男しかいない世界に転生したぼくの話

夏笆(なつは)

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五、もうひとりいる。兄ではなく。

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「おはよう、ジェイミー」 

 朝起きて、侍従さんたちに身支度を整えてもらったところで母様が迎えに来た。 

「あーうえ!」 

 ぼくはそれだけで嬉しくて、ふんわりと抱き上げてくれる母様に、ぎゅっと抱き着く。 

 

 母様、おはようございます! 

 

「ふふ。ジェイは、今日も可愛いさんね」 

 気持ちだけはしっかりと朝の挨拶をして母様を見上げるぼくに、母様は優しい笑顔を向けた。 

 

 顔の造りも表情も、女神みたいだよな、ほんと。 

 ・・・・・男のひとだけど。 

 

 ぼくが記憶のなかで<男のひと>だと認識している存在を、この世界ではシードと言うのだと、ぼくはこれまで聞いた会話のなかから知った。 

 孕ませる側がシード、そして孕む側がフィールド。 

 五歳の検査で判明するらしいその人数の内訳は、圧倒的にシードの方が多いらしく、シード同士の婚姻も珍しくないのだとか。 

 

 ぼくは、どっちだろうな。 

 父様は、もちろんシードで、カール兄様とクリフ兄様もシードだって言ってた。 

 イアン兄様とぼくだけが未だ検査を受けていないけど、みんなイアン兄様もシードだろうって噂しているし、兄弟のなかで一番体つきががっちりもしているから、そうかなってぼくも思う。 

 運動も好きで、得意そうだし。 

 それに比べてぼくは、未だ歩くことさえ・・・・あ! 

 ちょっと待て。 

 ぼく、ひとりで立つことも出来ないじゃないか! 

 

 はいはいが出来るようになったぼくのために、あちらこちらの部屋に土足厳禁の絨毯が敷かれたことは知っている。 

 何と言っても、毎日そこを縦横無尽に這い回っているんだから。 

 だけど、立ったことはない。 

  

 その事実に気付いて、ぼくは青くなった。 

 言葉もだけど、歩くことも練習しないと! 

 

 そう、小さな拳を握って決意したぼくだけど、これだけ色々考えている間に、漸く食堂に辿り着くような広い邸に意識が遠くなりかける。 

 だって、歩けるようになったからといって、この距離をすぐに制覇できるとは思えない。 

 

 い、いやだが、まず一歩だ! 

 焦らず、立つところから始めればいい。 

 

 

 

「あー」 

 そして朝食後。 

 いつも自由に遊んでいる部屋へと来たぼくは、今、力が抜けたような声を出している。 

 まずはひとりで立ちあがる、と決意したぼくだけれど、最初から何の補助も無く立ちあがれるわけもなく、べちゃっと無様に絨毯と仲良しになってしまった。 

「ジェイミー様!大丈夫でございますか!?」 

 すぐさま侍従さんが飛んで来て、慌ててぼくを抱き上げる。 

「あー」 

 立つ練習をしたいから、だっこでなくて、立たせてくれと訴えるも、侍従さんは優しくぼくをあやすばかり。 

 

 どうする? 

 この部屋、椅子もテーブルもないんだよな。 

 つまり、つかまり立ちの練習が出来ない。 

 

 ぼくがぶつかって怪我をしたりしないように、という心遣いなのか。 

 この部屋には、調度品が一切置かれていない。 

 

 しょうがない。 

 兄様達の勉強部屋に行くか。 

 あそこ、魔道具もたくさんで面白いし。 

 

 「かぁにいに・・くぅにいに」 

 ふたりの名前を出せば、侍従さんは、いつもにこにこと『分かりました』と言って、ふたりの勉強部屋へ連れて行ってくれる。 

 だから、今日もぼくはそのつもりだったんだけど。 

 

「申し訳ありません、ジェイミー様。本日、カール様とクリフ様は、お客様がいらしていますので、この時間にお会いになることは出来ません」 

 侍従さんは、本当に申し訳なさそうにそう言った。 

「あー、あー」 

 

 そんな、気にしなくていいよ。 

 侍従さんのせいじゃないんだから。 

 

「まあ、ジェイミー様。お優しいのですね」 

 謝罪は必要ないよ、って気持ちを込めて侍従さんの頭をぽんぽんしたら、ふんわりと可愛い笑みを浮かべてくれた。 

 このひときっと、フィールドだな。 

 

 

「じぇい!あそぼ!」 

 ぼくが、何とか立てるようになろうと、座っている侍従さんの膝につかまったり、腕にぶら下がるようにしたりして奮闘していると、イアン兄様がひょっこり顔を出した。 

「いぃにいに!」 

 嬉しくて、高速はいはいで近づけば、イアン兄様がぎゅうっと抱き締めてくれる。 

「いぃにいに!」 

「うん、じぇい。きょうは、おそとでいっしょにあそばない?」 

「うっ!」 

 『遊ぶ!』と気持ちのうえではしっかり答え、おおはしゃぎで、ぼくはイアン兄様と一緒に庭を目指す。 

 因みにだっこは、侍従さん。 

 年齢の割にしっかりした体つきのイアン兄様だけど、流石に未だ、歩ているときは危ないからって。 

 

 くふ。 

 イアン兄様と、何してあそぼうかな。 

 立つ練習、付き合ってくれないかな。 

 

「カルヴィン!そちらではなく、こちらから行こう!そうしよう!」 

「そうだ、カルヴィン。あちらは、今日は駄目だ」 

 うきうきと、ぼくがこれからの予定を考えていると、カール兄様とクリフ兄様の焦った声が聞こえた。 

「かぁにいに、くぅにいに」 

 どうしたんだろう、と首を傾げていると、イアン兄様がぼくの手をしっかりと握る。 

「じぇい、あっちにいこう」 

 

 え? 

 イアン兄様まで、難しい顔してどうした? 

 

「なっ。カールもクリフも急にどうした・・・っ!ジェイミーか!」 

 何が何だかわからない、けど何かがあったらしい。

 侍従さんにだっこされたままのぼくが、そう思っていると、聞きなれない声がして、イアン兄様が『ちっ』って舌打ちした。 

 

 え? 

 なにごと? 


~・~・~・~・~・
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