男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

文字の大きさ
上 下
34 / 72

三十四、棗椰子

しおりを挟む
 

 

 

 ん? 

 なんだろう、あれ。 

 赤茶色の・・実? 

 それにしても、こんなに恭しく扱うなんて、いったい、何の実だろう。 

 

 恭しく籠を捧げ持った幾人もの侍従さんたちを見つめ、彼らが捧げ持っている籠を見上げたぼくは、そこに盛られた何かの果実と思われる物を見て首を捻った。 

 

 あんまり、見たこと無い色だよな。 

 何だろう。 

 

「今年は豊作で、何よりだった」 

 気が付けば、ぼくが不思議がっている間に、籠を持って入って来た侍従さん達はきちんと並び終えていて、それを確認した国王陛下が、喜びの表情でそう言った。 

「ええ、本当に。昨年は、不安に駆られるほどの凶作でしたが、今年は佳き年となりましたね」 

 そして王妃陛下が、こちらも嬉しそうに言い、何故か締めくくりにぼくを見た。 

 

 ん? 

 なんだ? 

 その、ちょっと意味有りげな笑み。 

 豊作で嬉しい、よかったっていうのは分かるけど。 

 それで、どうしてぼくを見るんだ? 

 

「そうだな。今年は、花の時から色鮮やかで殊に美しく、結実も多かった。慶事の前触れではという声も多く、我も期待していたが。やはり、カシムが運命のきみと出会う吉祥だったな」 

「ふふ。結実した物がすべて、無事に熟しましたものね。ジェイミーの訪れを、わたくし達同様、大地も喜んでいるようですわ」 

  

 え!? 

 何を仰る。 

 そんなの、偶然に決まっているでしょうが。 

 

「私もそう思います。そういえば、父上と母上が出会った年もそうだったと聞いています」 

 『ふぇ!』と、思わず変な声が出そうになるのを何とか堪えていると、ハリムまでもが笑顔で何やら言い出した。 

「ああ。我がラフィーと出会った年もまた、見事な花を咲かせ、大いなる実りをもたらしてくれた」 

「ふふ。そうでしたわね。皆が、それは喜んで、祝福してくれて。わたくしも、とても嬉しかったですわ」 

 そう言って微笑み合うふたりはとても幸せそうで、ぼくまで何だかぽかぽかした気持ちになる。 

「では。我から皆に。実りを贈ろう」 

 少し改まって国王陛下がそう言うと、一部の侍従さんが少し前に出て、籠を恭しく掲げた。 

「ラフィー。最愛の我妻に、今年の実りを贈ろう」 

「ありがとう存じます」 

 国王陛下は、籠のひとつを手にすると、それを王妃陛下へと渡す。 

「陛下。豊穣と、陛下の安寧なる治世に感謝申し上げます」 

「うむ」 

 そして、王妃陛下が国王陛下へと籠を渡し、その次は国王陛下からハリムへ、ハリムから国王陛下へと続き、カシムの時には、何と、ぼくも一緒に並んでお受けした。 

 しかも、ちっこいぼくのために、王族であるみんなが高さを合わせて屈んでくれるという事態が発生し、ぼくは、畏れ多いなんてものじゃないと大混乱して、カシムに抱き上げてもらおうと思うも、こういう時は、立てるなら、きちんと立っていないといけないんだって、カシムが教えてくれた。 

 

 ま、まあ。 

 ぼくはちっこくとも、ひとりで立てるからな。 

 それが礼儀というなら、致し方ない。 

 ・・・・・でも、慣れる気はしない。 

 

 棗椰子の木は、サモフィラスの王家にとって、豊穣を意味する大切なものだから、王族が生まれたり、伴侶を娶ったりした時には、その親や伴侶となった王族が株分けして、そのひと個人の棗椰子の木を持つことで、初めて王族と認められるくらい、意味のある物らしい。 

 で、それらの木々は、王城のあの庭にみんな植わっていて、その木々の収穫があった時に、こうして王族だけで祝うんだって。 

 

 ・・・・・やっぱり、ぼくは場違いなんじゃ? 

 

 

 そして、無事に籠を交換し終えた後は、みんなで別室に移動して、棗椰子を食べることになった。 

 棗椰子が大切な果実ってこともあるんだろうけど、みんな笑顔で楽しそうなのを見ると、棗椰子が好きなんだろうなって、ぼくまで楽しみになってくる。 

 

 そっか。 

 あれが、棗椰子っていうのか。 

 表面、固く無さそう。 

 ああいうの、見たことないかも。 

 どんな味なんだろ。 

 

「ジェイミー。食べる前に、ちょっと触ってみる?」 

 ぼくがずっと、籠に盛られた棗椰子をじっと見ていたからか、移動する際、カシムが少しおかしそうにそう言ってくれた。 

「う!」 

 ずっと見ていたのを知られていたのは恥ずかしかったけど、棗椰子に興味津々だったぼくは、一も二も無く頷いた。 

 

 おお、むにゅって感じ!? 

 気を付けないと、指が入り込みそう。 

 

「やわらかくて、驚いた?」 

「う!」 

「じゃあ、楽しみに食べようね」 

「うう!」 

 どんな味なのか、未知の果実にときめいたぼくは、カシムのだっこで部屋を移動し、当然のようにカシムの隣に座らせてもらった。 

「棗椰子は、とっても栄養価が高いんだ。ジェイミーは初めて食べるから、念のため、少しにしようね」 

「う」 

 少しと言われ、そうなのかと納得したぼくの前に、四つのきれいなお皿が並ぶ。 

 そこに乗っているのは、ひと口ずつほどの棗椰子の果実。 

「大地の実りに感謝を捧ぐ」 

「だい・・・しゃしゃぐ」 

 『父上・・国王陛下の後に続いて言うんだよ』と、カシムに教えられた通り、復唱・・できなかったぼくは、何とか言葉尻だけみんなに揃えた。 

 

 だって、無理に決まっているじゃないか。 

 全員で復唱するんだぞ? 

 速さについていけるわけがない。 

 

「ジェイミー。上手だったよ」 

「あううっ」 

 カシムがにこにこして言うのに、ぼくは『絶対、嘘だ』と、抗議の視線を送る。 

 

 『上手だった』だと? 

 何処がだよ。 

 きちんと言えなかったの、誰より本人が分かっているんだぞ? 

 ふん。 

 

「嘘じゃないよ。さ、機嫌直して、食べてみて」 

「う」 

 機嫌をとるようカシムに言われ、ぼくは不服ながらも棗椰子を口に入れた。 

 言われた通り、国王陛下の木の物だという、お皿のから。 

「あっまあ!」 

 

 なんだ、これ!? 

 本当に、普通の果実か? 

 

「おいしい?」 

「う!」 

 棗椰子にすっかり魅了されたぼくは、不服に思っていたことも忘れ、カシムに満面の笑みを向けた。 

 

 ・・・・・ああ。 

 ぼくって、単純食いしん坊。 

 
~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、投票、ありがとうございます。
現在、232位です。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

処理中です...