結菜、終わりなんかじゃないだろ？　今日が始まりなんだぞ？』

　結菜に続いて、妙に変な声が返答をする。
　その口調は男っぽかったのだが、男にしては高く、無理に低くさせてる様な苦しげな声に聞こえた。

「あ、あぁすいません！　お兄ちゃん、そうですよね⋯⋯今日から⋯⋯、いや、今からが私達の始まりなんですよね！」

　次に、結菜がそう答えたのだが⋯⋯。
　実際には、電車から降りどこかへ行く人や面白いものを見る様に、遠めから結菜に視線を向けている人はいるものの、結菜の周りに親しげに話しかける様な人は一人も居ない。

　そうあの妙に高く、お世辞にも男の声に聞こえない声の主は、結菜だ。
　これは会いたくても会えなかった兄への、想いの強さ故なのだろう、数年前からこうして空想の中の兄と会話をしているのだ。
　この一人二役によって、近くにいた人達に「この子は頭がおかしいんだな」という、共通理解が生まれたのだった。

　心配そうな目線を向ける人もいれば、中にはどこかに電話し出そうとする人さえ現れる始末だ。

「はぁ、私は何をしているんでしょう⋯⋯もうこんな事で気を紛らわす必要なんてないんですのに⋯⋯そうでした！　そうでした！　あぁ神様、私は今すごく幸せです。世界の悲しんでいる人々に、この幸せを分けてあげたいぐらいです！」

　結菜はため息を一つつくと、ハイテンションに戻る。
　そして、自分に向けられてる視線の痛さに気づいて、顔を赤く染めると。

「あ⋯⋯す、すいません！」

　そう言って、お母さんが渡してくれた麦わら帽子を深く被り、駅を飛び出した。