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四十六、空色のとんがり屋根
しおりを挟む「お、あった!空色のとんがり屋根の店。ここって前に、レオカディアが行きたいって探してた店だよな?」
「あの折は、改装でもしていたのか。よかったな、レオカディア」
「ディアの言う通り、いい匂いがしている。早速、行ってみようか」
「え・・ええ」
ナルシソから話を聞いて数日。
レオカディアは、エルミニオとセレスティノ、それにヘラルドといういつもの顔ぶれで<シャイザーンの店>を訪れていた。
あの時は、見つけることも出来なかったのに、今日はちゃんと空色のとんがり屋根が見えるわ。
どういうことかしら。
それに、三人とも、あの時見えなかったのは改装中とか言って、不思議にも思っていないのが、不思議よね。
あの時も、この辺りは改装している店などなかったというのに、三人とも、あの時なかった店が今日はあることを当然と受け止めている。
ゲームの強制力、の逆の力が作用して、現実に即した考えに導いているとか?
「ディア?どうした?この店じゃなかったのか?」
辻褄が合うようになっているのか、と、レオカディアが考えていると、エルミニオが心配そうに声をかけて来た。
「う、ううん。私も初めてだから、こんな感じなんだって思って」
「そうか。ディアが行きたい店を見つけることが出来て、ぼくも嬉しい」
そう言って笑うエルミニオの笑顔が眩しいと思いつつ、レオカディアは店の扉を潜った。
『特別な貴女にだけ扉を開く店<シャイザーン>』だった筈なのに、店内は多くのひとで賑わっていて、レオカディアは、まるで違う店に来たかのような錯覚を覚える。
照明も明るいし、人々の笑いで満ちているし。
まったく違う印象のお店よね。
陰気で怪しい雰囲気を醸していた<シャイザーンの店>とは、何もかもが違うと、レオカディアは陳列された商品を見つめた。
「ディア。このクッキー、うさぎの形をしている。ディアみたいで可愛い。おいしそうだ」
「おいおい。それはどういう意味なんだよ?」
「まったくだ。『レオカディアみたいで可愛い』は、分かるにしても、おいしそうってなんだ。おいしそうって」
「それだと、レオカディアがおいしそうってことになるぞ」
エルミニオの何気ない発言に、ヘラルドとセレスティノが反応し、笑いが起こる。
それは正に四人の日常で、レオカディアもいつのまにか一緒に笑っていた。
ああ、そうか。
違うお店みたい、じゃなくて、違うお店なんだわ。
ここは、ゲームの世界でヒロインにしか開かなかった<シャイザーンの店>ではないのだと実感して、レオカディアは自然と肩の力が抜けるのを感じる。
今、自分の傍には、エルミニオがいて、ヘラルドがいてセレスティノも居る。
そして家に帰れば家族が、最後の攻略対象であった筈のブラウリオが居る。
彼らは、ヒロイン、ピアに靡くことなく、ずっとレオカディアの傍に居てくれた。
それは、これからも変わらないのだろう。
私が、努力し続ける限り。
優しい焼き菓子の匂い、そして温かな人々の笑顔に包まれて、レオカディアは、漸くこの地に根を深く下ろしたことを実感していた。
完
~・~・~・~・~・~・
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【】内は作品より引用させて頂きました。
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桃色な事を考える…だと、一般的には性的な事を考えるという意味になるかと思います。
(左翼という意味合いも有りますが、エ○い意味で使われる事が圧倒的に多く感じます。)
勿論、その前の文章を読めば裁きの場でレオカディアがエ○い事考えていないのは分かるのですが、直前の文章と合わせると誰の何が凄いの…?!とちょっと大人な妄想をしてしまいました…(すみません…!)。
作者様がご存知で意図して使用している表現でしたら無視して下さいm(_ _;)m
連載、楽しく拝見しています。
更新頑張って下さい。
知風様
こんにちは、夏芭です。
桃色なこと、つまり恋愛脳というような意味で使いました。
あわわ。
そこまで大人な感じではないつもりだったのですが、そう感じられることもあると知れてよかったです。
ありがとうございました。
こんばんは🌛いつも更新されるのをたのしみにしています!
レオカディアとエルミニオのほわほわじわじわ恋愛パートと、妄想クズ女と今回でてきた阿婆擦れ勘違い女をざまぁするのが楽しみすぎて、更新されたのを読んだあとは次の日までが長くて大変です。
ああ、エルミニオがざまぁしてくれるのを楽しみにしております。
神楽坂様
こんばんは。
ご感想ありがとうございます。
楽しみにしていると仰っていただけて、とても嬉しいです。
うまく言葉にできませんが、本当に喜んでおります。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
とっても励みになります。