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三十八、御白州
しおりを挟む「眠れないかと思ったけど。私って図太いのね。ふわあ・・今日もいい天気。良く寝た」
狩猟大会、つまりはバリゲラの襲撃を受けた翌日。
レオカディアは、いつもの時間に、自分のベッドで清々しく目を覚ました。
「それなりに怖かったんだけどな。ちゃんと眠れちゃうとは。ほんと図太い・・・ん?淑女が図太いってどうなのかな・・・。でもまあ、私は繊細なお姫様って柄でも無いし、いっか」
早々に悩むのを切り上げたレオカディアは、健康なのはいいことだと割り切って、身支度を済ませると朝食の席へ向かう。
「あ!おはようございます、ねえ様!大丈夫ですか?ちゃんと眠れました?怖くて眠れなかったら、僕の所に来ていいですよって言ったのに、来ないので心配しました」
食堂へ行けば、既に来ていたブラウリオが、心配そうに駆け寄って来た。
「大丈夫よ、ブラウリオ。ちゃんと眠れたわ。心配してくれてありがとう」
ぽんぽんと肩を叩き、少し遅れて現れた両親にも同じように声をかけられたレオカディアは、家族の温かさを感じながら朝食を摂る。
「ねえ様。今日も王城へ行くのですよね?」
「そうよ。関係者として、聞き取りもあるでしょうからね」
昨日は、疲れているだろうからと早々に帰してもらったレオカディアは、それくらい協力しなくてはと言って笑った。
「もう、危険はないのかしら?バリズラの王女殿下も関わっているのでしょう?心配だわ」
「ああ。エルミニオ王太子殿下の妃になるなどと、宣っているらしいからな・・・レオカディア。身の危険を感じたら、王城とはいえ何をしてもいい。殺しさえしなければ、この父がもみ消してみせる」
事後処理は任せろと凛々しく言う父に、母も弟も力強く頷き同意するのを見て、レオカディアは頬を引き攣らせつつ、礼を言うことしか出来なかった。
「ディア!」
そして王城へと行けば、馬車を下りる所まで自身で来たエルミニオに出迎えられ、肩に両手を置かれて、顔を覗き込まれる。
「ディア。昨日の今日で呼び出してごめんね。心は疲弊していない?体は?どっちも大丈夫?辛くない?」
「大丈夫です。エルミニオ様こそ、お忙しかったでしょう。お疲れ様です」
昨日。
レオカディアを心配し、早々に帰してくれたエルミニオだが、自身は、王子という立場から大変だったはずと、レオカディアはエルミニオの目を見つめた。
「ああ・・ディアにそうやって労わってもらうの、最高だな」
「エルミニオ様?」
「力が湧くってこと。安心して、ディア。今日ですべて決着するから」
「え?今日で、ですか?」
「うん、そう。僕の部下は、とても優秀な者揃いなんだ」
『昨日の今日で、何という早業』と、感心するレオカディアの手を引いて、エルミニオはどこかを目指して歩き出す。
「あの、エルミニオ様?こちらへ行きますと、庭ですが」
「うん。それでいいんだよ」
これから襲撃に対する調査結果を聞き、自分も状況説明をするのだと思っていたレオカディアは、目指す場所が建物内ではないと聞き、先に少し庭を歩いて気持ちを落ち着かせてくれるつもりなのかと解釈した。
確かに、大臣たちを前に話をするの、結構気持ちが張るものね。
初めてではないが、否、だからこそ、あの緊張感は知っていると、レオカディアは木々を渡る風の音を聞く。
ああ、癒される・・・って、あれはなに?
「着いたよ、ディア。あそこで、審判を下す」
「あそこで?」
真顔で言われて、レオカディアは改めてその場を見つめる。
あれって、御白州?
いや、白い砂利じゃなくて緑豊かな芝だし、お奉行様が居る純和風の建物じゃなくて大きなガゼボだけど。
造りが。
造りが、まるで御白州。
ガゼボには、裁く側が座るのだろう。
きちんとテーブルとイスが用意され、既に、セレスティノとヘラルドが座って待機している。
そして、ガゼボの前に広がる芝には、バリズラの原住民が、後ろ手に縄を掛けられた状態で膝を突いており、その前にはドゥラン男爵令嬢とミゲラ王女が居る。
ふたりは、王族、貴族ということで縄こそ打たれていないが、芝に直接座らされていて、かなり不服なのか、暴れているように見えた。
「エルミニオ!助けに来てくれたのね!」
「エルミニオ!この扱いは何だ!・・・・ちょっと離してよ!あたしは、バリズラの王女なのよ。それに、エルミニオの妃となる身なのに、こんな真似して。お父様が黙っていないわ」
そして、エルミニオの姿を認めたふたりが口々に言うも、エルミニオはそちらを見ることもしない。
え。
今、こっちに走って来ようとしたけど、一瞬で護衛に抑えられた、のが、ミゲラ王女殿下ってことよね?
ん?
エルミニオ様に対するのと、他のひととでは言葉遣いが違うような。
「さ、ディアの席はここだよ」
エルミニオ様に対しては、甘えるというより凛々しい言葉遣いなのは何故だろう。
エルミニオ様に対してこそ、女性らしい言葉を使うものなのでは?
などと考えているうちに、ここだと促されたレオカディアが席に着けば、エスコートを終えたエルミニオもその隣に座る。
ふたりの後ろには、セレスティノとヘラルド。
エルミニオの隣に、国王と王妃が座る椅子も用意されているのを見て、レオカディアは気持ちを引き締めた。
~・~・~・~・~・~・
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