上 下
10 / 12

十、ヴァイオレット・サファイア

しおりを挟む
 

 

  

「さあ、ではジェイミー様。そろそろ参りましょうか」 

「う」 

 着替え終わったら、何ともう昼で、用意されたパンがゆを『ジェイミー様。今日は、ジョンが食べさせて差し上げますね』って笑顔で言いつつ、その実『汚したら大変』って顔に盛大に書いてあるジョンに食べさせてもらったぼくは、また歯を磨いてもらったところで、移動のため、ジョンにだっこされた。 

  

 はふう。 

 ミントの香りの歯磨き最高。 

 すっきりさっぱり。 

 

 これで母様や父様、兄様達と、心置きなくおしゃべり出来ると、ぼくはうきうきした気持ちでジョンにだっこされて、廊下を行く。 

 

 なんか、ざわざわしてる。 

 やっぱり人が多いのか。 

 

 暫く歩くと、外が見える廊下があって、また違う棟に入るのが分かる。 

 今のは、渡り廊下みたいな感じかな、なんて思っていると、兄様達の声が聞こえた。 

「ジェイ!一歳のお誕生日おめでとう!」 

「おめでとう、ジェイ!」 

「おめでとう!」 

「あーと!」 

 駆け寄って来た兄様達に返事をして、ぼくは元気に両手をあげる。 

 

 おおっ。 

 兄様達、やっぱり絵になる! 

 お揃いの衣装が、素敵すぎるだろ! 

 

 それぞれの色を使っているから、ぱっと見には違う衣装にも見えるけど、その型は基本同じで、それにみんな、他の兄弟の色を釦や刺繍なんかで使っているから、特別感が凄い。 

「まあ、ジェイ!よく似合うわ!」 

「ああ。可愛いな」 

 父様と母様は、すぐさまジョンからぼくを抱き取って、ふたりして頬をつついたり、頬擦りしたりと忙しない。 

「ジェイ。誕生日おめでとう。今日は、たくさんの人がジェイミーのお祝いに来ているけど、疲れたら、すぐに下がっていいからな。無理はしないように」 

「いやだったら、母様に教えてね。ジェイミー」 

「カールにいにも居るからな!」 

「クリフにいにもいるぞ!」 

「お、おれ・・いあんにいにも、いる!」 

 大きな扉の前に立って、父様と母様が言うと、兄様達も居るから大丈夫だと、拳を握って言ってくれる。 

 それが、凄く嬉しい。 

「う!あーと!」 

 

 だからぼくは、そう言って元気に返事をしたけど・・・パーティって、そんなに危険なのか? 

 

 そんなことを呑気に思ったぼくは、大きな扉が開いた瞬間、思考を停止させた。 

 

 何この、人の群れ! 

 

 とてつもなく明るくて広い会場に見えるのは、着飾った人、人、人。 

 その人たちの目が、一斉にぼくへと向けられて、ぼくは目を見開いて固まったまま、母様にしがみ付いて、人波のなかを進んで行く。 

「まあ、可愛い」 

「あんなに目を見開いて」 

「懸命にしがみ付いているわ」 

「今日がお披露目だからな。色々なことが、珍しいのだろう」 

 囁く声が聞こえて、それが凄く優しい声音だったから、何か受け入れられてんのかなって嬉しく思いつつも、ぼくは結局、愛想を振りまく余裕は持てなかった。 

 そしてそれは、父様の挨拶・・ぼくのお披露目でお誕生日だって若干にやけて言ったように見えた父様の挨拶・・が終わった時、別の驚愕に変わる。 

 

 え? 

 あれって、カルヴィンだよな? 

 ってことは、一緒に居るのは、カルヴィンの父様と母様ってことか? 

 なんで、あんな物捧げ持って、こっちに来るんだ? 

 

 父様の挨拶が終わって『お誕生日おめでとうございます』の大合唱の後に、乾杯もした。 

 それを契機に、みんなそれぞれパーティを楽しみ始めたように見えたんだけど、カルヴィンと彼のご両親と思しき三人が、こちらへ真っすぐに向かって来る。 

 それも、その手に何かを捧げ持って。 

「クラプトン伯爵。改めて、ジェイミー殿の誕生日、おめでとう」 

「ありがとうございます、クロフォード公爵」 

 父様とクロフォード公爵・・っていうんだから、ジェイミーのお父様だろう・・は、にこやかにグラスを合わせるけど、父様、目が全然笑っていない。 

 それに対して、クロフォード公爵は嬉しそうに笑みを浮かべているし、公爵の隣で母様と挨拶を交わしたクロフォード公爵夫人も、瞳が優しく笑っている。 

 

 あ、よかった。 

 母様は、本当の笑顔だ。 

 ところで、あれ何だ? 

 

 両親が挨拶を交わす間、幼くとも公子様って感じで凛と立っていたカルヴィンが、その手に捧げ持っている物が、ぼくは気になって仕方ない。 

 

 何かの台の上に被せられた高そうな布。 

 一体、何が出て来るんだろ。 

 ・・・いや待てよ。 

 高級そうに見せかけておいて、実は手品だったりして。 

 だったら、出て来るのは鳩か? 

 

「ジェイミー。一歳のお誕生日おめでとう。心を込めて、君にこれを贈りたい」 

 きちんと盛装したカルヴィンが、涼やかって感じの声で言って、その布をそっと開く。 

「うわあ。きあきあ!」 

 それを見たぼくは、一瞬で目を奪われた。 

 きらきらと光を反射する、紫のすっごくきれいな石で出来た翼のある馬。 

 決して大きくはない、大人の手のひらに乗りそうなそれは、完全に立体というよりは、レリーフみたいな感じで、髪飾りとかブローチに出来そうな装飾品だった。 

 

 すっごい。 

 あの石って宝石か? 

