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二、俺と初恋幼馴染の今 2

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「ランディ。傷がついてしまうから、唇を噛んでは駄目よ」 

 ぎり、と唇を噛んだランドルフは、ミリアムのやわらかな声に我に返った。 

「悪い。ミリィの怪我を心配して、ここまで来たのに」 

 言いつつランドルフは、到着した救護室の扉を軽く叩く。 

「どうぞ~」 

「さ、行こう」 

 やけにのんびりとした入室の許可を聞き、ふたりは救護室の扉を潜った。 

「おや、ランディにミリィじゃないか。どうした?青春の相談か?」 

 年齢は少し上だが、幼い頃からよく一緒に遊んだ仲だからか、学院医となった今も、こうしてふたりを揶揄うのを趣味としているような相手に、ランドルフは嘆息しつつ答える。 

「違います、スマイス先生。バラクロフ公爵令嬢が階段から突き落とされたので、怪我の確認をお願いしたいのです」 

「その私を、ランディが受け止めてくれたの。人ひとり落下して来たのを受け止めたのですもの。ランディに怪我がないか、確認してほしいのよ、アラン兄様」 

 ふたりの言葉に、アランがにっこりと笑みを浮かべる。 

「階段からミリィを突き落した?それは、あの愚王子が?それとも、愛人の方が?」 

「ベーコン男爵令嬢の方です、スマイス先生」 

「そうか。時に、ランディはもう、アラン兄様、とは呼んでくれないのか?兄様が恥ずかしいなら、兄上でもいいんだよ?」 

「ここは、学院です」 

「でも、今ここには誰もいない。そういう時、ミリィはちゃんとアラン兄様と呼んでくれるのだけれど?ランディは?」 

 言いつつ、怪我の確認をすべくランドルフの腕を取ったアランに、ランドルフが違うと声をあげた。 

「スマイス先生。落とされたのはミリ・・バラクロフ公爵令嬢です」 

「呼び名。無理することないのに・・・うん。聞いていたけどね、落ちて来た人間を受け止めた方が、衝撃が大きいと思うよ。よく受け止めたね。偉い偉い」 

 言葉だけでなく、子どもの頃と同じように頭まで撫でられて、ランドルフは脱力する。 

「アラン兄様。ランディは大丈夫そう?」 

「上手く受け止めたようだね。それに、随分と鍛えているからそのお蔭もあるかな。ミリィ、ランディがいて良かったね」 

 アランの言葉に、ミリアムがふんわりとした笑みを浮かべた。 

「ええ。いつも、そう思っているの」 

「だけど、少しも守れていない」 

 これまでの経緯を思い出し、ランドルフは暗澹たる気持ちになった。 

「ああ。学院の教諭陣は腐っているからねぇ。何といっても、あの愚王子が、成績最低のクラスなんてみっともない、王子たる俺が所属すべきではない、とかいう見栄っ張りな理由で特別選抜クラスに居座るのを、許してしまうのだから。彼が最下位のクラスなのは、実力なのにねえ。クラスは、試験の結果別なのに、それを簡単に捻じ曲げてしまうとは、いやはや」 

「そうなのよね。そのうえ、真面目に授業を聞くわけでもなく、理解できないからと授業とはまったく違う内容のことで騒ぐか、宝石やドレスの話をするか、いちゃいちゃしているか、ともかくずっとうるさくて。周りも迷惑がっているのに、教諭が注意しないどころか認めていて、抗議した側を責めるなんて世も末だわ」 

 その件でも教諭に訴えたランドルフは、苦い記憶を呼び覚ます。 

「まったくだよ。授業妨害だと、きちんと自分のクラスへ行かせるべきだと訴えたら、こちらの方が叱責されたからな」 

「特別選抜クラス全員の署名を集めて行ったのに、だよね?」 

「そうです。殿下に向かって何事か、と。殿下が、特別選抜クラスにいたいと言うなら、叶えるべきだそうです。成績優秀者クラスにですよ?学年万年最下位の男爵令嬢とその直ぐ上の成績の殿下が居るのです。試験って何だろう、って特選クラスも他のクラスもみんな言っていますよ。学院の秩序は滅茶苦茶です」 

「ランディ。それでも、声をあげるのをやめてはいけないよ。努力は無駄にならない。事実、ランディがそうやって声をあげ続けた結果、愚王子と愛人以外の満場一致で生徒会長に選出されたのだろう?生徒の気持ちはひとつだ。もっと自信をもって、そして、後はこの兄様に任せなさい」 

 ぽん、と胸を拳で打つアランは、スマイス公爵家の三男。 

 家を継ぐ身ではないから、と早くから医師を目指していたアランは、優秀な成績で医師免許を獲得した。 

 そして王城勤務となっていたのだが、今年になって何故か学院医として赴任して来た。 

 その何故か、の原因は、第一王子クリフとベーコン男爵令嬢だとランドルフは睨んでいる。 

「スマイス先生、いえアラン兄上・・・アラン兄上が学院勤務となったのは、やっぱり、そういうことですか?」 

「ランディは、勘が鋭いね。その勘で、ミリィを守るんだよ」 

「勘でも運でも実力でも、俺の持てる力すべてを注ぎますよ」 

 そう強い瞳で言い切ったランドルフを、アランは頼もしい弟を見るような瞳で、そしてミリアムは少しくすぐったそうに、けれど喜びに輝く瞳で見つめていた。 




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