溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
上 下
13 / 46

十三、食事会

しおりを挟む
 

 

 

「ねえ様!おかえりなさい!学院はいかがでしたか!?・・・って、殿下たちもご一緒でしたか」 

「お、不服そうだな?ブラウリオ」 

「分かっているなら、わざわざ言わないでください、ヘラルド様」 

 つんつんと頬をつつかれ、ブラウリオは嫌そうにヘラルドを見た。 

「ただいま、ブラウリオ。今日は、エルミニオ王太子殿下たちも、当家に来ることになっていると知っている筈でしょう?どうしたの?」 

「それはそうなのですが・・・ねえ様と一緒とは思わなかったので、驚いてしまったのです。ごめんなさい」 

 しゅんとしてしまったブラウリオに、仕方のないと苦笑して、レオカディアはそろそろ抜かされそうな背の高さの弟の頭をぽんと叩く。 

「よくない態度だったと分かったのなら、どうすればいいのかも、分かるわね?」 

「はいっ、ねえ様・・・エルミニオ王太子殿下、ミラモンテス公爵子息、キロス辺境伯子息、失礼な態度を取ってしまいましたこと、申し訳ありません。そして、改めましてようこそおいでくださいました」 

 先ほどまでの、甘え、拗ねた様子は何処へ行ったのか。 

 レオカディア達よりふたつ年下のブラウリオの、その見事な所作に、エルミニオがくすりと笑った。 

「相変わらず見事な変わり身だ。ブラウリオは、本当にディアが好きだな」 

「殿下に言われたくありません」 

「そうか。ディアに一番思われている僕に言われるのは、嫌か」 

「何をおっしゃいますか。ぼくだって、ねえ様に愛されていますから、羨ましくなんてありません!何といっても、ぼくは、ねえ様にとってたったひとりの弟なんですから」 

 仔犬が威嚇するようなブラウリオと、彼を揶揄いつつも、レオカディアの一番は、絶対に、本気で譲りたくないエルミニオ。 

 そんなふたりの遣り取りを、セレスティノとヘラルドがやれやれと見守る。 

「まったく。仲がいいのか悪いのか。同族嫌悪、というものだろうな、あれは」 

「言えてる。レオカディアが大好きで、レオカディア以外には辛辣なところまで、よく似ているからな」 

 『子供の頃から変わらない』と言うセレスティノの言葉に大きく同意しながら、ヘラルドは、遅れて現れたアギルレ公爵夫妻に、セレスティノと並んで礼をした。 

「出迎えが遅くなり、申し訳ありませんエルミニオ王太子殿下。セレスティノ殿、ヘラルド殿もよく参られた」 

「アギルレ公爵、公爵夫人。入学初日よりお邪魔してしまい、申し訳ない」 

「とんでもない。我が家はいつでも大歓迎です。さあ、こちらへ」 

 そう言って、アギルレ公爵夫妻は、応接室の方へと皆を案内する。 

「お父様。話し合いは、もう終わられたのですか?」 

「ああ。今回も、凄く有意義だったよ」 

 鮨産業や養豚、牧場関連でより強い繋がりの出来たアギルレ公爵家と王家をはじめ、ミラモンテス公爵家、キロス辺境伯家の四家は、様々な情報の共有、事業に関する相談のため、月に一度定例会を開くのが恒例となっており、今回はレオカディア達が学院へ入学した祝いも兼ねて、皆で食事をする予定を立てた。 

 

 みんなでお食事を、というのはいつものことだけれど。 

 制服のままで、なんて、変な注文よね。 

 

「ディア」 

「はい。エルミニオ様」 

 どうして制服のままなのか、と考えながら歩いていたレオカディアに、エルミニオがそっと声をかける。 

「今度ふたりで、学校帰りに街へ行こう」 

「え?危険ではないですか?」 

 自分はともかく、エルミニオは王太子という国の重要な人物だと、レオカディアが反対の声をあげれば、エルミニオが悲しそうな顔になった。 

「ディアは、僕と街へ行きたくない?」 

「そんなことありません。今までも、お忍びで行っているではありませんか」 

 だが、その時には予め街にも民衆に紛れた護衛が居た、と言うレオカディアに、エルミニオはにっこりと笑う。 

「じゃあ、制服デートの日も、予め警備を整えておくね」 

「制服デート」 

「そう。制服デート。ディアと制服で街を歩くの、すっごく楽しみだったんだ」 

「それは、楽しそうです」 

 エルミニオと制服で街を歩く。 

 それは確かにとても楽しそうだと、レオカディアも自然と笑顔になった。 

 

 

 

「・・・ああ、ねえ様。制服姿のねえ様も素敵です。そして今日も海老のグラタンがおいしいです」 

 うっとりと笑みを浮かべるブラウリオは本当に幸せそうで、見ているレオカディアも幸せな気分になるが、複雑でもある。 

  

 海老のグラタンは、ブラウリオの好感度を最大あげる個別アイテムなのよね。 

 自分で作っているわけではないとはいえ、私、ブラウリオの好感度を爆上げしちゃっているってこと? 

 それとも、私はヒロインじゃないから論外? 

