トルサニサ

夏笆(なつは)

文字の大きさ
上 下
49 / 51

48、美しき、空(から)の街

しおりを挟む
 

 

  

「飛んでる・・・訳ではないのに進んでる」 

 サヤたちを乗せた機体は、扉が閉まると音も無く浮上し、滑るように前進を始める。 

「どういう原理だ?反発の力か?」 

 その動きを体感し、ナジェルも不思議そうに外を流れる景色を見て、怪訝そうに首を傾げた。 

「それにしても、本当に人がいないのだな。建物の中にでも、入っているのか?」 

 

 本当。 

 まるで、人が絶えてしまったかのような、異様な静けさを感じるわ。 

 

「建物は新しく見えるが、もしや、廃墟なのか?」 

「アクティス!」 

「何だ?サヤ。人が絶えているかのよう、だと貴様も思っていたではないか。思念も何も感じないなど、煩わしくなくていい、という以前の問題だ」 

 念話が出来るサヤたちは、常に人の会話のなかに居ると言っても過言ではない。 

 それを防ぐための措置はするが、こうして人の念を聞こうとしても何も聞こえてこないというのは、サヤたちにとって不気味でしかなかった。 

「滅びました。ひとりを除いて全員」 

「滅んだ?でも、こんなに街はきれいに整備されていて。人の気配が無いことを除けば、文明の発達した都市に見えるけど」 

 俄かには信じられない、というサヤをキーラムは静かに見返す。 

「専用の機械人形がいますので」 

「あ」 

「住宅用の機械人形たちはね。もう住む人のいない家を整え、二度と命じられることのない調理をするために、いつも働いているんだ」 

 『だから、街はきれいなんだよ』と寂しい笑顔で言うハーネスに、サヤは言葉を失った。 

「滅びの街、か。インディ全体が、こうなのか?」 

「そうだな。中枢がやられたとして、地方では助かった人間もいるのではないか?」 

「それはありません。各地の機械人形が、日々、罹患者と死亡者を報告していました。中枢が機能しなくなってからも、彼らは動き続けていましたので」 

 アクティスとナジェルの言葉に、キーラムはそう言って頭を下げる。 

「ですので、マジェスティをお助けいただけるのは、皆さま方だけなのです」 

「罹患・・死亡ということは、何か病気が原因なの?」 

 サヤの問いに、ハーネスがこくりと頷いた。 

「そうだよ。一地方都市で発生した、未知なる疾病。感染力の高いそれが、瞬く間にインディ全土に伝播し、対応策も間に合わない勢いで人々の命を奪っていったって、俺には記録されている」 

「もちろん、人々は必死に抵抗しましたが、力及ばず・・ただ最後に、未だ幼い先代マジェスティのお子様を守る手立てを掴み取りました」 

 その時を実際に見たわけではないハーネスもキーラムも、辛そうに眼を伏せながら、その子だけが希望なのだと言い募る。 

「小さい子だけが、残されてしまったのね。そのお世話は?それも、担当の機械人形がいるの?」 

「俺達が、マジェスティのお世話係だよ!」 

「しかし、それほどの感染力だったのなら、その子も罹患していないとは言い切れないのではないか?」 

 目を煌めかせるハーネスに、アクティスが鋭い目を向けた。 

「感染の事実はありません。それを確認した後、外界から完全に遮断した場所に移されましたので」 

「どこかに閉じ込めたのか?いやしかし、それが出来たのなら、何故他の者には適用しなかった?場所が無かったのか?」 

「はい。そこには、マジェスティおひとり入るので、精いっぱいです」 

 答えたキーラムに、アクティスが尚も厳しい目を向ける。 

「では、この土地は?その病原菌が、今もはびこっているということなのか?」 

「アクティス?でも、キーラムやハーネスには何も問題が無いように見える・・・・あ」 

「愚鈍だろう、貴様」 

 キーラムもハーネスも機械だった、と口を押えるサヤに、アクティスは容赦のない言葉を浴びせた。 

「浄化は既に済んでいますので、ご安心ください」 

「来てしまったのだから、信じるしかない、か」 

 インディに着くまで言わなかったのは、故意なのだろうとアクティスはため息を吐く。 

「だまし討ちのような真似をして、申し訳ありません。ですが、マジェスティを助けるためには、こうするしかありませんでした」 

「お願いします。マジェスティを、助けてください」 

 キーラムに続いて、ハーネスも頭を下げる。 

「貴様らはそうして、助けてほしいと言うが。具体的には?」 

「何か、問題が発生したの?」 

「はい。マジェスティが眠る装置に、異常が発生しました」 

「え?それって、機械を直してほしいってこと?それこそ、こちらの機械人形たちの方が、向いているんじゃない?」 

 トルサニサの能力が高いから、という理由で連れ出されたサヤは、困惑の瞳をキーラムとハーネスに向けた。 

 
~・~・~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、投票、ありがとうございます。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...