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13、厄日
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あの大きな揺れから数日。
幸い、後遺症が残るような大怪我をした者もなく、後片付けも無事に終わった、のだが、ナジェルとサヤの間には、妙なしこりのような物が出来てしまった。
『すまない、サヤ。君をひとりにしてしまった』
『そんな。怪我をした人を運んだものだもの、仕方ない、というより当然のことじゃない。ナジェルが私に、そんな風に言う必要ないわよ』
混乱が収まってすぐ、サヤの元へと来たナジェルは恐ろしいほどに落ち込んでいて、サヤは心からそう言った。
『しかし。君が一緒に来てくれると、それが当然だと思っていたのだが』
『それは、ごめんなさい。でも、彼女にはナジェルが付いていれば充分だと思ったの』
その後の図書館での救助を思えば、それで正解だったとサヤは今も思っている。
『ああ。見事な指揮官ぶりだったと聞いた』
『それ、茶化しも入っているから。それより、あの彼女の具合はどう?』
見た目では、それほど大きな怪我は無かったように思う彼女の、あの熱のこもった瞳の方が気になる、とサヤはナジェルを見つめた。
『捻挫はしていたが、大したことは無いと聞いた』
『そう。この後、お見舞いに行ったりするの?』
運命の出会いの後はどうなるのか、サヤはとても気にかかる。
『いや。そのような予定は無いが。サヤは、行きたいのか?』
『私が行ってどうするのよ』
直接見たい気はするけれど邪魔はしない、とサヤは苦笑するしかない。
『それを言うなら、僕だって同じだろう』
『同じ?そんなわけないでしょ』
もしやナジェルは、彼女の、あの熱のこもった瞳に気付かなかったのか、と真顔のナジェルを見て、サヤは怪訝な表情になった。
『サヤ?』
うーん。
これって、ナジェルは何も感じなかったってこと?
でも、そんなわけないわよね。
あの時、怪我をした彼女を見て、あんなに慌てて広場に跳んだのだから。
『運命だと、思うんだけど』
『っ・・運命・・・』
『ああ、ごめんなさい、ナジェル。そうだとしても、私に言う必要なんて・・って、ナジェル?』
『運命・・サヤが・・・』
あの彼女がナジェルを運命と感じ、ナジェルが同じように感じたとしても、サヤにそれを報告する義務はない。
その事に思い至ったサヤが、突っ走ってしまった、と謝罪するも、ナジェルは、その言葉が聞こえなかったかのように、瞬間移動して行ってしまった。
『え!?ナジェル!?』
今の今まで話をしていて、何の挨拶もなくナジェルが立ち去るなど初めてのことで、サヤは自分の失言の大きさに、頭が白くなるのを感じた。
「ほんっと、私って馬鹿よね・・・運命の出会いを目撃してしまった、ってひとりで盛り上がって・・はあ。そっとしておいてくれ、って思われたかしら。そうよね。出歯亀もいいところだもの」
思えば思うほど礼儀知らずだった自分しか思い浮かばず、ぽすん、とクッションに顔を埋め、ため息の尽きないサヤだった。
悩んでいても、日は昇る。
寝不足のままベッドで陽のさすカーテンを見つめ、そんな詩人めいた事を考えたサヤは、その日の訓練が、ナイフを使った白兵戦である事を思い出して、益々気が滅入るのを感じた。
苦手、なのよね。
凶器を手に持ち、直に敵を討つ。
特殊能力だけに頼ることなく臨機応変に戦えるよう、体術を鍛えるのが目的と分かっていても、戦闘時、主に最終手段として用いられるその生々しさが、サヤには堪らなく苦痛だった。
「・・・・・・・」
「大丈夫か?パトリックの娘」
それでも何とか準備を整え、闘う決意を固めて対戦表を確認したサヤの表情が、一瞬で凍り付く。
「今日って、厄日なの?」
「厄日?・・・ああ、なるほど」
思わず漏れたサヤの呟きに、隣で対戦表を見ていたレミアが、サヤの対戦相手を確認すると、苦笑してサヤの顔を覗き込んだ。
「まあ、合同だしな。諦めて伸して来い・・って。おーい」
茶化して言うも、反応の無いサヤの額に自分のそれを当てて、レミアは楽しそうに笑った。
「ほら、サヤ。笑え」
「う、うん」
言われた通り笑ってみるも、サヤは引き攣った表情しか作れず、それが自分でも分かるだけに余計に落ち込んでしまう。
「勝って、笑ってみせろ。約束だ」
「・・・・・最善は、尽くすわ」
胸を張り、強く言い切るレミアに、サヤは曖昧な瞳を返すことしか出来なかった。
~・~・~・~・~・~・
しおり、ありがとうございます。
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