アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
上 下
14 / 32

四、王女と耳飾り 2

しおりを挟む
 

 

 

 

 コーラが毒を仕込む、その瞬間を捉えてフレデリク様に連絡をする。 

  

 今、隣の部屋で護衛の方たちと万全の体制で待機してくれているフレデリク様は、私の合図と共に踏み込んでコーラを確保してくれることになっている。 

 この部屋と隣室とで素早く動き、騒ぎを最低限に抑えることで、コーラ以外にも居るだろう黒幕に通じる連絡係も同時に捕らえる手筈だとフレデリク様は言っていた。 

 

 それってつまり、コーラ以外の連絡係も今この時、この辺りで待機しているってことよね。 

 それで、私が合図をしたらフレデリク様達がこの部屋へ踏み込んで来て、その様子を確認して動くだろうコーラ以外の連絡係を別部隊の騎士さんが捕らえる、と。 

 

 コーラが成功するのか、失敗するのか、見極めるために居ると思われる連絡係。 

 私は当然それが誰だか知らないけれど、私の部屋近くまで来られるとなると、上級使用人の中でも限られているのだから、顔くらい合わせた事はあるのだろうなと思って改めて怖くなった。 

 自分が住む邸内、しかもすぐ近くに私の死を望む人が居るというのは、精神的になかなかきついものがある。 

 

 だめだめ。 

 今はとにかくコーラの身柄を確保して、事情を聴き出すことを考えないと。 

 

 首を振って際限なく落ち込みそうになる意識を戻し、コーラを見つめる。 

 

 絶対に、失敗出来ない。 

 

 騒ぎをどれだけ抑えられるかは、初手を担う私がどれだけ迅速に、且つ的確に動けるかにかかっているとあって、私はとても緊張してしまう。 

  

 毒を仕込む瞬間を狙ってコーラを押さえて、同時にフレデリク様に連絡。 

 そして、フレデリク様が来るまでコーラが自害などしないようにしておいて、フレデリク様達が証拠を押さえたら、その後はコーラから事情を聴けるようにして。 

 

 段取りを考えつつ、私は今も何処かで結果報告を待っているのだろう黒幕を思った。 

 コーラを操って、私を亡き者にしたいと願う人達。 

 それはつまり、自分達は安全圏に居てのうのうとしているということ。 

『ずうずうしい、身の程を弁えない、無能なくせに執念深い奴等』 

 フレデリク様曰く、私を狙うのはそういう人々らしい。 

 そして、こういった事、私を狙う犯行も初めてではないらしい。 

 流石に命まで奪おうと動き出したのは最近になってからの数回らしいが、嫌がらせなどは『それはもうしょっちゅう』だったとフレデリク様がそれはそれは嫌そうな顔で言った。 

『聞いて愉快な話でもないし、全部話せばとてつもなく時間がかかりそうだから、エミィが無理に知る必要も無いけれど、知りたいというのなら話すよ』 

『私にも関係あることだもの。聞きたいです』 

 苦い顔でそう言ったフレデリク様に私が無理を通すように言えば、益々苦い顔になりつつも頷いてくれた。 

『じゃあまあ。とりあえず、今回知っておいたほうがいいと思う部分だけ、話そうか』 

 本当に仕方ないから話す、と言わぬばかりのその表情は、私が記憶を失う切っ掛けとなった事件について話すのを渋った時と同じで。 

 

 もしかして、私が魔力枯渇を起こした事件の犯人も彼等ということなのかしら? 

 私を殺して得たいもの。 

 私は国王陛下唯一の子だというから、王位継承権絡みとか? 

 そういえば、王位継承権ってどうなっているのか聞いたこと無いわ。 

 でも、魔力枯渇の原因となったのは、王都を襲った魔術を消すためだったって言っていたわよね。 

 なら、その時の狙いは王都だったってこと? 

 となると、今回の件とは無関係? 

 

 分からない。 

 ともかくはっきりしているのは、今現在私が殺されようとしているということ。 

 どういう繋がりで私をそれほど憎むのか分からないけれど、私が王女という立場であることが関係しているのだと思った私は、真剣にフレデリク様と向き合い、まるで内緒の話をするかの如く極至近距離で顔を寄せ合って。 

《エミィ。愛しているよ》 

「っ!」 

 私を亡き者にしようと画策し、コーラを操る黒幕。 

 今は顔も思い出せないその人たちのことを苦く思い出し、フレデリク様との会話を脳内で再生しようとしていた私は、唐突に聞こえたフレデリク様の囁きに飛び上がるほど驚いた。 

《僕のエミィ。僕は君が本当に大切なんだ。だから、君の笑顔を奪う者は何人なんぴとたりとも許しはしない》 

 聞こえ続けるフレデリク様の声が優しい。 

 

 フレデリク様。 

 

 今、私はその言葉に答えることが出来ない。 

 それを分かっていて、フレデリク様は囁き続ける。 

《エミリア。君を大切に想う人達はたくさんいる。けれど僕がその筆頭だと、忘れずにいて。僕はいつも、君の一番近くに居るから》 

 あたたかな声が、ささくれた心に染み渡る。 

 

 まるで分かっていたみたいに。 

 

 コーラの動向を見つめるうち、黒幕の自分への憎しみについてなど考えてしまった私の意識を、フレデリク様は一気に自分へと引き寄せてしまった。 

「ねえ、コーラ。わたくし、フレデリク様が大好きなの」 

「へっ・・あ」 

 どうしても口に出したくて、にっこり笑ってそう言った私の唐突さに、コーラは茶器を落とさないばかりの驚きを見せる。 

 

 こういうところも、らしくない。 

 

 王族や高位貴族の傍近く仕える侍女は、主人がどういう行動、言動を取ろうとも動揺を表に出すことはしない。 

 例えどれほど内面で動こうとも、表情に出すことはしないもの。 

 

 相当、追いつめられているのね。 

  

 フレデリク様の囁きに集中力を取り戻した私は、見た目幸せな若妻そのものの様相で小さく息を吐き、夫を想う微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと本の頁をめくった。 

 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

処理中です...