溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
上 下
36 / 46

三十六、薔薇祭 ~捕縛~

しおりを挟む
 

 

 

「ディア!怪我は無いか!?」 

 レオカディアを強く引き寄せ、その温かな手で、顔や肩、腕にそっと触れて確認するエルミニオの姿に、レオカディアは気が抜けたように頽れかけ、エルミニオに支えられる。 

「ディア。怖い思いをさせてすまない。もう大丈夫だ」 

「ああ・・・エルミニオ様・・あ、ヘラルドが」 

「ヘラルド!怪我は!?」 

「ねえよ・・はあ、良かった」 

 手首に絡み付いている縄をセレスティノに外してもらいながら、ヘラルドがにかっと笑って見せた。 

 そんな四人の視線の先では、バリズラの原住民達が、騎士団に拘束されて行く。 

「バリズラの原住民か。つまり、ディアを危険に陥らせたのは、あの王女ということで確定だな。これ以上ない証拠、証人を捕獲、と。さて、どう料理してやろうか」 

「ああ・・そのだな、殿下。気持ちは分かるが、ものすっごく悪い顔になってるぜ?」 

「レオカディアの前では、取り繕っていくつもりかと思っていたんだが。もういいのか?」 

「あ」 

 ヘラルドとセレスティノの言葉に、エルミニオがしまったというようにレオカディアを見る。 

「大丈夫よ。為政者がきれいごとで済ませられないなんて、当然のことだもの。それに」 

「それに?」 

「そういうエルミニオ様も、凛々しくて素敵だと思うから」 

「ディア!」 

 『まあ、分かってもいたしね』と笑うレオカディアに、複雑な表情になりつつも、エルミニオは安堵したようにレオカディアの髪を撫でた。 

「ああ・・・なんてえか。俺らの主って、私生活では、べったべたな相愛、溺愛ぶりだよな」 

「今更だな。それに、険悪な状態より、ずっといいじゃないか」 

 そんなふたりを見守り、ヘラルドとセレスティノが馬の無事を確かめている所に、レオカディアも合流する。 

「攻撃されても、大人しくしていてくれて、ありがとう。今日は、たくさん怖い思いをさせてごめんね。帰ったら、角砂糖とにんじんをあげるからね」 

 そう言って馬の首を優しく撫でるレオカディアに、セレスティノが思わず吹き出した。 

「え?どうかした?」 

「いや。さっき殿下も、同じことを言っていたから・・ああ、きちんと説明する」 

 何故、エルミニオが馬に角砂糖とにんじんをやると言ったのか。 

 その説明をするため、セレスティノは、バリズラの王女とピアが現れたことから話し出す。 

「なるほどな。それで殿下はレオカディアを追って来なかったわけか。いつでも、どんな時でもレオカディアが最優先の殿下にしては、珍しいと思ったんだよ。ま、他国の王女殿下が相手じゃ、仕方ないな」 

「何を言うヘラルド。ディアを最優先に考えた結果、王女をさっさと帰らせるのが最上だと判断したから、だ」 

 決して王女を優先したわけではない、とヘラルドに強く言いながら、エルミニオは心配そうにレオカディアを見た。 

「大丈夫です、エルミニオ様。私、エルミニオ様を信じていますから」 

「ディア!ああ、でも、ディアをこんな危険な目に遭わせると分かっていたら、あんな奴ら放置しておいたのに」 

「やめてください。国際問題になります」 

 きりっと真顔で冷静に言うレオカディアの、その肩を軽く叩いたセレスティノが、揶揄うように口を挟む。 

「レオカディア。殿下は<もし>や<万が一>の可能性で、バリズラの王女を自分の妃に捻じ込まれないよう、細心の注意を払っていた。自分の妃はレオカディア以外いないと。本当に、愛されているな」 

「え。それって、バリズラの王女殿下は、エルミニオ様の正妃の座を狙っているということ?じゃあ、突然来た王女というのは、ミゲラ殿下ではないの?」 

 『そんな行動をとるのは、てっきりミゲラ王女殿下だと思った』と、不思議そうに言ったレオカディアに、エルミニオはうんざりしたように肩を竦めて見せた。 

「いいや。ディアは間違っていないよ。こちらの迷惑顧みず、突撃して来たのは、あの災厄級に性質の悪い、ミゲラ王女だ」 

「でも、ミゲラ王女殿下は、ヒレワサのアウレリアーノ王子殿下にご執心だって、テレサ様が困っていらしたけど?」 

 アウレリアーノ王子の婚約者、テレサと親交のあるレオカディアが『そんなに前のお話でもないのよ?』と首を捻る。 

「そうなんだが。今は、僕の正妃の座を狙っているらしい。自分が正妃になったら、あのドゥランの迷惑女を側妃にすると宣っていたからな」 

「わあ・・・随分、お話が進んでいるのね。というか、ドゥラン男爵令嬢とミゲラ王女殿下は、どこで知り合ったのかしら?」 

 『奴らが話した事実として、伝えておく。不快な話でごめんな』と、自分こそは不快そのものの表情で言ったエルミニオにレオカディアが言ったところで、ひとりの騎士が走り寄って来た。 

「捕縛、及び証拠品の回収が終了しました」 

「分かった。では、これより帰城する」 

「はっ」 

「さあ、ディア。帰ろう」 

 凛々しい顔で騎士に指示したエルミニオは、そう言って蕩けるような笑みを浮かべて、レオカディアへと手を差し伸べた。 


~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...