1 / 46
一、そは、青天の霹靂
しおりを挟む「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
「!!!!!」
未だ幼い弟、ブラウリオが可愛い笑顔でそう言った瞬間、レオカディアは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「ああ。本当においしいね。レオカディアは、美味しいものを考える天才だ」
そんなレオカディアの前で、ブラウリオの口元を優しくぬぐっているのは、兄であるクストディオ。
ああ・・・ここって。
<エトワールの称号>の世界だったのね。
生まれて四年。
レオカディアは、現在自分が生きる場所が、前世に於いて楽しんだゲームの世界であると知った。
「それにしてもブラウリオ。えびのグラタンが、こうぶつだなんて、ゲームどおりなのね」
自室でひとりになってから、レオカディアは机に向かってペンをとり、ふむふむと頷く。
ゲームには、好感度を上げるアイテムが幾つか存在し、海老のグラタンは、ブラウリオ個人の好感度を大きくあげるものだった。
尤も、対個人のアイテムをゲーム内で使うには、それなりの好感度になっている必要があったのだが、流石きょうだいというべきか、ブラウリオは、あっさりとレオカディアが用意した海老のグラタンを平らげた。
「まあ、私が作ったわけじゃないけど」
今日、海老のグラタンが食べたいとねだったのは確かにレオカディアだが、もちろん自分で作ったわけではない。
何となく、こういうものが食べたい、と思いつき、料理長におねだりをしただけのものである。
「そっか。前世で食べていたから、食べたくなったのね。納得」
これまでも、じゃがいものオムレツなど、何故、そのようなものを思いついたのか、と言われても分からなかったが、これで納得とレオカディアは息を吐く。
「あれ?ということは、エルミニオはからあげが好きなのかな?」
齢四歳にして既に婚約者であるエルミニオは、この国の第一王子であり、後の王太子であり、ゲームに於ける攻略対象でもある。
ゲームの知識によれば、エルミニオは学院でヒロインの男爵令嬢にひとめ惚れし、めでたくヒロインと両想いになると、レオカディアとの婚約解消を望むようになるが、別に断罪することもなく、ただ自分の心変わりとしてきちんと話し合いをする好青年だった。
「エルミニオかあ。今は仲良しだし、ゲーム内でも好きなキャラクターだったけど、初対面で芋虫を見せられたのよね。あれは、半分気を失うくらい衝撃だったわ」
昨年。
エルミニオ、レオカディア共に三歳の時、同じくらいの年齢の子供ばかりを集めて行われたお茶会で、エルミニオはレオカディアだけを庭園の片隅にある小屋へ連れて行き、そこで緑色の芋虫を差し出すという蛮行に及んだ。
「よっぽと嫌われたのだと思ったけど、その後は、すっごく優しいのよね。可愛いし」
芋虫以外は意地悪など一切無い、むしろ年齢を思えばとても思いやりのある優しい子だと、レオカディアはエルミニオを思い出す。
「いずれヒロインに惹かれるにしても、今は未だ子供だし、私も断罪される悪役令嬢じゃないから、安心よね。婚約解消になるのは、まあ、ちょっとだけ残念だけど」
自分も家も無事なら、まあいいか、とレオカディアはペンを置いた。
~・~・~・~・~・~・
ありがとうございます。
185
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる