りんごとじゃがいも

夏笆(なつは)

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婚姻の式

襲撃

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 婚姻の式まであと十日となったその日。 

 リリアーヌは、公爵令嬢として最後の登城をすべく、久しぶりに通用門ではなく、王城の正門を潜った。 

 今日を最後に、式を終えるまでは登城することは無く、式の準備に専念することとなっている。 

「次に、ここを歩くときは」 

 その時、自分はレオンス王子の妃、王子妃となっているのだ、とリリアーヌは感慨深く周囲を見つめ、そこに居てはならない人物を見つけた。 

「死になさい」 

 その人物、元シモン伯爵令嬢アドリエンヌが、リリアーヌに向けて魔法攻撃を放つ。 

「っ!」 

 護衛騎士の動きにさえ勝る激しい一撃を間一髪避けたリリアーヌだが、王城での魔法攻撃は王族以外使用が禁止されているため、連続での攻撃にも防戦一方になってしまう。 

 それでも、繰り返される攻撃に最初の威力がないことを感じ取ったリリアーヌは、護衛に王城への報告を命じ、応援が来るまでの辛抱、と自分とその周囲の防御に専念することを決めた。 

「女狐。お前が王子妃などと認めない。レオンス様に愛されるのは、あたくしであるべきなのよ」 

 攻撃を防御しつつ、何とかもう少し近づけば自力で捕縛の魔法が掛けられる、と動き出したリリアーヌは、その視線の先に王妃オレリーの姿を見つけて目を瞠る。 

 万が一にも王妃陛下を傷つける訳にはいかない、とリリアーヌは攻撃の的を自分から外さないよう、元シモン伯爵令嬢アドリエンヌの視線を自分へと向けさせ続けるべく、声をあげた。 

「どうして貴女がここにいらっしゃるの?修道院へ行かれたのでしょう?」 

 婚約披露のパーティでリリアーヌに絡んで、不適切な言葉でリリアーヌとレオンス王子を貶め、公式の場を乱したことで牢に留置されていた彼女だが、元シモン伯爵の事件に直接関与は無かった、とのことで、その件については連座での責任を問われるにとどまり、修道院へと送られた、筈だった。 

「お父様がとっておきをふたつ、残してくださったのよ。それなのにお前が避けるから。ねえ、早く死んでよ」 

 冷静に言いつつ、リリアーヌへと攻撃を続ける元シモン伯爵令嬢アドリエンヌの後ろに、王妃オレリーが無表情で近づく。 

 そして。 

「うっ・・うわわあああっ!」 

 無言のまま放たれた雷撃に打たれ、元シモン伯爵令嬢アドリエンヌはその場に倒れ込んだ。 

「大丈夫。死んではいないわ」 

 その容赦の無い攻撃に思わず息を呑んだリリアーヌの傍まで来ると、王妃オレリーはそっとその手を取る。 

「よく頑張ったわね。無事でよかった。それに、周囲も破損がないように護ってくれてありがとう。この辺り、陛下御自慢の場所なの」 

 そしてそのまま抱き締められ、リリアーヌはその温かさに身体の力が抜けるのを感じた。 

「助けてくださり、感謝します。オレリーさま」 

「当然よ」 

 見事なウィンクを見せた王妃オレリーにリリアーヌが見惚れていると、レオンス王子が焦った様子で駆けて来るのが見えた。 

「遅かったわね」 

 ふふん、と王妃オレリーに鼻で笑われ、レオンス王子が気色ばむ。 

「近くにいらしただけでしょう」 

「言い訳は、なんとでもできるわよね」 

「ぐっ」 

 軽快に話ししながらも、ふたりはリリアーヌの両脇を支えるようにしながら歩き出した。 

「大人しく修道院に居ればよかったものを。本当に迷惑なお嬢さん」 

 ぽつりと呟いた王妃オレリーは、リリアーヌの髪を撫でようとして、同じくリリアーヌの髪を撫でる為伸ばしたレオンス王子の手とぶつかった。 

「遠慮なさい」 

「母上こそ」 

 両脇で繰り広げられるそんな会話に、沈んだ心を助けられたように感じ、リリアーヌは胸が温かくなる。 

「ありがとうございます、おふたりとも」 

 感謝を言葉にすれば、優しい笑顔がリリアーヌに返った。  

「気にしないことよ」 

「ああ。俺がずっと傍に居るから」 

「あら。いなかったじゃない。わたくしの方が、早かったわ」 

「だから、それは・・っ」 

 またも続く軽妙な会話を聞きながら、この幸福を大切にしようと、リリアーヌは近く家族になるふたりを見つめ、強く誓った。 

  

  

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