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九十九、推しと山芋パーティ 3

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「・・・・・デシレア。山芋をすりおろして、小麦粉と混ぜると言っていなかったか?俺には、鍋に油が投入されたように見えたのだが」 

「鉄板を乗せた食卓竈しょくたくかまどでは、お好み焼きを焼きます。こちらの食卓竈では、山芋を揚げます」 

 デシレアの答えに、オリヴェルの眉が寄った。 

「揚げる・・・前に、じゃがいもを揚げてくれたような物か?しかし、この芋は、ねばねばするのだろう?大丈夫なのか?」 

「大丈夫ですよ。お任せください」 

「もちろんデシレアの事は信じているが、これを食す者達は、粘芋ねばいもと呼んでいたそうだぞ?油の中で大惨事とはならないか?」 

「なりません。信用してください。それに今日は、切った物を揚げるだけですから」 

 そう言いながら、嬉しそうに下準備を進めるデシレアを見て、オリヴェルは益々眉を寄せる。 

「その言い方。すりおろした物も揚げるかのように聞こえる」 

「そう言っていますから。海苔があるといいのですけれどねえ」 

 でもまあ、それは贅沢というものですねぇ、とため息を吐き、デシレアは合わせた調味料の中に漬けてある山芋を、軽く揺すった。 

「のり?」 

「はい。海の岩に付いている苔です」 

「そうか。苔を食すとは奇怪だが、米と一緒に探させてみよう」 

「え?ありがとうございます!お米と海苔があったら、手巻き寿司が出来ますよ!海苔巻きとか磯辺餅!・・・は、もち米が必要か。でも!オリヴェル様にのり弁とか!わあ、似合わなさそう」 

「む。俺には似合わない物とは何だ?」 

 嬉しそうに、あれも食べたい、これも食べたいと言うデシレアを見ていたオリヴェルが、むっすりと言葉を挟む。 

「のり弁というのは、ご飯・・お米を炊いた物の上に、海苔を乗せたお弁当のことです。平民の、安くて簡単定番弁当みたいな感じなので、高貴なオリヴェル様には似合わないな、と」 

「なら、海苔と米が手に入ったら作ってくれ。楽しみにしている」 

「えええええ。オリヴェル様とのり弁。なら、海苔を上に敷くのではなく、ご飯とご飯の間に敷き込んで、一緒にふりかけを・・・あ、ふりかけ!ふりかけなら、今あるもので作れそう。作ってみようかな」 

 あれこれ楽しそうに考えるデシレアを優しい目で見ていたオリヴェルが、ふと思い至ったように声をかけた。 

「デシレア。今は、不幸か?」 

「え!?どうしてですか?私は、オリヴェル様と居られて、とっても幸せですけど」 

「あ、ああ、それなら良かった。いや、食生活に不満があるのかと思って」 

 オリヴェルの言葉に、デシレアはなるほどと納得して頷いた。 

「今の私の言い方だと、そうも聞こえてしまいますね。でも私、今のお食事に充分満足していますよ。それは、お米があったら飛び上がって喜びますけれども、私基本、オリヴェル様といただく物なら、野草だってご馳走になる自信がありますから!」 

「・・・・・本当に、デシレアはぶれないな」 

「オリヴェル様ありき、ですからね、私の人生・・・あ、そろそろ油がいい感じに」 

 ブロル特製菜箸を油に入れて温度を確認したデシレアは、にこにことオリヴェルを見た。 

「オリヴェル様、行きますよ」 

「本当に、ここで揚げるのか?」 

「怖かったら、離れていておいてください」 

「怖くなどない」 

 むきになって言ったオリヴェルは、デシレアの手元をじっと見つめる。 

「・・・・・デシレアが、調理をしている所を見るのが、好きだ」 

「え?」 

「子ども達と同居していた時も、俺の執務室で温めてくれる時も。デシレアの手の動きを見ていると、幸せな気持ちになる」 

「・・・・・・・」 

「デシレア?」 

「あ、あの・・・う、嬉しいです・・・ありがとう・・・ございます・・・あわわ・・どうしよう・・幸せ過ぎて・・夢かな?・・・頬、抓ってみる?」 

「デシレア!夢ではないから現実を見ろ!芋が焦げるぞ!」 

「あ!」 

 オリヴェルの一言で現実に戻ったデシレアは、無事に山芋を揚げ終えた。 

「熱いですから、気を付けて」 

「ああ・・っ・・あつっ・・しかし旨い! 

「そうでしょう、そうでしょう。山芋を揚げたの、すっごく美味しいのですよ・・・みんなも、後で食べてね」 

 デシレアが、給仕で控えている使用人に言えば、皆一様に、こくりと喉を鳴らして頷きを返す。 

「酒がすすむな」 

「ふふ。では、お好み焼きを作りますね」 

「とろろに小麦粉か。それに、随分色々な具材を混ぜ込むのだな」 

「そうですよ。あら?でもこれも平民の味のような・・・」 

「今更、食べさせないとか言うなよ?」 

「言ったらどうします?」 

「奪う」 

「わああ、野性的」 

 即答したオリヴェルに、デシレアが笑いながら言えば、オリヴェルが真顔になった。 

「野蛮、とは言わないのか?」 

「だって、野蛮って教養の無い人のことを言うじゃないですか。オリヴェル様とは無縁です・・・おお、いい焼き色。ね、オリヴェル様もそう思いませんか?」 

「昔、聖女に言われて傷ついた心が癒えた気持ちだ・・・そうだな、美味しそうな匂いがして来た」 

「・・・・・もうちょっとお待ちくださいませませ」 

「ああ、楽しみに待つ」 

 オリヴェルの言葉は胸に仕舞い、わざとらしくお道化て言ったデシレアに、オリヴェルも普段通りに返す。 

 食欲をそそる匂いが立ち上るなか、オリヴェルとデシレアは、互いの心がまた近づいたのを感じていた。 

 


~・~・~・~・~・~・ 

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