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48、美しき、空(から)の街
しおりを挟む「飛んでる・・・訳ではないのに進んでる」
サヤたちを乗せた機体は、扉が閉まると音も無く浮上し、滑るように前進を始める。
「どういう原理だ?反発の力か?」
その動きを体感し、ナジェルも不思議そうに外を流れる景色を見て、怪訝そうに首を傾げた。
「それにしても、本当に人がいないのだな。建物の中にでも、入っているのか?」
本当。
まるで、人が絶えてしまったかのような、異様な静けさを感じるわ。
「建物は新しく見えるが、もしや、廃墟なのか?」
「アクティス!」
「何だ?サヤ。人が絶えているかのよう、だと貴様も思っていたではないか。思念も何も感じないなど、煩わしくなくていい、という以前の問題だ」
念話が出来るサヤたちは、常に人の会話のなかに居ると言っても過言ではない。
それを防ぐための措置はするが、こうして人の念を聞こうとしても何も聞こえてこないというのは、サヤたちにとって不気味でしかなかった。
「滅びました。ひとりを除いて全員」
「滅んだ?でも、こんなに街はきれいに整備されていて。人の気配が無いことを除けば、文明の発達した都市に見えるけど」
俄かには信じられない、というサヤをキーラムは静かに見返す。
「専用の機械人形がいますので」
「あ」
「住宅用の機械人形たちはね。もう住む人のいない家を整え、二度と命じられることのない調理をするために、いつも働いているんだ」
『だから、街はきれいなんだよ』と寂しい笑顔で言うハーネスに、サヤは言葉を失った。
「滅びの街、か。インディ全体が、こうなのか?」
「そうだな。中枢がやられたとして、地方では助かった人間もいるのではないか?」
「それはありません。各地の機械人形が、日々、罹患者と死亡者を報告していました。中枢が機能しなくなってからも、彼らは動き続けていましたので」
アクティスとナジェルの言葉に、キーラムはそう言って頭を下げる。
「ですので、マジェスティをお助けいただけるのは、皆さま方だけなのです」
「罹患・・死亡ということは、何か病気が原因なの?」
サヤの問いに、ハーネスがこくりと頷いた。
「そうだよ。一地方都市で発生した、未知なる疾病。感染力の高いそれが、瞬く間にインディ全土に伝播し、対応策も間に合わない勢いで人々の命を奪っていったって、俺には記録されている」
「もちろん、人々は必死に抵抗しましたが、力及ばず・・ただ最後に、未だ幼い先代マジェスティのお子様を守る手立てを掴み取りました」
その時を実際に見たわけではないハーネスもキーラムも、辛そうに眼を伏せながら、その子だけが希望なのだと言い募る。
「小さい子だけが、残されてしまったのね。そのお世話は?それも、担当の機械人形がいるの?」
「俺達が、マジェスティのお世話係だよ!」
「しかし、それほどの感染力だったのなら、その子も罹患していないとは言い切れないのではないか?」
目を煌めかせるハーネスに、アクティスが鋭い目を向けた。
「感染の事実はありません。それを確認した後、外界から完全に遮断した場所に移されましたので」
「どこかに閉じ込めたのか?いやしかし、それが出来たのなら、何故他の者には適用しなかった?場所が無かったのか?」
「はい。そこには、マジェスティおひとり入るので、精いっぱいです」
答えたキーラムに、アクティスが尚も厳しい目を向ける。
「では、この土地は?その病原菌が、今もはびこっているということなのか?」
「アクティス?でも、キーラムやハーネスには何も問題が無いように見える・・・・あ」
「愚鈍だろう、貴様」
キーラムもハーネスも機械だった、と口を押えるサヤに、アクティスは容赦のない言葉を浴びせた。
「浄化は既に済んでいますので、ご安心ください」
「来てしまったのだから、信じるしかない、か」
インディに着くまで言わなかったのは、故意なのだろうとアクティスはため息を吐く。
「だまし討ちのような真似をして、申し訳ありません。ですが、マジェスティを助けるためには、こうするしかありませんでした」
「お願いします。マジェスティを、助けてください」
キーラムに続いて、ハーネスも頭を下げる。
「貴様らはそうして、助けてほしいと言うが。具体的には?」
「何か、問題が発生したの?」
「はい。マジェスティが眠る装置に、異常が発生しました」
「え?それって、機械を直してほしいってこと?それこそ、こちらの機械人形たちの方が、向いているんじゃない?」
トルサニサの能力が高いから、という理由で連れ出されたサヤは、困惑の瞳をキーラムとハーネスに向けた。
~・~・~・~・~・~・~・~・
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