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49、マジェスティ
しおりを挟む「ここが、宮殿」
途中、立派な門を潜り、大きな庭園を通って着いたのは、白亜の見事な建造物の前だった。
「きれいな所でしょ?さ、マジェスティが待っているよ!」
「どうぞ、こちらへ」
自慢するように腕を広げたハーネスが率先して歩き出し、礼を尽くして促すキーラムと共にサヤたちが歩き出せば、操縦していたのだろうロッドも静かに合流する。
「荒れた様子は、無いんだな」
「そうね。お庭も、とてもきれいだったわ」
「街同様、機械人形とやらが整備しているということか」
足を踏み入れた宮殿内は、きちんと掃除が行き届いているし、通って来た庭園や通路にも荒れた様子は無かったと、ナジェルとサヤ、そしてアクティスは頷き合った。
「それはそうだよ!マジェスティのための場所だもん。いつ目覚めてもいいように、いつだって管理はばっちりだよ」
「ハーネス。管理しているのは、主にキーラムだと思うが」
「ははっ。確かにね」
呆れたように言うロッドにも、ハーネスは悪びれずに笑う。
「仲がいいのね」
「そうだよ!俺達、仲良しなの」
「はあ。そういう問題か?」
思わず言ったサヤにハーネスが嬉しそうに跳ね、ロッドは再びため息を吐くも、そう嫌そうには見えない、とサヤは微笑ましく思った。
「こちらの部屋です」
「うわあ。ひと際美しい扉ね」
見事な装飾が施された扉を前に、サヤは、ぽかんと口を開けそうになり、慌てて閉じる。
「確かに」
「この建物の扉は、先ほどの機体の物とは違うのだな」
こちらの扉は、装飾を除けばトルサニサでも見慣れた物だと言うアクティスに、ロッドが頷きを返した。
「こちらの扉のように、昔からある手動の扉は、主に居住区で使われます。そして、機体の扉のように自動で開閉するものは、研究施設や、あのような機体に用いられています」
「え?なになに。トルサニサでは、ああいう機体についているみたいな扉は、珍しいの?」
扉に手をかけようとしていたハーネスが、興味津々の目でナジェルを見る。
「ああ。建物内でも大型の軍用機でも、移動と言えば、転移が一番便利だからな」
「そっか。それで、移動の効率化を図る、なんて思想があんまりないのかもね」
「言われてみれば、能力ありきの設備が多いかも」
そういえば、と言うサヤに『違うんだねえ』としみじみ言ったハーネスが、慎重な手つきで扉を開く。
「・・・凄い。ここが、マジェスティの部屋」
「ああ、凄いな。あの機体の造りから、ある程度予想はしていたが」
室内の広さ、豪華さに目を瞠るサヤとナジェルを後目に、アクティスがある一点を見据えて呟いた。
「まさか、あれか?」
「アクティス。あれって?」
驚愕の滲んだアクティスの声に、サヤもナジェルも反応して、その視線を追う。
「あれは、ゆりかご、か?」
「それ以外の何に見える」
「天蓋も付いていて、可愛いわね。ご両親やたくさんの人、それから機械人形さんたちの愛なのかしら」
愛されている赤ん坊だと分かる、と微笑むサヤの前で、キーラムとハーネス、ロッドが一様に頭を下げた。
「「「マジェスティ。ただいま、戻りました」」」
その規制のとれた動きに、サヤとナジェル、アクティスもゆりかごに向かい、他国の貴賓に対する礼をする。
「もしかして、このゆりかごが、特殊な装置なの?」
「いいえ。こちらの、中に」
そう言ってキーラムが見せたゆりかごの中には、小さなカプセルが収まっており、硝子越しに、すやすやと眠る赤ん坊の姿が見えた。
「小さいな」
「可愛い」
「・・・・・これを、どうしろと?」
「お生まれになってから、六か月と十一日目で、こちらのカプセルにお入りになられました」
これほど小さいとは思わなかった、と念話が出来ずともその目を見れば分かるようなサヤたちに、キーラムが冷静に伝える。
「このカプセルの調子が悪いということなの?」
「カプセルが、っていうか。うん、ちょっと実際に抱いてみて」
「抱いてって・・・あ」
丁寧にカプセルを抱き上げたハーネスに『そっとだよ、丁寧にね』と渡され、サヤは恐る恐るそのカプセルを抱きとった。
「可愛いでしょう?今マジェスティはね、このカプセルのなかで眠っているというか、仮死の状態になっているんだ。本当は、俺達が目覚めさせない限り、目を覚まさないはずなんだけど」
「ん?仮死の状態と言ったよな?だが今、瞼が動いたぞ?」
「ああ。今度は口元も。これは、目覚めが近いのではないか?」
サヤの抱くカプセルを覗き込んだ、アクティスとナジェルの言葉に、キーラムが難しい顔で頷く。
「そうなのです。カプセルに何等かの異変が生じた結果かどうかは定かではないのですが、お目覚めが近いことは事実だろうと、自分たちは考えております」
「お可愛くていらっしゃるだろう?この方は、我らの希望なのだ」
続けて言ったロッドの銀色の瞳が優しく細められ、彼らがどれほどマジェスティを大切にしているのか痛いほどに伝わると、サヤが眠る赤ん坊を見つめていると、不意にハーネスが呑気な声を出した。
「わあ、なんか。ナジェルもアクティスも。そうやってマジェスティを見守っている姿、お父さんみたいだね。髪色も似ているし」
「「なっ」」
そうしてサヤが抱くカプセルと覗いているナジェルとアクティスに、ハーネスがにこにこと言い放ち、ふたりから一斉に睨まれるも、気にした様子は無い。
「そういえば、ナジェルってお父さんっぽいわよね」
「サヤ。君はどうして、いつも」
「ふふ。怖い怖いねえ、小さなマジェスティちゃん」
冗談のように言いながら、サヤはまたマジェスティの口元が動き、手が動くのを見て心配そうな声を出した。
「本当に目覚めそう・・・おっきしたくなっちゃったの?うん?」
そうして片腕でカプセルを抱き、もう片方の手で硝子越しにマジェスティの頬をつつけば、小さなマジェスティが答えるように、ふわぁとあくびをする。
「まるで、そうだと言っているようだな」
「目覚めは、この赤ん坊の意思ということか?」
「うん!そうだと思うよ!ね、サヤちゃんたちも来てくれたことだし、早く出してあげようよ」
うきうきと言うハーネスに、キーラムとロッドも、安堵の瞳で頷いた。
「そうだな。宝玉は、三人共に反応していたことだし」
「マジェスティをお育てするにも、安心だ」
憂いは去った、と言い合うキーラムたちに、サヤは思わず叫びをあげる。
「ちょっと待って!お育てするのにも安心、って。その宝玉は、トルサニアンの能力測定装置なのよね?」
「そうです」
何を今更、とでも言いたげなキーラムに、ナジェルは頭を抱えた。
「残念な知らせだ、キーラム。赤ん坊を育てるのに、トルサニアンの能力は関係ない」
「え?」
「初歩的なミスだな」
子育てにトルサニアンの能力の高低は、関係ない。
その言葉に、キーラムとハーネス、そしてロッドが、一斉に固まった。
~・~・~・~・~・~・~・~・
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