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百一、第一王子殿下のご成婚
しおりを挟むほおお。
流石、第一王子殿下のご成婚式。
偉いひと、凄いひとがたくさんです。
諸外国からも、有名人、貴族、王族の皆様がたくさんいらしていますからね。
失敗など、絶対に許されませんよ・・・・・!
第一王子の成婚ともなれば、外国からの招待客が多いのはもちろん、国内の貴族も皆参加する。
その事は昔から知っていたデシレアだが、まさか自分が公爵家の席に着く事になるなど、つい先ごろまで想像した事もなかった。
今日という日のために用意した正装に身を包み、メシュヴィツ公爵夫人にお墨付きをもらった、きっちりとした姿勢で立ちながらも、デシレアは心臓が口から出るほどの緊張を味わっている。
私の失敗は、オリヴェル様のみならず、メシュヴィツ公爵家の失敗にて恥じ、更には国の恥じでもあるからして、絶対に、ぜえええったいに、失敗は出来ません。
今デシレアが立っているのは、王城内にある大聖堂。
広く荘厳なそこには、国内外からの貴族、王族が集って式の開始を待っており、厳重な警護も相まって、普段とはまったく違う雰囲気を醸している。
落ち着いて、落ち着いて・・・・・。
「大丈夫だ。誰より、デシレアが美しい」
「ぴっ・・・・!」
デシレアが、呪文のように心の中で唱えていると、隣に立つオリヴェルが、不意にそう囁いた。
「ぴっ、って。俺のデシレアは、可愛いな」
「耳元で突然、囁かないでくださいぃ。オリヴェル様は、声も最強なんですよ?」
危うく大きな声をあげるだけでなく、飛び上がってしまいそうになったデシレアが恨みがましく言うも、オリヴェルはどこ吹く風。
「俺は、嘘は言っていない」
「周り見てください。信憑性は、皆無です」
各国の王妃や王太子妃は言わずもがな、国内の貴族にも可愛いかったり、美しかったりと色々な系統はあれど、それぞれ麗しいところに、今日は皆正装をしているとあって、気品も常のそれより大幅に向上していると見える。
更には一段高い所にいるこの国の王族は、凛と美しい王妃と、可愛い聖女、そして今日は成人前の王女キャロリーネも参列している。
いずれ劣らぬ、という可愛さ、美しさ揃いのなか、オリヴェル様は何を血迷ったことを、とデシレアはきりりと言い切った。
「ん?周りを見ても、俺はそう思うぞ。俺から見れば、デシレアが一番綺麗だ」
「それ、オリヴェル様の目には何かの膜が張っているんですよ、きっと」
まあ、それでも嬉しいですけれど、というデシレアに、オリヴェルが苦笑した。
「膜など張っていない。第一、デシレアだっていつも俺のことをそんな風に言うじゃないか」
「オリヴェル様が、一番麗しいのは大正解なのです。わたくしに対する評価と同等に考えてはいけません」
同じだろう、と言い募るも、そんな風に言うのはオリヴェル様への冒涜です、とふるふる首を振るデシレアに、オリヴェルが哀し気に眉を下げた。
「俺が、デシレアが一番美しい、というのは嫌か?迷惑か?」
「そんなこと、あるはずありません!・・・あ」
つい、大きな声で言ってしまい、デシレアは慌てて姿勢を正す。
「なら、良かった」
「っ・・・っっ!!」
嬉しそうに言ったオリヴェルが、あろうことかデシレアの頬にさり気なく唇を寄せて、真っ赤になったデシレアを満足そうに見つめ、ついでのように周りを睥睨すれば、耳をそばだてていた人々も、赤くなりながら視線を余所へと向けた。
「それにしても、キャロリーネは、堂々としているな。心の憂いが無くなったのが大きいのだろう。デシレアに感謝していると言っていたぞ」
「キャロリーネ様が、努力されたのです」
言いつつ、デシレアは先だってキャロリーネと共に市井へ赴き、街の人々と話をした時の事を思い出した。
