溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)

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三十二、薔薇祭 ~異国の王女~ エルミニオ視点

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「ディア!ディア!・・・・くっ、縄か!?」 

 突然全力で走り出したレオカディアの馬を追おうとするも、飛来物はレオカディアの馬の鼻先で炸裂したひとつではなく、自身が乗る馬の脚へもあったと確認していたエルミニオは、急ぎ馬から下り、その足に縄が絡みついているのを発見した。 

「殿下!ご無事ですか!?」 

「ああ、セレスティノ。僕は問題無い。馬も、無傷だ」 

 普段の冷静さをかなぐり捨てた様子で現れたセレスティノに答えながら、エルミニオは落ち着かせるように馬の首を優しく撫でる。 

「よかった。一体、何が」 

「飛来物が二つ。ひとつは、ディアが乗る馬の鼻先で炸裂し、ひとつは僕の馬の脚に絡んだ」 

「飛来物が炸裂!?」 

「ああ。だが、爆発物ではない。恐らくは、馬を驚かすのが目的だろう」 

 言葉を紡ぎつつも、エルミニオは暴れ馬に乗ったままのレオカディアが気にかかって仕方がない。 

「ヘラルドが追いかけるのが見えた。あのふたりなら、大丈夫だ」 

「ああ。そう信じるよ・・・さて、また乗せてくれるか?」 

 何とか馬も落ち着いた頃合いで、エルミニオはそう言って馬に跨ろうとして、嫌な予感と共に振り返った。 

「エルミニオぉ!セレスティノぉ!ピアのこと、待っててくれてありがとおお!」 

「貴様を待っていた事実は、欠片も無い」 

 馬ではないピアは、ここまで懸命に駆けて来たのだろう。 

 ぜいぜい、はあはあと息を切らしている。 

 そして、その隣にもうひとり。 

 まるで、狩人のような装いの少女が、きらきらと輝く瞳でエルミニオを見ていた。 

「あ!気になるよね!こちら・・ええと・・海の向こうの国のミゲラさん!お姫様なんだって」 

「ミゲラよ。よろしくね、エルミニオ王子」 

「来訪の連絡は、いただいていませんが」 

  

 ミゲラ姫といえば、あれか。 

 ヒレワサのアウレリアーノ王子が言っていた、バリズラの迷惑王女か。 

  

 ピアが言うところの海の向こうの国、バリズラの第四王女ミゲラは、我儘な贅沢者、そのうえ相当な節操無しで有名だった。 

 エルミニオが交流のあるヒレワサのアウレリアーノ王子も、その標的にされたひとりで、婚約者が居るといくら言っても聞き耳を持たず苦労した、とげんなりした表情で言っていた。 

 

 まさか、僕がその加害者に遭うことになるとはな。 

 

「連絡は入れていないもの。来たいから来たのよ」 

「それでは困ります。失礼ながら、王女殿下が本物という確認をさせていただかなくてはなりません」 

 すっ、と一歩前に出たセレスティノが言った言葉に、ミゲラが真っ赤になって目を吊り上げた。 

「失礼でしょう!あたしは、エルミニオ王子の正妃になるのよ!?あんたなんて、下僕よ、下僕」 

「世迷い言を言わないでいただきたい。私には、レオカディアという素晴らしい婚約者がいます」 

 『貴様なんか、ディアの足元にも及ばないんだよ!』とは心のなかだけで、エルミニオは王子としての対面を保つ。 

「世迷い言じゃないよ、エルミニオ!だって、王女様なんだよ?レオカディアなんか、身分も足元に及ばないじゃん」 

「ドゥラン男爵令嬢。言葉を慎め。ディアを呼び捨てにするうえ、公爵令嬢である彼女を愚弄するなど、許されることではない」 

 即座に厳しくエルミニオが糾弾すれば、ピアはひっと言ってミゲラの後ろに隠れた。 

「エルミニオ王子。今は男爵令嬢かも知れぬが、側妃となれば公爵令嬢より立場が上だろう」 

「我が国に、側妃という制度は無い」 

 一夫一妻の国の王子に向かって何を言うかと、エルミニオは侮蔑の表情でミゲラを見る。 

「失礼ながらミゲラ王女殿下に申し上げます。我が国のエルミニオ王太子殿下は、婚約者であるアギルレ公爵令嬢を溺愛していることで有名です」 

「それも、誤報だと聞いた。まこと溺愛しているのは、ここに居るピアだと」 

「そのようなこと、誰から?」 

 言外に、エルミニオはレオカディア以外見向きもしないから諦めろ、と言ったセレスティノに、分かっているから隠さなくていいと、ミゲラが笑う。 

「ピアが教えてあげたの!本当にエルミニオが好きなのは、ピアだって。あ!セレスティノとヘラルドが、ピアを好きな事も知ってるから!安心してね」 

「世迷い言の次は、妄言か」 

 これは、どう対処すべきかと、一応恐らくは本物のミゲラ王女なだけにエルミニオもセレスティノも頭を悩ませる。 

「殿下。ともかく、一度城へ戻りましょう。襲撃された報告も必要です。王女殿下をどのように扱うのか、その相談もしなければならないでしょうから」 

「そうだな」 

 公での言葉使いで言うセレスティノの案を聞き、今はそうするのが一番だと理解しつつも、エルミニオはレオカディアが暴れ馬に乗ったまま激走して行った道の先を見つめてしまう。 

「ヘラルドが付いています。それにもし、何かあればヘラルドが抱えて戻っているかと」 

「ああ。ディアは、馬にも乗り慣れている。無事に、決まっているよな」 

 自身に言い聞かせるように言って、エルミニオは森の外へと馬首を向けた。 

 
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