トルサニサ

夏笆(なつは)

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41、襲撃

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「サヤ先輩!聞いてください!やりました!今回は、ラトレイア認証もらえました!もちろん、ラトレイア・パートナーもいるっす!」 

 定期試験の結果が発表された夜、食堂に入るなり駆け寄って来たバルトに突撃され、サヤはその場でよろめいた。 

「・・・・・カルドアの息子バルト。何か、わたくしに恨みでもあるのですか?」 

「え?ないっすよ!って、いうか、フレイア先輩もナジェル先輩に支えてもらったんだから、いいじゃないっすか・・・って、ことで、こんばんは。ナジェル先輩!俺、ラトレイア認証もらえました!これも、サヤ先輩とナジェル先輩のお蔭っす!ありがとうございます!」 

 サヤの後ろにいたがために巻き込まれたフレイアが鋭い瞳でバルトに苦言を呈すも、バルトは気にすることなく、フレイアの後ろで三人を支える形になったナジェルへきらきrきらきらした目を向ける。 

「ごめんね、フレイア。ナジェルも、ありがとう」 

「いや。僕が居てよかった。フレイアやサヤでは、バルトを支え切るのは無理だろう」 

「そうですわよ、パトリックの娘サヤ。まるで、赤い犬が突進して来るかの如くでしたもの」 

 サヤの言葉にナジェルが問題無いと首を横に振り、フレイアは、謝るべき人物は他にいます、とバルトを見やった。 

「・・・すんません。嬉しくて、つい」 

「次からは、気を付けてね?」 

「はい。サヤ先輩」 

「まあ、初めてラトレイア・パートナーを持てることになって、はしゃぐ気持ちも分かりますからね。でも、今度だけですわよ?」 

「はい。すんませんでした、フレイア先輩・・・・さってと。今日の夕めし何だろう」 

 三人に改めて頭を下げたバルトは、しかし顔を上げた時にはけろりとした顔でそう言うと、くんくんと鼻を鳴らしながら歩き出す。 

「切り替えの早さは見事だな」 

「ふふ。本当にね」 

「はあ。あれ、学習していませんわよ」 

 そして少々呆れたように言った三人も、苦笑しつつバルトの後に続いた。 

 

 

「・・・・・ここまでラトレイア・パートナーが変わらないのは、士官学校始まって以来初めて、ですって」 

 教官室を出て廊下を歩きながらサヤが言えば、レナードも何とも言えない顔で頷きを返した。 

「教官も、苦笑していましたね。通常は、色々な相手と組んでみるのも経験とするのだと」 

 正規の軍人となれば、長く同じ人物をラトレイア・パートナーとすることは珍しいことではない。 

 しかし、士官学校在籍の間は、固定のパートナーを持つことなく、様々な特色を持つ者同士で組むことで、自分の多様性も図る狙いがあるのだが、この学年は、上位二位までの四人に限って、その順位に変動が無いため、組む相手も同じとなっているのが現状。 

「これはもう、サヤとレナードに頑張ってもらうしかないな」 

「何を言っているのですか、ナジェル。私とサヤが一緒に上がれば、また同じ相手がパートナーではないですか」 

「安心しろ。俺が落ちることはない」 

 ナジェルが苦笑して言うのに、レナードは皮肉な笑みを返し、更にアクティスが、無表情のまま無敗宣言をする。 

「これはもう、順位でっていう仕組みを何とかしてもらうしか・・・・え?」 

 こんな理由で教官に呼び出されても、自分たちにはどうしようもない、と呟いたサヤは、何かが高速でこちらへ向かって来るのを感知し、咄嗟に窓を見た。 

「どうした?サヤ」 

「どうしましたか?何かありますか?」 

「何か、来る」 

 それが何かを確認しようと神経を集中するサヤに、アクティスが叫ぶ。 

「襲撃か!?何機だ?」 

「一機だけ、だと思う。でも、凄く速い!」 

「教官に連絡を」 

「敵機が接近している!全員窓から離れろ!」 

 サヤの言葉を受けてナジェルが教官へ念話を飛ばし、アクティスは周囲に居る士官学生たちに向けて叫ぶも、周りの反応は鈍い。 

「いいから退避しろ!」 

「サヤ、私たちも早く」 

「う、うん」 

 レナードに促され、サヤが窓から離れた所で、けたたましい警報が鳴り響いた。 

「遅い!」 

 ぎりっと歯を鳴らしたアクティスが、漸く動き出した士官学生たちをナジェルと共に誘導し、サヤとレナードもそれに倣う。 

「敵は一機だけよ!」 

 何故、一機だけなのか、それをサヤが疑問に思った時、窓の向こうに機影が見えた、と思った時にはすぐ近くにまで迫っていて、そこから人が飛び出した。 

「うそ」 

 サヤたちと違い、転移の能力を持たない敵軍は、当然の如く硝子に体当たりすることになる。 

 軍の特殊加工を施した強化硝子は、銃弾さえも防ぐと言われている逸品。 

 その硝子に向かって人が挑むなど何と無謀な、と思うその一瞬で、その人物は硝子を突き破って内部への侵入を果たしてしまった。 

「きゃあ!」 

「嘘だろ!?」 

 士官学生たちの叫びのなか、侵入者は迷わずサヤの元へと駆け寄って来る。 

「なっ」 

 そして、応戦すべく構えを取ったサヤの腕を難なく掴むと、侵入者は一目散に窓へ走り、飛び降りて、その場で待機していた機体へ飛び移った。 

 それと同時に元来た方へと動き出す機体。 

「サヤ!」 

「っ!」 

「サヤ!」 

 ナジェル、アクティス、レナードの叫びを聞きながら、サヤは声を出すことも出来ないまま、敵機へと収容された。 

「くそっ」 

「いけるか!?」 

「なっ。ふたりとも、何をする気ですか!?」 

 まさかと叫ぶレナードをその場に残し、ナジェルとアクティスは、共にその場から姿を消す。 

「正気ですか?高速移動している機体へ跳ぶなど」 

 信じられない、とその場に立ち尽くすレナードの髪を、吹き抜ける風が容赦なく乱した。 

 
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