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視察
合議
しおりを挟む「では、監禁先はサヴィニーの邸か」
「はい。本邸の地下に監禁されている模様です」
事件発生から数日。
投じた騎士団の特務部隊からもたらされた報告に、レオンス王子はひとつ頷いた。
「監禁から数日が経っている。医師と魔術の扱いに長けた者数人の手配を頼む。できれば、武を扱える者がいい」
既にして、洗脳の魔術を施された小麦粉が、パン屋の小麦粉に混入していたことは発覚している。
そして、その小麦粉の製粉にサヴィニー伯爵が関与していることも。
ただ、サヴィニー伯爵の魔力はそう高くない、という調査結果から、レオンス王子は、有能な魔術師、もしくは魔術騎士も絡んでいるのでは、と睨んでおり、サヴィニー伯爵邸潜入の折、医師はもちろん、術を解除でき、もしもの時は相手の魔術師と闘える味方魔術師の存在は必須だとの考えを示した。
「王子殿下。恐れながら申し上げます。医師は軍医がおりますが、他の魔術師の施した術の解除ができるほどの力のある者は、この街におりません」
しかし、恐縮したような役人にそう言われ、隣に立つ騎士にも頷かれてレオンス王子は困惑する。
聞けば、レオンス王子とリリアーヌを案内した役人が、この街では一番魔力値が高いものの、他者の掛けた術を解く実力は無い、という。
となれば、術を掛けた魔術師と闘える実力も無い、ということで。
「ならば俺がやるか。いや、としても全体の指揮もあるしな。状況によっては厳しいことになる、か」
となれば、今この街にいる人間で一番魔力値が高く、他者の扱った魔術も解けるのは自分自身、と思い至ったレオンス王子だが、指揮の問題をも抱えて行き詰まった。
突入部隊と共に行く予定のレオンス王子は、そのまま陣頭指揮を執ることにもなっており、地下へ行って術を解く、というのは難しい。
「レオンスさま。わたくしにやらせてください」
その時、レオンス王子の傍で書類を作成していたリリアーヌが発した言葉に、レオンス王子を除く、その場にいた全員が目を瞠った。
「実力的には、それが望ましいとは思うが。リリアーヌ、君は剣を扱えない。そのうえで、サヴィニーがどのような抵抗をして来るか判らない、ということは理解しているか?」
そして、それに淡々と答えるレオンス王子に、周囲は信じられないものを見るように見開いたままの瞳を向ける。
「はい。籠城をなさるか、打って出て来られるか。先発隊の皆さまに続いて折よくこちらが突入出来たとして、邸内のことですから、闘いを挑まれたとしても弓で応戦というわけにもいかないでしょう。魔法がどれほど通用する相手かも不明ですし。ですが、地下にいるという皆さまの術を解く、というわたくしの役目は変わらないかと存じます」
まず、サヴィニー邸に突撃する部隊がいる。
そうして、それに続いてリリアーヌも軍医と共に救出隊として邸内に入り、地下に囚われている人々の術を解く。
如何に先行部隊がいるとはいえ、その途中で攻撃を受けないという保証はない。
それでも、術を解く、という任は果たしてみせる、とリリアーヌは強い瞳で言い切った。
「そう、だな。確かに、奴が何をしようと突入し、後進の道を確保した後、サヴィニーを捕縛する、という役目を俺は必ず果たすつもりではいる、が」
かちかち、と己の剣を浅く抜き差しし、レオンス王子は思案の瞳でリリアーヌを見つめた。
「問題は、全員の術を解いたとして、彼等の体力がどれほど残っているか、だ。どのような状況に置かれているのか不明な今、医師の治療を必要とする者が大多数を占める可能性も高い。結果、すぐにその場を離れることなど出来ないかも知れない」
そうすれば自ずと危険も増す、とレオンス王子は暗に告げる。
「その時は、わたくしが地下の皆さまをお護りします」
それでも変わらない、リリアーヌの意志。
「判っているとは思うが、俺達が援護に行くのは難しいのだぞ?」
それでもか、とレオンス王子が問えば、リリアーヌは笑って肩に止まっているルゥを撫でた。
「るー」
嬉しそうな声をあげて、リリアーヌに擦り寄るルゥ。
「ルゥという頼もしい味方もいるので大丈夫です。レオンスさま。わたくし、レオンスさまの、皆さまのお役に立ちたいと思うのです。やらせてくださいませ」
重ねて言うリリアーヌに、周囲の人々は恐慌の如くの表情になった。
か弱い女性で、しかも王子殿下の婚約者である公爵令嬢が危険な現場に行く、しかもそこで平民に掛けられた術を解く、などと言っている。
「判った。では、共に行こうリリアーヌ」
そして、更に驚くべきことに、王子殿下はその提案を受け入れてしまった。
信じられない、と思いつつレオンス王子を見た人々は気づく。
そういえば、王子殿下でありながら、自分が突入隊を率いる、と言うような方だった、と。
「恐れながら王子殿下。ここは、ご婚約者様には王子殿下と共に、こちらでお待ちいただくのが最上かと思われます」
自ら現場に行って魔術を解く、と言う公爵令嬢もだが、そもそも王子殿下が現場へ乗り込み総指揮を執ろうなどとおかしい、と役所の上役は今更と思いつつも必死に止めに入った。
「それで、この件は解決するのか?」
しかし、レオンス王子の言葉に返せるのは、沈黙ばかり。
そもそも、レオンス王子がこの街にいなければもっと捜査は難航していた、と関わった騎士も役人も、すべての人間が言い切れる。
それほどの逸材。
「リリアーヌ。貴殿に、囚われた人々の術の解除を命じる。全身全霊で、この任務を果たせ。そして、この件の総指揮は私が執る。失敗は許されない。総員、心して臨め」
そう言うと、レオンス王子は今回の作戦の詳細についての説明を、各部の長に始めた。
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