 どっちなんだろ。 

 

「ねえ様。どうかしましたか?」 

 『それに、個別アイテムを使いまくっている、というならエルミニオ様も』と、とりのからあげを美味しそうに食べているエルミニオを視界の端で捉えたレオカディアに、ブラウリオが案じるような声をかけた。 

「いいえ。ただ、少し前まで『おねえしゃま、こえ、おいしいでし!』って、可愛く言っていたブラウリオが、こんなに立派になったんだな、って思って」 

「なっ。姉様。ぼくは、もう十三歳なんですよ?」 

 レオカディアの言葉に、もう小さな子供ではない、とブラウリオが大きく反応する。 

「そうよね。分かっているのよ?でも、すっごく可愛かったから」 

「ぼ、ぼくは、幾つになってもねえ様の弟です・・・それとも、もうぼくのことは、どうでもいいですか?」 

 きゅるん、とした目で見つめて来るブラウリオが可愛くて、レオカディアは大きく首を横に振った。 

「そんなわけないでしょ。幾つになっても、ブラウリオは可愛い、大切な弟よ」 

「ぼくも!幾つになっても、ねえ様が大好きです!」 

「おいおい、ふたりとも。兄様にいさまの存在も、忘れないでくれよ?」 

「「もちろんです!」」 

 ブラウリオとレオカディアの会話に、ふたりの兄であるクストディオも加わり、和やかな空気が流れる。 

 

 みんな、楽しそう。 

 

 この数年でエルミニオとセレスティノ、そしてヘラルドの絆はしっかりと強まり、重臣たちからも『次代も安心だ』と言われている。 

 

 あとは、ヒロインが誰を選ぶか、かな。 

 

 エルミニオと過ごす時間、そして、皆で過ごす時間を楽しいと思えば思うほど、自分がそこから消える時が来るのかと思うと寂しさが増していく。 

「おっ。この肉巻きおにぎりの中に入っているチーズは、うちの領のだな」 

「そうよ、ヘラルド。よく分かったわね。いつも、美味しいチーズをありがとう。キロス辺境伯ご夫妻も。いつもお世話になっております」 

「チーズ・・そうか、チーズ。ディアは、チーズも好きだものな。しかし、牧場の規模で敵うはずもない・・・」 

「エルミニオ様?」 

 笑顔で、キロス辺境伯夫妻とも会話を交わすレオカディアの横で、何かをぶつぶつ言い始めたエルミニオに、レオカディアが首を傾げた。 

「いや。僕の牧場では、ディアの大好きなチーズを作っていないからな」 

「でも、いつも美味しい牛乳を届けてくださるではありませんか。王都の近くに牧場を持たれるなんて、素晴らしいご慧眼です」 

「ディアにそう言われると、嬉しいな」 

 レオカディアの言葉に、厳しかったエルミニオの表情が、へにょりと緩む。 

「それに、殿下の牧場では、騎士団の馬の育成も始められたとか。そちらも、期待しております」 

 しかし、王国最強と言われる騎士であるキロス辺境伯に熱のこもった声で言われると、エルミニオの表情はたちまち引き締まった。 

「期待に沿えるよう、努力する。そして、助言いただけると有難い」 

「もちろんです、殿下。お力になれることあれば、何なりと」 

 キロス辺境伯領の馬は頑強とあって、エルミニオは王太子という立場ながら、若年らしい態度でキロス辺境伯に教えを乞う。 

 

 エルミニオ様の、こういうところ、凄く尊敬する。 

 私も、見倣わないと。 

 

「ディア?」 

「エルミニオ様。わたくしにも、出来ることがあれば、お手伝いさせてくださいね」 

「もちろん。頼りにしているよ、ディア」 

 にこにこと言い合えば、そんなエルミニオとレオカディアを国王と王妃も優しく見つめていて、レオカディアは幸せだと思いつつ、ふたりの行動力に感嘆もする。 

 

 それにしても、国王陛下と王妃陛下も普通に参加しているって、凄いわよね。 

 それも、今回だけのことじゃなくて、ずっとなんて。 

 

 定例会は、それぞれの王都の邸にて、持ち回りで行われている。 

 その会に、自分たちも当事者だとして、国王と王妃も必ず参加するだけでなく、持ち回り当番の際には、王城へ皆を招くという徹底ぶりだった。 

 『国庫が潤えば、民も潤う』 

 笑って言う国王と王妃の表情は、エルミニオのそれととてもよく似ている。 

 

 エルミニオ様も、おふたりのようにこの国を愛し、発展させていくのでしょうね。 

 出来れば、妃としてでなくともいいから、共に理想の国を目指したいな。 

 

「ディア。明日の朝も迎えに来るから、待っていてね」 

 妃でなくともいいから傍に居たい。 

 そんなことを考えていたレオカディアは、不意に思いもかけないことを言われて、ぱちぱちと瞬きしてしまう。 

「え?お迎えは、今日だけのことでは、ないのですか?」 

「ないよ。ずっと、朝も帰りも一緒だよ。やっぱり。ディアは、何か勘違いしていると思ったんだ・・・うん。すごく驚いているけど、嫌がってはいないね。ふふ。可愛い」 

 驚きにくるりと目を回すレオカディアに、エルミニオは悪戯が成功した子供のように笑った。 

 
~・~・~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...