30 / 46
三十、薔薇祭
しおりを挟む「レオカディア。今日、一番の獲物を君に捧ぐと誓う」
「はい。エルミニオ様。楽しみにしております」
レオカディア毒殺未遂の犯人を捕らえることが出来ないまま、季節は夏を迎え、薔薇祭の頃となった。
幸い、先に行われた建国祭では、厳重な警戒態勢を敷いたことが良かったのか、特に大きな事件はなく、安堵も覚えたレオカディアだが、ピアの攻略計画は着々と進んでいるようで、エルミニオ達からは、遂にクッキーを貰ったという報告も受けている。
ヒロイン、懸命に稼いでいるんだろうなあ。
攻略用の飴やクッキーを買うにも、当然の如く代金が必要であり、ゲームではそれを日雇いのバイトで稼いでいたと、レオカディアは懐かしく思い出した。
子守りに、掃除に、売り子。
色々あったな。
「しかし、漸く狩猟大会には参加できる年になったな」
「やっとだぜ!腕が鳴るぜ!」
薔薇祭では、幾つかの行事が存在し、年齢によって参加できる物が決まっている。
中でも花形の剣術大会は、毎年腕に覚えのある騎士たちも参加するとあって、国中の娘たちの話題が集中することで有名だった。
しかし、その剣術大会に参加できるのは、十八歳以上の者のみ。
そして、次点で人気のある狩猟大会も参加資格は十五歳からとあって、エルミニオ達は今日という日をとても楽しみにしていた。
「あら。セレスティノもヘラルドも、私と一緒に薔薇を愛でるのは嫌だったということ?」
「い、いや。そうじゃねえけど!」
「分かっていて、言うな」
去年までも、当然一緒に過ごしていたレオカディアがわざとらしくそう言えば、ヘラルドが焦ったような声をあげ、セレスティノは、そのような煽りには乗らぬと薄く笑う。
「あら、残念。だって、私だけ詰まらないんだもの」
レオカディアは、弓を得意としている。
それは、幼い頃よりエルミニオ達と共に鍛錬したからなのだが、この狩猟大会で女性が獲物を狩ることは出来ない。
女性は、獲物を狩るのではなく、獲物を狩る男性の助手をするのが役目とされており、共に森へ入れるし、共に馬で歩くことも出来るが、自身で狩ることは許されていない。
「ディア」
「大丈夫よ、エルミニオ。それに私、的を射る方が好きだから」
何とも言えない顔で自分を見ているエルミニオに気付いたレオカディアは、そう言って笑顔を見せた。
「では、行くか」
「はーい。みんな、矢の管理人は私なんだから、置いて行ったりしないでよね」
わざとらしく眉を上げて言えば、ヘラルドとセレスティノも釣られたように笑い、四人はそれぞれ馬に乗って森のなかへと入って行く。
「それにしても、弓で、という縛りさえ守れば、狩りをするのは単独でもいいし、女性を含めた五名ほどのチームでもいい。おまけに、開始時間も、終了時間も決まっていない、今日であればそれでいいなんて、相当ゆるい・・んんっ・・自由な規則よね」
「ディア。緩い規則って言っちゃっているよ」
ぱかぱかと馬を歩かせながら、呆れた目で言ったレオカディアに、エルミニオが苦笑した。
「しかし、レオカディア。その緩い規則とするために、様々な論争があったらしいぞ。そもそも、女性は狩猟大会に参加すること自体、出来なかったそうだからな」
「ああ。僕も聞いたことがある。しかし、それを不服とした女性たちが立ち上がり、矢の管理のみという妥協点はあるものの、狩猟大会への参加資格をもぎ取ったわけだ。それで、チームを組む必要が生じたんだな。元は、単独だけだったというから」
「へえ。薔薇祭の狩猟大会に、そんな歴史が」
自分も女性なのに知らなかったと、レオカディアは反省し、感心して隣で馬を歩かせるエルミニオを見る。
「ああ、いや。多分、ディアにはわざと教えていないと思う。その、女性の社会進出をあまり強く訴える妃になっても困るとか何とか、大臣たちが言っていたから」
「・・・まあ。へえ、ふううん、そうなんですね」
「お!鹿だ!」
胡乱な目になったレオカディアから、そっと目を離したエルミニオは前方に運よく獲物の姿を捉え、手綱を握り直した。
「殿下。ゆっくりと回り込みましょう」
「俺達は左右から行くから、殿下は直進で」
「分かった。ディア、行くよ」
「はい。エルミニオ様」
獲物を見つければ、それまでの会話も感情も吹き飛ばして連携を組む。
師の教え通りにレオカディアは、エルミニオに続きながら矢立てと矢の確認を急いだ。
~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。
125
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます
kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。
イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。
自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。
悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない!
あとは勝手に好きにしてくれ!
設定ゆるゆるでご都合主義です。
毎日一話更新していきます。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる