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九十四、推しとメシュヴィツ公爵家、王都邸にて 2
しおりを挟む「デシレア!」
眩い光に包まれた、と思った瞬間エルクの置物が動きだし、現実の事とも思えずに目を輝かせたデシレアは、力強いオリヴェルの腕に抱き寄せられるに身を任せるも、瞳は変わらずその動きを見つめ続ける。
「オリヴェル様!凄いですね!置物が動くなんて!どんなからくりですか・・・って。あ、もしかして動かしてはいけないものでしたか!?どうしましょう、私、勝手に。でも、ただ角に触っただけでですね・・ああ、それがもういけなかったでしょうか!?」
「・・・・・何だ、これは」
動いた置物にはしゃいでいたデシレアは、ふとオリヴェルが真顔になっていることに気づき、焦って確認を取ろうとするも、オリヴェルは呆然とした様子でそう呟いた。
「え?」
「俺も知らない。これが動くなんて、聞いた事も無い」
「そう、なのですか?」
「ああ。それに、あの光・・・まあいい。兎も角、あの穴を確認しよう」
そう言うとオリヴェルは、エルクの置物がずれた事によって出来た空間、元々エルクの置物があった場所の地下を覗き込む。
「何か、大きな石の箱?が埋まっているように見えます・・・あ、周りにも石が敷き詰められていますね・・・もしや、石棺?ということは、私ってば何方かのお墓を暴いて・・・!」
「落ち着け。石棺の可能性も否定できないが、少なくとも成人した人間が入る長さではない。それに、このような場所に人間の石棺を埋めることは無いだろう。動物などなら兎も角」
「動物。それは、何方かが可愛がっていらした・・・」
「落ち込むな。ただ、可能性の話だ。俺は、これは石棺などではなく、この中に何か隠してあるのだと思う。父上に確認してみよう。デシレア、もう一度、角に触ってみてもらえるか?」
「あ、元の位置に戻すのですね。やってみます」
そうしてデシレアがエルクの置物の角に触れるも、置物は動かない。
「動きませんね」
「先ほども、右手で触れたか?」
「え?ええと、あちらから来て、ここでこう触れたので・・左ですね・・・わわっ」
確認しながらデシレアがそう言い、再び左手で触れるとエルクの置物はゴゴゴと音を立てて動き、元の位置に戻った。
「やはりな」
「やはりって、何がですか!?オリヴェル様!」
何か怖い、とデシレアは自分の手を握り合わせる。
「デシレアの左の手のひらにある物が、関係しているのだと俺は思う」
「左の手のひら・・・あ、アルスカー様と光玉さん達の印が、ほのかに光っていますよ・・・って。もしかして、これが?」
デシレアの言葉に、オリヴェルが重々しく頷く。
「父上の所へ行こう・・・大丈夫。何があっても、俺がいる」
そう言うとオリヴェルは、優しくデシレアの左手を握った。
「・・・・・本当に、動いたわ」
「ああ。あの大きさの置物が動くなど」
オリヴェルとデシレアが公爵邸に戻った時、予想よりも早いと喜んでお茶へと招こうとしたメシュヴィツ公爵エーミルとその夫人アマンダは、オリヴェルの報告を受け、半信半疑ながらエルクの置物の場所へと移動し、実際にそれが動くのを見て驚愕に目を見開いた。
「父上。あの石の箱を確認したいのですが」
「そうだな」
オリヴェルの言葉に同意すると、メシュヴィツ公爵は待機している騎士に石の箱を引き出すよう指示を出す。
「破損させないよう、気を付けろ。その布の上に置け」
そうして引き出された石の箱は、デシレアが前世で見たお茶箱を少し大きくした位の大きさだった。
「蓋を、開けられるか?」
「やってみます」
所々苔むした石の箱を丁寧に扱い、騎士数人が協力してその蓋を開ける。
「これは、何かの書類の束か?全部、大きな封筒のようだが」
「随分、数がありますね・・・ん?これは?」
「どうした?オリヴェル」
「父上、魔石が入っています」
「魔石が?起動させないよう、注意しろ」
魔石と言えば、戦闘の際に使用するもの、という認識が強いメシュヴィツ公爵が厳しい顔になって言うも、オリヴェルは動揺したようにその魔石を見つめた。
「父上。この魔石の魔法陣を、俺は知りません」
「何?」
オリヴェルは、魔法師団団長となるほど、魔法、魔法陣に長けている。
そのオリヴェルが、既存の魔法陣を知らないなどということは考えられない、とメシュヴィツ公爵は眉を顰める。
「父上は、ご存じですか?」
「お前の知らぬものを、私が知っているわけなかろう・・・うん。知らないな」
それでも一応、と魔石に刻まれた魔法陣を見るも、メシュヴィツ公爵はそう言って息を吐いた。
「つまり、この魔石は戦闘用ではなく、デシレアが考えた物のような用途で使われている、ということか?」
魔石に、日常生活に役立つ魔法陣を付与する、という斬新なデシレアの発想は、魔法に長けると名高いメシュヴィツ公爵家にとっても、目から鱗が落ちるような出来事だった。
