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七、俺と初恋幼馴染のこれから 3

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「ミリアム。大丈夫か?」 

「平気よ。ありがとう、ランディ」 

「いや・・・さあ、帰ろう」 

「うんっ」 

 嬉しそうにランドルフと並んで歩くミリアムが、屈託の無い笑みを浮かべる。 

 その表情は、いつもより何処か幼い。 

「こうしていると、子どもの頃に戻ったみたいだ」 

「何よ。私が子供っぽい、って言いたいの?」 

 ランドルフの言葉に、ミリアムがぷっくりと膨れた。 

「だって、人前では凛としているのに、可愛いなって」 

「いいじゃない。ランディの前でだけよ」 

「うん。それも嬉しい」 

 話ししながら、馬車へと着いたふたりは、共にオーズリー侯爵家の馬車に乗り込んだ。 

「みんなで晩餐。嬉しいわ。すっごく楽しみなの」 

「色々あったからな。今日は、ゆっくり寛いで、楽しむといい」 

「ランディもね」 

「ああ」 

 ふふ、と笑ったミリアムが、不意に悪戯っぽい笑みを浮かべる。 

「ところで。学院長の呼び出しは、無いのよね?」 

「無いよ。ああ言えば、ベーコン男爵令嬢も焦るだろうと思って」 

「退学したのに潜り込めば犯罪者扱い。そんな危険を冒してまで制服で来るなんて、愛よね」 

「無知なだけだろう。それよりミリアム。何故、あの男爵令嬢に対し、罪の追及をしなかったんだ?」 

 追及すれば、殺人未遂の罪さえあったのに、と言うランドルフにミリアムは真顔で答えた。 

「だって、彼女のお蔭で私は自由の身になれたのだもの」 

「・・・ミリアム」 

「ランディ、私ね。ずっと王子の婚約者でいることが嫌だったの。だから、このままいけば破滅するって判っていて、注意もしなかったの。狡猾だ、って思う?」 

 不安そうに言うミリアムに、ランドルフはすぐさまかぶりを振った。 

「莫迦言え。そんなこと、思うわけないだろう。あの王子には、ひとの話を聞く、とか、状況を正しく理解する、なんてことは出来ないんだから、正しくミリアムが導こうとしても無駄だったよ。第一俺は、ミリィが幸せになれない結婚なんてしてほしくない、ってずっと思っていた」 

 ランドルフの言葉に、ミリアムの瞳が輝く。 

「本当?」 

「ああ。もっと俺に力があったら、って・・・分かっていなかったのか?」 

「私のこと、心配してくれているのは知っていたけど、でも自惚れたらいけないかな、って」 

「そんなこと思っていたのか」 

 ミリアムの告白に、ランドルフはため息を吐いた。 

「だって、留学から帰って来たら、ランディ、すっごく大人びて格好よくなっていて。学院でも、頼りになるって人気があったから」 

「俺は、ミリィに頼られるのが一番だよ」 

「ランディは、とっても頼りになるわ。それに、優しいし、思いやりもあるから一緒にいて、つい甘えたくなってしまうの」 

 困ったように笑うミリアムに、ランドルフは嬉しい気持ちが沸き上がる。 

「そう言ってもらえると嬉しい。ミリィが王妃になるなら側近になろう、って努力して来たから」 

「それって。私をずっと支えてくれるつもりだった、ということ?」 

「ああ」 

「それなら。これをもらってちょうだい」 

 そう言ってミリアムが取り出したのは、布張りの箱。 

「これは?」 

「開けてみて」 

 言葉通り、ランドルフが開いたそこにあったのは、花冠を模したタイリングとブローチ。 

「ミリアム、これって」 

「あの日、あの幼い日にランディが求婚してくれた時の花冠。すっごく嬉しかったから」 

 そう言って、遠く、優しい目をしたミリアムに、ランドルフは困ったと笑みを零した。 

「困る?私の気持ち」 

 ランドルフの言葉に、ミリアムの瞳が揺れる。 

「違うよ、ミリィ。困ったというのは、先に言われてしまったから」 

「先に、って・・・」 

「ミリアム・バラクロフ公爵令嬢。こちらを、受け取っていただけますか?」 

「っ・・・ランディ」 

 ラドクリフが取り出した箱を開いてみせれば、ミリアムの瞳に涙が滲む。 

「ずっと一緒にいよう。ミリアム。今度こそ」 

「ずっと一緒にいましょう。ランディ。二度と離れたくない」 

 誓い合ったふたりは、揺れる馬車のなか、しっかりと手を握り合った。 



~・~・~・~・~・~・ 

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完結です。
読んでくださって、ありがとうございました。
 
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