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十四
しおりを挟む「ええと。これはどういうことかな」
閉ざされた扉を前に、ゆすらは柳眉を釣り上げる。
ゆすらの怒りはまず一点、己が住まいである麗景殿から彰鷹の下へと行く途中、内廊下は諸事情により使えないと言われ、外からの道へと誘導された。
そして彰鷹の住まう梨壺側の扉が閉ざされているのを確認したゆすらは、ああ、またくだらないことを、と思いつつ麗景殿側へと戻った。
しかし、いつもならそこからも問題無く麗景殿へと戻れる筈が、今日はそちら側の扉までもが閉まっている。
つまり、今現在ゆすらは外に立ち尽くす以外方法が無い状況に置かれている。
当然のことながら、麗景殿の使用人達はゆすらが梨壺へ向かった事を知っており、主が戻らないのに扉を閉めることなど有り得ない。
「これは。身内に裏切者が居るってことね。まあ、裏切りっていうか元から向こう側なのだろうけど」
仕方の無い、と呟くも胸は思うよりも痛む。
入内が決まってから、ゆすらに仕えることになった女房も多いがため、こういった事態が発生する可能性はあると言われてもいたし、覚悟もしていたつもりだけれど、実際に遭遇すると辛い、とゆすらは深い溜息を吐いた。
「一体誰が、このようなことを」
ゆすら同様衣を被ぎその傍に付き従う小笹も、信じられないものを見たかのように、閉ざされ、向こう側から深く閂の下ろされているのだろう門を諦められない様子で幾度も押す。
「小笹。そんなにしても開かないから」
そう言って小笹の肩に手を掛けたゆすらは、その身体が熱いことに気が付いた。
「小笹。こっち向いて」
そして、無理にも向かせた顔は赤く、息も荒くなっている。
慌ててその額に手を当てれば、それが常とは思えないほどに熱い。
「申し訳ありません。ゆすら様にはおうつししないよう気をつけ・・・」
「そんなの気にしなくていいから!」
自分こそは気づけなくてごめんと心のなかで言いながら、ゆすらはぐっと唇を噛んだ。
春宮唯一の妃、左大臣家の強い後ろ盾のある妃と言われても、このような暴挙に出られれば何をすることも出来ない非力な自分が悔しい。
「でもね。私は、私に出来ることで皆を守るの!」
自分にもっと力があれば、出来ることはもっと多いのだろう。
だけれど、今の自分にはそれほどの力は無いから。
だから、今の自分の全力で打開してみせる、とゆすらは懐から短刀を取り出した。
「守られるだけじゃ駄目だけど、ひとりじゃ無理だから力を貸して!」
叫ぶように言い、短刀を握り締めたゆすらの頬にかかる小糠雨。
常ならば心地いいと感じるそれも、今のゆすらには焦燥でしかない。
「ゆすら様、こちらの衣もお被りあそばして」
それなのに小笹は、自分の衣さえもゆすらに被せ雨を避けさせようとする。
「小笹。それは自分でちゃんと被って、これ持ってちょっと離れていて」
言いざま、ゆすらは短刀を鞘から抜くと、その鞘を小笹へと渡し扉と対峙した。
「短刀さん、刃こぼれしないでね・・なんて無理かな」
目の前にある頑健な扉を見、向こう側にある強固な閂を思って、ゆすらはこの短刀で果たして破れるのかと不安に思う。
「貴人様方を守る門だものねえ。そう簡単には破れそうにない、けどやるしかないのよ」
自分を鼓舞するように言い、ゆすらは気合を込めた。
「為せば成る!無理も通せば是真実!」
そして、気合一閃。
ゆすらは、全体重をかけて扉の閂目掛けて突撃した。
がきっ。
凄まじい音と共に、腕がじんじんと痺れる衝撃を受けるも、ゆすらは怯むことなく二撃、三撃と繰り返す。
「ゆすら様っ!」
身体をよろめかせ、息を荒くするゆすらを案じるよう小笹がその手を掴むも、ゆすらはただにこりと微笑み返した。
「大丈夫。あと少しだから、もう少し待って」
そして。
「これで最後!はあっ!!」
鬼気迫る掛け声と共に、身体ごと扉へと突き込んだ瞬間。
きい、と降参の音を立てて扉が開いた。
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