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十三、食事会
しおりを挟む「ねえ様!おかえりなさい!学院はいかがでしたか!?・・・って、殿下たちもご一緒でしたか」
「お、不服そうだな?ブラウリオ」
「分かっているなら、わざわざ言わないでください、ヘラルド様」
つんつんと頬をつつかれ、ブラウリオは嫌そうにヘラルドを見た。
「ただいま、ブラウリオ。今日は、エルミニオ王太子殿下たちも、当家に来ることになっていると知っている筈でしょう?どうしたの?」
「それはそうなのですが・・・ねえ様と一緒とは思わなかったので、驚いてしまったのです。ごめんなさい」
しゅんとしてしまったブラウリオに、仕方のないと苦笑して、レオカディアはそろそろ抜かされそうな背の高さの弟の頭をぽんと叩く。
「よくない態度だったと分かったのなら、どうすればいいのかも、分かるわね?」
「はいっ、ねえ様・・・エルミニオ王太子殿下、ミラモンテス公爵子息、キロス辺境伯子息、失礼な態度を取ってしまいましたこと、申し訳ありません。そして、改めましてようこそおいでくださいました」
先ほどまでの、甘え、拗ねた様子は何処へ行ったのか。
レオカディア達よりふたつ年下のブラウリオの、その見事な所作に、エルミニオがくすりと笑った。
「相変わらず見事な変わり身だ。ブラウリオは、本当にディアが好きだな」
「殿下に言われたくありません」
「そうか。ディアに一番思われている僕に言われるのは、嫌か」
「何をおっしゃいますか。ぼくだって、ねえ様に愛されていますから、羨ましくなんてありません!何といっても、ぼくは、ねえ様にとってたったひとりの弟なんですから」
仔犬が威嚇するようなブラウリオと、彼を揶揄いつつも、レオカディアの一番は、絶対に、本気で譲りたくないエルミニオ。
そんなふたりの遣り取りを、セレスティノとヘラルドがやれやれと見守る。
「まったく。仲がいいのか悪いのか。同族嫌悪、というものだろうな、あれは」
「言えてる。レオカディアが大好きで、レオカディア以外には辛辣なところまで、よく似ているからな」
『子供の頃から変わらない』と言うセレスティノの言葉に大きく同意しながら、ヘラルドは、遅れて現れたアギルレ公爵夫妻に、セレスティノと並んで礼をした。
「出迎えが遅くなり、申し訳ありませんエルミニオ王太子殿下。セレスティノ殿、ヘラルド殿もよく参られた」
「アギルレ公爵、公爵夫人。入学初日よりお邪魔してしまい、申し訳ない」
「とんでもない。我が家はいつでも大歓迎です。さあ、こちらへ」
そう言って、アギルレ公爵夫妻は、応接室の方へと皆を案内する。
「お父様。話し合いは、もう終わられたのですか?」
「ああ。今回も、凄く有意義だったよ」
鮨産業や養豚、牧場関連でより強い繋がりの出来たアギルレ公爵家と王家をはじめ、ミラモンテス公爵家、キロス辺境伯家の四家は、様々な情報の共有、事業に関する相談のため、月に一度定例会を開くのが恒例となっており、今回はレオカディア達が学院へ入学した祝いも兼ねて、皆で食事をする予定を立てた。
みんなでお食事を、というのはいつものことだけれど。
制服のままで、なんて、変な注文よね。
「ディア」
「はい。エルミニオ様」
どうして制服のままなのか、と考えながら歩いていたレオカディアに、エルミニオがそっと声をかける。
「今度ふたりで、学校帰りに街へ行こう」
「え?危険ではないですか?」
自分はともかく、エルミニオは王太子という国の重要な人物だと、レオカディアが反対の声をあげれば、エルミニオが悲しそうな顔になった。
「ディアは、僕と街へ行きたくない?」
「そんなことありません。今までも、お忍びで行っているではありませんか」
だが、その時には予め街にも民衆に紛れた護衛が居た、と言うレオカディアに、エルミニオはにっこりと笑う。
「じゃあ、制服デートの日も、予め警備を整えておくね」
「制服デート」
「そう。制服デート。ディアと制服で街を歩くの、すっごく楽しみだったんだ」
「それは、楽しそうです」
エルミニオと制服で街を歩く。
それは確かにとても楽しそうだと、レオカディアも自然と笑顔になった。
「・・・ああ、ねえ様。制服姿のねえ様も素敵です。そして今日も海老のグラタンがおいしいです」
うっとりと笑みを浮かべるブラウリオは本当に幸せそうで、見ているレオカディアも幸せな気分になるが、複雑でもある。
海老のグラタンは、ブラウリオの好感度を最大あげる個別アイテムなのよね。
自分で作っているわけではないとはいえ、私、ブラウリオの好感度を爆上げしちゃっているってこと?
それとも、私はヒロインじゃないから論外?
