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八、王女と真実 2
しおりを挟む「それではね、リーア。身体には気を付けて。また、一緒に暮らせるのを楽しみにしているわ」
「リーア。本当にこのまま王城へ帰るという選択肢は無いのか?」
久しぶりにみんなで夕食を摂り、楽しく過ごした後。
名残惜しそうにしながらも、王城へと帰る支度を整えたお父様とお母様を見送るため、エントランスまで一緒に行ったわたくしに、お父様が無茶な事を言い、傍に居たフレデリク様がさり気なくわたくしをお父様から離した。
「今、エミィが住まう邸はここです。つまり、帰るという言葉を使うのはここにのみですよ、国王陛下」
「陛下など、寂しい呼び方をしてくれるな、婿殿」
ああ。
またですか。
フレッドは、私的な場では、確かにお父様を義父上と呼び、お母様を義母上と呼ぶ。
そして、お父様は公的な場ではフレッドをアールグレーン公爵と呼ぶけれど、私的な時にはフレデリクと名前で呼んでいる。
だけれど、時に嫌味の応酬が行われる際、今、完全に私的な場であるにも関わらずフレッドがお父様を国王陛下と呼んだように、ふたりは態と違う呼び方をする。
その最たるものが、お父様の”婿殿”呼び。
これは、わたくしがこの公爵邸に住まうのは仮であり、将来的には王城に住まう、つまり君は婿養子なのだ、忘れるな、ということを意味している。
確かに、また王城に住むことになるのだけれど。
その時は、フレッドも一緒よね。
何と言ってもフレッドが王太子となるのだから。
ああ、そうなったら、お父様の言う通り”婿殿”状態であっているのだけれど、何というか、含みが凄いのよねえ。
思い、わたくしは若干遠い目になってしまった。
わたくしは女であるが故に王位継承権が無い。
それでも、現国王のただひとりの直系ということで、その夫が国王となることは昔から決まっていた。
そしてその夫となる人物が、前国王の孫でもあるアールグレーン公爵家のフレッドだということで、特段問題も無く来たのだけれど、お父様としては、わたくしが一度アールグレーンに嫁ぐ、その名を名乗る立場になることなく、フレッドを婿養子として迎えたかったらしい。
でも、フレッドやお義父様、お義母様は、わたくしが一度アールグレーン家に入ることを切望されて。
わたくしも、王城以外の生活というものを体験したかったのもあって、お父様を説得したのよね。
懐かしいわ。
思い返せば、お父様の”婿殿”は正しい。
だけれど、そこに多分に含まれる『娘をやった訳ではない』感が凄いわ。
「ああ、大変だ。城からの迎えが待ちぼうけ状態ですよ、舅殿」
外は寒いでしょうに、と大げさに肩を竦めてみせるフレッドにお父様はにやりと笑った。
「使用人を慮る心は大切だな。それでは、帰るとしよう。なに、また直ぐに会えるのだからな。リーア、身体をいとえよ」
「今度ゆっくりお茶をしましょうね」
「フレデリク。リーアを頼むぞ」
「はい」
力強く頷くフレッドを満足そうに見て、お父様がお母様と馬車へと歩いて行く。
「お気をつけて」
そんなふたりを見送って、ほっと息を吐いたわたくしは、後ろからフレッドに優しく抱き込まれた。
「楽しかったかい?」
「ええ、とても」
「うん。僕もとても楽しかったけど、ショックでもあったかな」
「え?」
驚いて振り向いたわたくしに、フレッドがそれはもう意味深な目を向ける。
「だって、僕とはずっと一緒に居たのに何も思い出せないでいて、義母上を見た瞬間、すべてを思い出した、なんて嬉しそうに言うのだもの・・・ねえ。いや、別にそれがどうとか言うわけではないけれど」
言っているのでは!?
思わず叫びそうになったわたくしは、まるでフレッドの獲物となったような気持ちで、その瞳に囚われていた。
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