アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

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五、王女と黒幕 1

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「エミィ。じゃあまずは復習をしよう」 

 黒幕と思われる人達の事を知りたいと言った私に、渋々ながら口を開いたフレデリク様がそう言った。 

「復習、ですか?」 

 フレデリク様が余りに至近距離に座るので、これでは内緒話の位置だ、かなりの重要機密の話が始まるのだと予想し、かちこちに緊張していた私は、てっきり黒幕の名前を口にするとか、役職を口にするかだと思っていたので、まるでこれから授業でも始めるかのようなフレデリク様の言葉に首を傾げてしまう。 

「そう、復習。以前僕は、今の国王陛下のお子様は、王妃陛下がお産みになられた第一王女殿下おひとりのみ、つまりエミィだけだと言ったよね」 

「はい」 

「では、この国で王子殿下、王女殿下となるために必要とされるものは何だったか、覚えている?」 

 教師然としたフレデリク様の問いに、私も生徒の如き模範解答、優等生の体で応える。 

「この国で、王子、王女の地位に就くためには、国王陛下の宣旨せんじが不可欠です」 

「うん。正解」 

 この国では、王妃陛下や側妃様が子どもを産んだとしても、それだけでは、王子、王女の地位を得ることは出来ない。 

 国王陛下が、生まれた子を真にご自身の子だと認める宣旨を下されて初めて、公に、王子、王女の地位を得ることが適うのである。 

 

 けれど、どうしてわざわざ今それを? 

 

 目が覚めても記憶の無かった私に、知識としてそのことを教えてくれたのは確かにフレデリク様だけれど、今それを復習する意味とは何か考えていると、フレデリク様が言葉を続けた。 

「そう。第一王女殿下、つまりエミィが生まれた時、国王陛下・・伯父上は、それはもう本当に嬉しそうでね。即座に宣旨を下しただけではなく、周り中に自慢して歩いたんだよ。『自分と王妃の良いとこ取りの可愛い娘が生まれた』って。蕩けそうな瞳で」 

「それは、本当に嬉しかったのですね」 

 一国の王とはいえ人の子なのだなと思い、微笑ましい話だと他人事のように思ってから、それは自分が生まれた時の事だと思い至って、私は思わずフレデリク様を見る。 

「ふふ。そうだよ、それは君のことだ」 

 私が何を思っていたのか分かったのだろうフレデリク様が、揶揄うように私の頬をつついた。 

「頭では分かるのですが、実感がわかないといいますか」 

 記憶が無いので自分の事とは思えない。  

 焦るし、薄情だとも思うけれどそればかりはどうしようもなくて、私は困惑するけれど、私の誕生を喜んでくれたと聞いて嬉しくもあった。 

 

 生まれたばかりって、確かお猿に近いって聞いたことあるような。 

 なのに、その頃にもう自分達の良いとこ取りで可愛いと言ってくれるなんて、愛情のある証拠よね。 

 まあ、親馬鹿と言えなくも無いけれど。 

 有難い話だわ。 

 

「ああ。伯父上の気持ちはよく分かる。エミィは、生まれた時から本当に可愛かったから」 

 そんなお猿の頃から可愛いと言ってくれる人が自分の父親というのは嬉しい、と思っていると、フレデリク様がうっとりした様子でそう言った。 

 それこそ、蕩けそうな瞳で。 

「生まれてどのくらいで、私はフレデリク様に初めましてをしたのでしょうか」 

 今でも無条件に私を可愛いと言うフレデリク様の目は、正直に言って常軌を逸脱していると思う。 

 それでも、その起源となったのはいつなのか、その時期には興味があった。 

 生まれた時から、とはいえ王族の話なのだ。 

 

 そこそこ時間が経ってから面会、というのが普通の流れかしら。 

 それなら、お猿から脱して赤ちゃんらしくもなっていたでしょうから、まあ可愛いと表現してもおかしくないのかも。 

 あ、そうか。 

 国王陛下も生まれてすぐに会った訳ではないから、初対面の時には既にお猿を脱した状態だったとか? 

 

「僕とエミィの始めましては、エミィが生まれたその日だよ。ずっと楽しみにしていたからね。もうすぐ生まれるって連絡が来てからは、母上と邸でいつでも出掛けられるように待機していて、生まれたという連絡を受けてすぐに登城したら、伯父上が嬉しそうにエミィを抱いていたんだ。小さくて甘い匂いがして、くふくふ鼻を鳴らしていてね。本当に可愛かった」 

 蕩けそうな瞳で言ったフレデリク様の言葉に、お猿を脱した頃に初対面、という私の予測は呆気なく崩れ落ちた。 

 

 え、ちょっと待って。 

 生まれたその日に、って。 

 王家なのに? 

 国王陛下まで? 

 

 何だろう。 

 こういう状態を表す言葉を知っている気がする。 

 それはもう”私ってば過保護に愛されていた疑惑”を越えて”溺愛”なのでは。 

 

 思った瞬間腑に落ちて、私は半開きの目でフレデリク様を見つめてしまった。 

 

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