それと同じような作用をする魔石が、この石の箱に共に隠されていたのだろうか、と現当主エーミルは驚愕する。
「分かりません。もしかしたら、知らないだけで戦闘用かもしれませんし・・・これを厳重に保管しておいてくれ」
「はっ」
オリヴェルが渡したそれを、騎士が台に受け取って運んで行く。
「エーミル、何が入っていたの?」
危険があってはいけない、と離れて見ているように言われたメシュヴィツ公爵夫人アマンダが、同じく離れているように言われたデシレアの手を、ぎゅ、と握ったままに問うた。
「紙の束だ。アマンダもデシレアも、傍へ来てみるといい。もう危険な物は無さそうだ」
「本当。随分と古い紙ね」
「あ。こちらの封筒は、新しいものみたいです。色も変わっていませんし。あれ?でも、このエルクの置物が動くことは、誰も知らなかったのですよね?」
「その通りよ。記録でも見たこと無いわ」
デシレアが不思議だと首を傾げ問えば、その横でメシュヴィツ公爵夫人アマンダも、同じように首を傾げる。
「デシレア、どうした?」
「オリヴェル様。この封筒、新しくないですか?」
「ああ。然程、年数を感じないな。そうみると、封筒の色の変わり方も色々か?」
「様々な年代の封筒が混ざっているのでしょうか。オリヴェル様、封筒の中を見てもいいですか?」
デシレアの問いに、オリヴェルは父公爵に確認を取ってから是と返事をした。
「ありがとうございます・・・あ、こちらは楽譜のようです」
「楽譜?」
「はい」
そっと封筒から取り出した紙をオリヴェルに見せ、デシレアも共に覗き込む。
「楽譜か。こちらは、どうやら手紙だな。封筒の中に封書。しかも、封がしたまま?・・・っ」
「父上、どうかしましたか?」
その手紙を手にしたまま絶句したメシュヴィツ公爵に、オリヴェルが案じるように声をかけ、メシュヴィツ公爵夫人アマンダは、夫の傍へと急ぎ寄った。
「エーミル?どうしたの?」
「この手紙の宛先は『メシュヴィツ公爵領、伝統のダンスを愛する者へ』。そして差出人は『クラース・メシュヴィツ』」
「「「っ!」」」
その言葉に、全員が息を飲む。
クラーク・メシュヴィツ様といえば、確か、メシュヴィツ公爵領の伝統のダンスを廃した公爵様の直ぐ後の公爵様ですよ。
ということは、伝統を廃した方のご子息。
その方が記したお手紙が、封を切られることなく今ここに。
「それでは、この紙の束はメシュヴィツ公爵領の伝統のダンスの記録なのでしょうか?つまり、親子で意見が違ったと?」
思わず言ったデシレアの言葉に、メシュヴィツ公爵夫人アマンダが、嬉しそうに笑った。
「凄いわ、デシレア。きちんと公爵家の歴史を覚えているのね」
「公爵夫人が、丁寧に教えてくださいましたから」
「もう、可愛いこと言って。でも、公爵夫人と呼んだから減点ね」
今度は、デシレアの傍へ行って、その頬をつんつんとつつく母である公爵夫人から引き離すように、オリヴェルがデシレアを引き寄せる。
「デシレア、お手柄だ。もちろん確認は必要だが、ここにあるのは、探していたメシュヴィツ公爵領、伝統のダンスの資料の可能性が高い」
「本当に凄いわ、デシレア。きっと、アルスカー様から賜った、その左手の青いシッパの花が鍵なのよ」
言いつつ、アマンダがデシレアの腕を取る。
「となると、ここを作った先祖も、同じような印を持っていたということか?」
「あ、あの」
今度はアマンダと反対の腕をオリヴェルに取られ、デシレアが困ったような声をあげるも、オリヴェルはにこりと笑いかけるばかりで腕を放そうとはしない。
「デシレア。一緒に確認しましょうね」
「はい、公爵夫人」
「デシレア。もし、伝統のダンスだったら一緒に踊ってくれるか?」
「もちろんです、オリヴェル様」
そうして、右に左にと動き続けるデシレアと、互いに譲らないアマンダ、オリヴェルを微笑ましそうに見ていたエーミルが、それならと声をあげる。
「オリヴェルとデシレアの婚姻式で、そのダンスを披露したらいいのではないか?その時は、アマンダ、私達も一緒に踊ろう」
「まあ、それはいいわ!エーミル」
嬉しそうにメシュヴィツ公爵に抱き付く夫人が可愛い、と見つめるデシレアの肩をオリヴェルがそっと抱き寄せた。
「やっと、母上を撃退できた」
「撃退、ってオリヴェル様・・・にしても、楽しみですね」
「ああ。ありがとう、デシレア」
ずっと探していた伝統のダンスを復活させられるかもしれない。
その喜びに満ちるなか、デシレアもまた、満面の笑みでオリヴェルを見あげた。
~・~・~・~・~・~・
いいね、エール、お気に入り登録。ありがとうございます♪
ゴールデンウィークは、出かけたり自分のお誕生日があったりで、更新出来たり出来なかったりだと思います。
先日、更新出来なかったときは短編をあげました。
よかったら、読んでやってください。
皆様、素敵なゴールデンウィークを♪
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