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十七
しおりを挟む「あっつい」
ひとり彰鷹を褥で待つゆすらは、先ほどまでの緊張が嘘のようにそう言って手でぱたぱたと扇いでみるも、それは堪らない暑さの前には何の意味もなさない。
「っていうか、急に暑くなりすぎでは?」
季節は夏で間違いはない。
しかし、ここしばらく過ごしやすい気候が続いていたためか、暑さへの対応がうまくできない、とゆすらは褥から足を出して床につけてみた。
「気持ちいい!」
自分が今、何処にいるのかも忘れ、ゆすらは座ったまま裾を乱さないよう足を伸ばしてぺたぺたし続ける。
「何というか。余りにも色気のない待たれ方にどうすればいいのか」
そして、どのくらいそうしていたのか。
呆れたような彰鷹の声にはっとしたゆすらは、御帳を肩に乗せるようにして入りかけたまま苦笑している彰鷹を見た。
え、なんか格好いい。
少し粗野なその動きに見惚れていると、彰鷹が自分へと近づいて来て慌てて体勢を整える。
「こうすると、気持ちいいですよ」
それでも床から足を離さず言えば、彰鷹も頷いた。
「まあ、分かる」
同意を求めるように言えばすんなりと納得され、ゆすらは隣にどっかと腰を下ろした彰鷹を嬉しく見た。
こういう、細かな感覚を共有できるのが幸せだと思う。
「こう暑いと、削り氷が食べたくなりませんか?甘葛をこう、思いっきりかけて」
思うだけで幸せ、とうっとりするゆすらの唇に、彰鷹が指を這わせる。
「今なら、俺の指も喰いそうだな」
「なっ。食べませんよ、いくらなんでも!」
むう、とゆすらが頬を膨らませれば彰鷹が声を出して笑った。
「いやあ、今のそなたなら」
「彰鷹様の指なのか、削り氷なのかはちゃんと分かるのでご安心を!」
「本当か?ならば今度・・・っ!」
ぽんぽんと楽しく言い合い、ゆすらの髪をひと房掬ったところで、何かに気づいた彰鷹がゆすらを抱き込んで褥へと転がった。
「っ・・」
何が起こったのか、咄嗟に起き上がろうとしたゆすらの頭を抱き込んだまま、暫くじっとしていた彰鷹の腕の力が緩むのを感じ、ゆすらがそっと顔をあげようとすれば、彰鷹は惑うようにゆすらの目を見る。
「彰鷹様?」
「ああ、その。また恐ろしい思いをすると思えば、だな」
迷う彰鷹の、その視線の先に今この現状を招いた何かがあるのだろう。
ゆすらは今、彰鷹に隠され自分からは見えないそれを見る決意をした。
「大丈夫です。ちゃんと、事実を把握したいです」
言い切り、それでも惑う彰鷹の腕のなかからその視線の先を見たゆすらは、そこに矢が突き刺さっているのを見てぎょっとした。
矢羽根の無いそれは、褥から少し外れた床に深く鋭く突き刺さっていて、間違いなく高い殺傷能力を有すると思われるもの。
っていうか、あそこに突き刺さっている、ってことは飛んで行く途中に私達がいた、ってこと!?
彰鷹が庇ってくれなければ、あれが自分に刺さっていたのかもしれない、とゆすらはうすら寒くなった。
「一体、誰が、どこから」
それでも、彰鷹の腕になかに居る安心感からか、幾許かの余裕もあるゆすらが天井付近を見ながらそう呟けば、彰鷹の厳しい声が返った。
「この角度で、今打ち込むなど有り得ない。気配もしなかったしな。第一、誰にも見咎められずここへ入り込むなど無理だ」
例えばもし仮に天井に隠れていたとしても、気配を感じさせずに射りしかも去るなど考えられない、と言った彰鷹が、そっとゆすらの肩を撫でる。
「すまないが、ひとを呼ぶ」
そう言って寝巻姿のゆすらを隠すように衾で包んだうえ、己が胸に強く押し付けると、彰鷹は凛とした声で警護の者を呼んだ。
「あ、あれ?意外と遠くに配置されてる?」
走って来るその足音が、思ったより遠いとゆすらが言えば、彰鷹がうっそりと笑う。
「その方が、恥ずかしくないかと思ってな」
「恥ずかしい?・・・っ!!!」
一瞬、意味が分からず上げかけた顔を、ゆすらは思い切り突っ伏した。
ああ、なんか、すっごく鍛えてる!
そして、彰鷹の胸の厚みや力強さを如実に感じ、ひとり悶えることとなった。
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