男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

文字の大きさ
上 下
54 / 72

五十四、たぶん、それ。ずれている。

しおりを挟む
 

 

 

「あー、おいちかった。そいでもって、しゅっごく、たのちかった!」 

 美味しい夕食をごちそうになった後、アベイタ伯爵にさよならと手を振り、カシムと一緒に馬車に乗ったぼくは、大満足で、ふうと息を吐いた。  

「うん、ジェイミー。本当に、楽しかったみたいでよかったよ。もしかして、その一番の要因は、バイヨ男爵子息と仲良くなったことかな?」 

「え」 

 にっこり笑うカシムの目は、だけどちっとも笑っていなくて、ぼくは思わず背筋が寒くなってしまう。 

 

 いや、美少年の迫力凄しで、こんな冷酷仕様カシムも見惚れるくらい格好いいけども! 

 美形が怒ると凄まじいっていう、見本を見ているみたいでもあるし、見ごたえは充分だけど、恐怖も充分! 

 

「私には、いつも取り澄ました感じで媚びて来るバイヨ男爵子息が、あんな風に話して笑うなんて、知らなかったよ。まあ、本性を隠しているとは思っていたけど」 

「かちむ!きゅれみゃん、かちむ、わらういい、いってた!やく、たちたいって!」 

 少々、自棄になっているようにも見えるカシムに焦ったぼくは、慌ててクレマンの心情を訴えた。 

 

 違うんだって、カシム! 

 クレマンは、ぼくと仲良くはなったかも知れないけど、本命はカシムなんだって! 

 

「え?私の笑顔?それに、役に立ちたい?バイヨ男爵子息が?」 

「う!」 

 そう、その通りと力強く頷くぼくを、カシムが訝しむように見る。 

「・・・男爵家だしシードだから、多くは望まない。愛妾でいいから傍に居たいとか言っていたのは、ただ単に権力が欲しかったわけではないのか?」 

 考えるように呟くカシムに、あと一歩とぼくは追撃をかけた。 

「きゅれみゃん、かちむ、かんちゃちてる、いってた!」 

「なら、最初からそう言って、普通に接すればよくないか?あんな、誤解されるような事を言わずに。ジェイミーも、そう思わない?」 

「うぅ・・・しょれは」 

 何とも仰る通りなので、それ以上、ぼくも上手く言葉が繋げられない。 

 

 クレマン! 

 本当だぞ? 

 どうして最初から、普通に接しなかった!? 

 大体、愛妾ってなんだよ!? 

 ぼく、そこ知らないからな! 

 

「だがまあ、分かった。バイヨ男爵子息のことも、仕事相手としてなら、考えなくもない」 

「おお!きゅれみゃん、よりょきょびゅ!」 

 

 良かったな、クレマン! 

 今度からは、接し方、間違えるなよ! 

 

 ぼくと戯れている最中にカシムが現れたことで、素の自分を晒してしまったクレマンは、随分焦っていたけど、良い方に話は進むんじゃないかと、ぼくは、ほくほくしてしまう。 

「はあ。ジェイミー。まったく。そんな嬉しそうに、にこにこしちゃって」 

「う?」 

 『一件落着!』と、にこにこしていたぼくは、不満そうなカシムに頬をつつかれた。 

 

 ん? 

 なんだ? 

 どうした? 

 カシム。 

 

「ご不浄に行ったまま、戻って来ないジェイミーを心配していたら、庭に居るからと報告を受けて。それならと、仕事を終えて探しに行ったら、そこでジェイミーが、猫とバイヨ男爵子息と戯れていて・・・可愛かったけど、何か、複雑だったよ」 

「じぇいみぃ、にわいる、ちってた、にょに、なんれ?」 

 

 ぼくが庭に居ることは知っていたんだよな? 

 それでどうして、複雑な気持ちになるんだ? 

 ぼく、庭に居ない方がよかった? 

 

「ジェイミーは、庭で、ひとり遊びしていると思ったからだよ」 

「あー・・・らいじょぶ!きゅれみゃん、かちむとあしょぶ、よりょきゅびゅ!」 

 

 ああ、なるほど。 

 なんだよ、カシム。 

 そういうことか。 

 カシムも、クレマンと遊びたかったのか。 

 そんなの簡単。 

 カシムが、クレマンを誘ったらいい。 

 

「はあ。いいかい、ジェイミー。私は、バイヨ男爵子息とは、遊びたいとは思っていない。仕事がどれくらい出来るか、確認をしたいとは思っているけど。だけど、それもジェイミーから聞いたからだからね?分かっている?」 

「おお」 

 

 クレマン、頑張れよ! 

 カシムは、かなり出来る奴だから、採点も厳しそうだけども! 

 認めてもらえれば、役に立つ第一歩! 

 ・・・・だけど、クレマンじゃないとすると、カシムが複雑になる理由ってなんだ? 

 あの場に居たのは、ぼくとクレマンと猫・・・っ! 

 なんだ、そういうことか! 

 

「かちむ!にゃんこしゃ、いっちょ、いい!でも、にゃい、きゃら・・・んと、おうしゃま、おねぎゃいちて、きゃう!」 

 何だそうか、主題は猫だったかと、そこでぼくは漸く、カシムが猫と一緒に遊びたかったのだと理解した。 

 けれど、サモフィラスの王城で猫は見かけなかったから、国王陛下にお願いして飼えばいいじゃないかと、言ってみる。 

 

 まあ、家の事情もあるし、そう簡単にはいかないかもだけど。 

 カシムが飼いたいって言えば、飼ってくれそうな気がするんだよね。 

 

「父上にお願いをして・・・ああ、それはいいね!」 

 ぼくの言葉に、カシムが、ぱあっと華やいだ表情になって、ぼくも嬉しい。 

「う!」 

「宮で猫を飼うか。素敵な未来図だ」 

「うう!」 

 『それは、本当に素敵だ』というカシムが、心底嬉しそうな笑顔になって、ぼくも嬉しい。 

 

 カシム。 

 本当に、猫が飼えるといいな。 

 そんでもって、ぼくも遊びに行ったときには、遊ばせてくれよな。 

 
~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、エール、しおり、ありがとうございます。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...