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三、王女と偽造された遺書 2
しおりを挟む「申し訳ございません、エミリア様。わたくしの判断誤り、監視不行き届きでございます。どのような罰もお受けいたします」
案の定、アデラは倒れそうになりながらも深く腰を折り頭を下げて、私へと詫びて来る。
けれど思う所があった私はそれには返事をせず、違う問いを投げかけた。
「ねえ、アデラ。コーラの実家は?」
アデラは優しいけれど、人を見る目は厳しい。
そのアデラが信頼に値するとして私付きとしたコーラが、何故このような犯行に及んだのか。
そこには何か裏、事情があるに違いない。
「コーラは、領地を持たない男爵家の長女ですが。それが何か」
私の問いが不思議だったのか、そう言ってアデラはじっと私を見つめた。
「流石エミィ。あの侍女は、黒幕に利用されただけだと言っているんだね」
けれど私の意図が分かったらしいフレデリク様は、ずい、と身を乗り出す。
「はい。コーラは、何か弱みを握られて、仕方なくこのような行動に出たのではないでしょうか」
なので私が考えを言えば、フレデリク様も同じ考えだと頷いてくれた。
「っ・・・ではすぐ、コーラを呼んで」
そして、すぐに動こうとしたアデラを苦笑して止める。
「落ち着け」
「そうよ、アデラ。今問い詰めるのは悪手だわ。もっと何か決定的な証拠を掴んでからでないと、黒幕まで辿り着けないもの」
「ですが、そうこうしている間にもエミリア様に危険が」
焦ったように言うアデラに、私は微笑みを浮かべた。
「それよ。それを逆手に取るの。きっと今夜にでも、コーラはまた動くでしょうから。ほら、遺書の通りになるように、私に毒を盛る、とか」
殊更軽く私が言えば、フレデリク様が、それはそれは嫌そうに眉を寄せた。
「そうだな。貴族の奥方の取る方法で、確実性を狙うなら毒を使うだろう。しかし決定的証拠ともなるものだから、扱いは慎重を要される。持ち歩いていると考えるのが妥当か」
毒の所在が明らかになれば、その毒の入手先や関連人物を割り出し、密かに黒幕へ辿り着く事も出来るだろうとフレデリク様が真摯な様子で言う。
「けれど、本当に毒を用いるのかは未だ分かりませんわ」
「そうだな。だが、このような物を仕込んだのは確かだ。口を割らせるのは容易だろう」
物騒な事を言いながらにやりと笑ったフレデリク様は、絶対に許さないとその全身で訴えているけれど、私はその手を掴んで必死に首を横に振った。
「それではコーラが失敗したことが黒幕に知られてしまいます。そうなれば、コーラは消されてしまうかもしれません」
「エミィに害をもたらそうとしたのだ。当然の報いだろう」
「ですが恐らく、コーラは利用されただけです」
一介の侍女が単独で公爵夫人を害そうなど、余程の恨みでもなければしないと訴え続けるも、フレデリク様も引いてくれない。
「だとしても、手先となることを選び、事実こうしてエミリアを裏切る行動を起こした。許されることではない」
「フレデリク様。私は、コーラも救いたいのです。偽善かもしれませんが、何か事情があるのならそれを鑑みて判断してはいけませんか?」
「エミリア」
「お願いします。フレデリク様」
公爵家での不祥事を長引かせることになるかもしれない私の願いは、公爵夫人として正しくないものかもしれない。
それでもと願う私に、フレデリク様が終に折れてくれた。
「はあ。エミィを害そうなんて、思っただけでも極刑ものなのに。しかも、この内容。エミリアが僕を裏切る気持ちを持つ?もし本当にそんなことがあったら、僕の方がより深く絶望するに決まっているじゃないか。そうなったら心中だよ、心中。もっとどろどろだ」
「え」
何か怖いことが聞こえたような気がするけれど、今すぐ口を割らせる事態は回避したと思っていいのよね?
だとすれば、今聞こえた言葉は流してしまいましょう。
そうしましょう!
「ありがとうございます、フレデリク様。それで、今後なのですが」
というわけで、私はにっこり笑ってその先へと会話を押し進めた。
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