『ごめんなさい。騙すつもりは無かったのだけれど。私の本当の名は、リーネではなく、キャロリーネと言うの。そして立場は、王女です』
『騙されたなんて思っちゃいないよ。いいとこのお嬢さんなんだろうな、ってあたしらも思っていたし』
『ただ、お貴族様でも男爵家か子爵家か、くらいに思っていたからね』
『王女殿下だ、って聞いて度肝は抜かれたな』
『不敬、とか言わないよな?俺、言葉遣いとかできねえし』
震える声で、集まった人々に自分の身分を明かしたキャロリーネに、街の人々は騙されたというより、不敬を案じていて、キャロリーネはすぐさまそれを否定した。
『そんなこと、絶対に言いません。本当の事を言わずにいて、不快にさせたと思います。でも、これからも、私、ここへ来てみんなとお話ししたいの。許してくれる?』
『それは、不敬と言われないならもちろん』
『これからも、リーネでいいのかい?』
『もちろんよ。みんな、ありがとう』
「可愛かったですよ、キャロリーネ様。目にうっすら涙が滲んでいるのに微笑んでいるのが、またいじらしくて」
「キャロリーネは『お菓子のお姉様が一緒に行ってくださって、心強かった』と言っていた。俺からも礼を言う。ありがとう、デシレア」
改めて言われ、デシレアはふるふると首を横に振った。
「わたくしは、本当に一緒に行っただけです。それに、烏滸がましくもご自分で直接お話ししては、と提案したのはわたくしなので、それは当然、ご一緒しますよ」
ひそひそと話をしているデシレアとオリヴェル同様、周りもそれぞれ雑談をしているが、後方、聖堂の入り口付近は、その声が雑談の域を出るほどに大きい。
「聖堂での席が決められているのは、伯爵位以上の家と一部の子爵、男爵家だけだからな。その他の子爵、男爵家は、席の取り合いになっているのだろう」
「ああ、それで騒がしいのですね」
不思議に思ったデシレアが後方へ意識を向けた事に気づいたオリヴェルに言われ、デシレアはなるほどと納得した。
「先だってのバザーで、王女殿下にご挨拶したと言っていただろう!何故、席が用意されていない!?」
すると、そんな声がはっきりと聞こえて、デシレアは思わず眉を寄せてしまう。
「あんなにも、大きな声で」
「この距離で聞こえるのだから、かなりのものだな。しかし、そうか。今日は魔法警備も完備だからな。誰がキャロリーネを困らせたのか、一部とはいえ分かるということか」
「オリヴェル様、キャロリーネ様の仇を討ってくださいね」
「まかせておけ」
そしてオリヴェルは、デシレア曰くの悪い顔をするものの、今日はデシレアもそれに負けてはいない。
「デシレアも、悪人顔をするようになったか」
「何を言っているのですか、オリヴェル様。勧善懲悪、オリヴェル様もわたくしも、悪を倒す側です」
デシレアがそう胸を張って言ったところで、式の準備が整ったのか、壮麗な鐘が鳴り響き始める。
「い、いよいよですね」
「自分の結婚式ではないのだから、それほど緊張する必要は無いだろう」
「それは無理というものです。このような素晴らしき特等席」
「特等席か。言い得て妙だな。確かに、この席は式も良く見えるが、周りからもよく見られる。観察されると言ってもいい」
「わざわざ言わないでくださいよぉ」
「頑張れ」
泣き言を言うデシレアに、にやりと笑ったオリヴェルはしかし、それとは裏腹、安心させるかのように、デシレアの手をぎゅっと握った。
うう。
緊張しますけど、心強いですオリヴェル様。
・・・でも、やっぱり緊張しますぅ・・・・・。
さきほどまでの騒めきが嘘のように静まり返り、ぴんと張り詰めた空気のなか、デシレアは陸に上がった魚のようにぱくぱくしそうになるのを、懸命に堪えていた。
~・~・~・~・~・~・
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