 紫水晶、とかってやつかな。 

 それにしても、あれペガサスだろ。 

 格好いい。 

 今にも動き出しそうだぜ。 

 

「気に入ったみたいで、よかった。じゃあ、もらってくれるか?」 

「う!あーと!」 

 

 いや、気に入らないとかないだろ! 

 そんなに綺麗で格好いいもの。 

 

「まあ!あれは、ヴァイオレット・サファイア!」 

「しかも、ペガサスだぞ!」 

「そう。そういうことなのね」 

 すっかり紫色のペガサスに魅入られていたぼくは、周りがそんな風に囁き合っているのも知らず。 

「くっ。やはり、もっと早く消しておくのだった」 

「父上。僕も同意見ですが、ここではまずいです」 

「なんでだよ!さっさと打ち消さねえと、ジェイが!」 

「やるなら、ぼくが」 

 父様と、兄様達が、そんな物騒な会話を繰り広げていることも、全然知らなかった。 

 

 ・・・・・なんか、ごめん。 

 
~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

最終目標はのんびり暮らすことです。

海里
BL
学校帰りに暴走する車から義理の妹を庇った。 たぶん、オレは死んだのだろう。――死んだ、と思ったんだけど……ここどこ? 見慣れない場所で目覚めたオレは、ここがいわゆる『異世界』であることに気付いた。 だって、猫耳と尻尾がある女性がオレのことを覗き込んでいたから。 そしてここが義妹が遊んでいた乙女ゲームの世界だと理解するのに時間はかからなかった。 『どうか、シェリルを救って欲しい』 なんて言われたけれど、救うってどうすれば良いんだ? 悪役令嬢になる予定の姉を救い、いろいろな人たちと関わり愛し合されていく話……のつもり。 CPは従者×主人公です。 ※『悪役令嬢の弟は辺境地でのんびり暮らしたい』を再構成しました。

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

攻略対象の一人だけどお先真っ暗悪役令息な俺が気に入られるってどういうことですか

さっすん
BL
事故にあってBLゲームの攻略対象の一人で悪役令息のカリンに転生してしまった主人公。カリンは愛らしい見た目をしていながら、どす黒い性格。カリンはその見た目から見知らぬ男たちに犯されそうになったところをゲームの主人公に助けられるて恋に落ちるという。犯されるのを回避すべく、他の攻略対象と関わらないようにするが、知らず知らずのうちに気に入られてしまい……? ※パクりでは決してありません。

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

嫌われ愛し子が本当に愛されるまで

米猫
BL
精霊に愛されし国フォーサイスに生まれたルーカスは、左目に精霊の愛し子の証である金緑石色の瞳を持っていた。 だが、「金緑石色の瞳は精霊の愛し子である」という情報は認知されておらず、母親であるオリビアは気味が悪いとルーカスを突き放し、虐げた。 愛されることも無く誰かに求められることも無い。生きている意味すら感じれなくなる日々を送るルーカスに運命を変える日が訪れ少しずつ日常が変化していき····· トラウマを抱えながら生きるルーカスが色んな人と出会い成長していきます! ATTENTION!! ・暴力や虐待表現があります! ・BLになる(予定) ・書いたら更新します。ですが、1日1回は更新予定です。時間は不定期

人違いの婚約破棄って・・バカなのか?

相沢京
BL
婚約披露パーティーで始まった婚約破棄。だけど、相手が違うことに気付いていない。 ドヤ顔で叫んでるのは第一王子そして隣にいるのは男爵令嬢。 婚約破棄されているのはオレの姉で公爵令嬢だ。 そしてオレは、王子の正真正銘の婚約者だったりするのだが・・ 何で姉上が婚約破棄されてんだ? あ、ヤバい!姉上がキレそうだ・・ 鬼姫と呼ばれている姉上にケンカを売るなんて正気の沙汰だとは思えない。 ある意味、尊敬するよ王子・・ その後、ひと悶着あって陛下が来られたのはいいんだけど・・ 「えっ!何それ・・・話が違うっ!」 災難はオレに降りかかってくるのだった・・・ ***************************** 誤字報告ありがとうございます。 BL要素は少なめです。最初は全然ないです。それでもよろしかったらどうぞお楽しみください。(^^♪ ***************************** ただ今、番外編進行中です。幸せだった二人の間に親善大使でやってきた王女が・・・ 番外編、完結しました。 只今、アリアの観察日記を更新中。アリアのアランの溺愛ぶりが・・ 番外編2、隣国のクソ公爵が子供たちを巻き込んでクーデターをもくろみます。 **************************** 第8回BL大賞で、奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様ありがとうございました(≧▽≦)

クズ王子、弟にざまあされる

相沢京
BL
「貴様を追放するっ!」 弟である第三王子の祝いの会でそう叫んだのは第一王子でクズ王子と言われているダグラスだった。 「え、誰を・・?」 「決まっておろう。カイン、貴様だっ!」 断罪から始まった事件が、この後、思いもよらない陰謀へと発展していく。 ***************************** BL要素が少なめですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。 誤字脱字の報告、ありがとうございます。 短編のつもりですが、今後もしかしたら長編となるかもしれません。

処理中です...