どっちなんだろ。
「ねえ様。どうかしましたか?」
『それに、個別アイテムを使いまくっている、というならエルミニオ様も』と、とりのからあげを美味しそうに食べているエルミニオを視界の端で捉えたレオカディアに、ブラウリオが案じるような声をかけた。
「いいえ。ただ、少し前まで『おねえしゃま、こえ、おいしいでし!』って、可愛く言っていたブラウリオが、こんなに立派になったんだな、って思って」
「なっ。姉様。ぼくは、もう十三歳なんですよ?」
レオカディアの言葉に、もう小さな子供ではない、とブラウリオが大きく反応する。
「そうよね。分かっているのよ?でも、すっごく可愛かったから」
「ぼ、ぼくは、幾つになってもねえ様の弟です・・・それとも、もうぼくのことは、どうでもいいですか?」
きゅるん、とした目で見つめて来るブラウリオが可愛くて、レオカディアは大きく首を横に振った。
「そんなわけないでしょ。幾つになっても、ブラウリオは可愛い、大切な弟よ」
「ぼくも!幾つになっても、ねえ様が大好きです!」
「おいおい、ふたりとも。兄様の存在も、忘れないでくれよ?」
「「もちろんです!」」
ブラウリオとレオカディアの会話に、ふたりの兄であるクストディオも加わり、和やかな空気が流れる。
みんな、楽しそう。
この数年でエルミニオとセレスティノ、そしてヘラルドの絆はしっかりと強まり、重臣たちからも『次代も安心だ』と言われている。
あとは、ヒロインが誰を選ぶか、かな。
エルミニオと過ごす時間、そして、皆で過ごす時間を楽しいと思えば思うほど、自分がそこから消える時が来るのかと思うと寂しさが増していく。
「おっ。この肉巻きおにぎりの中に入っているチーズは、うちの領のだな」
「そうよ、ヘラルド。よく分かったわね。いつも、美味しいチーズをありがとう。キロス辺境伯ご夫妻も。いつもお世話になっております」
「チーズ・・そうか、チーズ。ディアは、チーズも好きだものな。しかし、牧場の規模で敵うはずもない・・・」
「エルミニオ様?」
笑顔で、キロス辺境伯夫妻とも会話を交わすレオカディアの横で、何かをぶつぶつ言い始めたエルミニオに、レオカディアが首を傾げた。
「いや。僕の牧場では、ディアの大好きなチーズを作っていないからな」
「でも、いつも美味しい牛乳を届けてくださるではありませんか。王都の近くに牧場を持たれるなんて、素晴らしいご慧眼です」
「ディアにそう言われると、嬉しいな」
レオカディアの言葉に、厳しかったエルミニオの表情が、へにょりと緩む。
「それに、殿下の牧場では、騎士団の馬の育成も始められたとか。そちらも、期待しております」
しかし、王国最強と言われる騎士であるキロス辺境伯に熱のこもった声で言われると、エルミニオの表情はたちまち引き締まった。
「期待に沿えるよう、努力する。そして、助言いただけると有難い」
「もちろんです、殿下。お力になれることあれば、何なりと」
キロス辺境伯領の馬は頑強とあって、エルミニオは王太子という立場ながら、若年らしい態度でキロス辺境伯に教えを乞う。
エルミニオ様の、こういうところ、凄く尊敬する。
私も、見倣わないと。
「ディア?」
「エルミニオ様。わたくしにも、出来ることがあれば、お手伝いさせてくださいね」
「もちろん。頼りにしているよ、ディア」
にこにこと言い合えば、そんなエルミニオとレオカディアを国王と王妃も優しく見つめていて、レオカディアは幸せだと思いつつ、ふたりの行動力に感嘆もする。
それにしても、国王陛下と王妃陛下も普通に参加しているって、凄いわよね。
それも、今回だけのことじゃなくて、ずっとなんて。
定例会は、それぞれの王都の邸にて、持ち回りで行われている。
その会に、自分たちも当事者だとして、国王と王妃も必ず参加するだけでなく、持ち回り当番の際には、王城へ皆を招くという徹底ぶりだった。
『国庫が潤えば、民も潤う』
笑って言う国王と王妃の表情は、エルミニオのそれととてもよく似ている。
エルミニオ様も、おふたりのようにこの国を愛し、発展させていくのでしょうね。
出来れば、妃としてでなくともいいから、共に理想の国を目指したいな。
「ディア。明日の朝も迎えに来るから、待っていてね」
妃でなくともいいから傍に居たい。
そんなことを考えていたレオカディアは、不意に思いもかけないことを言われて、ぱちぱちと瞬きしてしまう。
「え?お迎えは、今日だけのことでは、ないのですか?」
「ないよ。ずっと、朝も帰りも一緒だよ。やっぱり。ディアは、何か勘違いしていると思ったんだ・・・うん。すごく驚いているけど、嫌がってはいないね。ふふ。可愛い」
驚きにくるりと目を回すレオカディアに、エルミニオは悪戯が成功した子供のように笑った。
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