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一、俺と初恋幼馴染の今
しおりを挟む「危ないっ!」
叫んだ時には、走り出していた。
学院の二階から、広い中庭へと延びる優美な外階段。
その最上段で、深紅の髪の令嬢がミルクティ色の髪の令嬢に突き飛ばされ、落下した。
「「「きゃああああ!」」」
幾つもあがる悲鳴のなか、ランドルフ・オーズリーは、無言のまま真紅の髪を棚引かせて落ちて来る令嬢の元へと必死に走る。
「っ!・・・ナイスキャッチ。流石ね、ランディ」
しかし、何とか抱き留めたその令嬢は、ランドルフの腕のなか、にこりと笑ってそう言った。
「ミリィ・・・ナイスキャッチ、って・・・はあ。君ってひとは」
「ふふ。ありがとう、ランディ。怪我はない?」
「それは、俺の台詞だ」
心臓に悪い、とランドルフは平気そうに笑うミリアムに、本当に怪我がないかを確認する。
「みんな!不貞よ!あの女、白昼堂々不貞しているわ!」
そこに聞こえて来た叫びにランドルフが振り向けば、そこには、優美な階段の上で激しく指をこちらへと突きつけながら、激しく上下左右、時には円を描いて動きまわっている女生徒、エイダ・ベーコン男爵令嬢が居た。
それを周りは冷たい目で見ていることに、本人は気づいていない。
「いやだわ。バラクロフ公爵令嬢を突き落としておいて」
「本当だよな。オーズリー侯爵令息が間に合ったから良かったようなものの」
周りが騒めき、心配そうに多くの生徒が見守るなか、数人が代表のようにミリアムの傍へと寄って来た。
「大丈夫ですか?バラクロフ公爵令嬢」
「ええ。オーズリー侯爵令息のお蔭で無事よ。ありがとう」
笑顔で応答したミリアムが、ふと片手を頬に当てその視線を優美な階段へと向ける。
そこにあるのは、今尚、何かを叫び、暴れているエイダの姿。
「彼女。今度は、優美な階段の上で、変わったダンスをなさっていますのね」
「ふふ。本当に、相変わらず品の無い動きですこと」
「王子殿下も、どうしてあのような者を」
「それこそ、王子殿下だから、だろう」
「そうだよな。似た者同士、ってことじゃないか?」
学院でまたこんな騒ぎを、と生徒達が眉を顰めるなか、ランドルフはミリアムに声をかけた。
「バラクロフ公爵令嬢。一応、救護室へ行こう」
「ええ。その方がいいわね」
必要無い、と突っぱねられるかと案じたランドルフはミリアムの言葉に安堵し、そのままその場を後にする。
「会長。教諭への報告はお任せください」
「頼んだ」
そんなランドルフに、同じ生徒会の役員が声をかけ、周りの生徒も大きく頷いてくれた。
報告と、状況説明は任せろという気概を感じ、ランドルフは嬉しく思うとともに、これまでの学院側の王子優遇の対応を思い出し、思わず苦く口元を歪めてしまう。
「しかし、まさか階段から突き落とすなんて。下手をすれば命が危うい。これはもう、完全なる殺人未遂、犯罪だ」
厳しい顔で言ったランドルフに、けれどミリアムはにこりとした笑みを見せた。
「ふふ。目撃者も大勢いたことだし、やったことは犯罪。さて、今回はどうやって彼女を庇うのかしらね」
「楽しんでいる場合ではないだろう、ミリアム。もしあのまま落ちていたらと思うと、肝が冷える」
「でも、ランディが助けてくれたわ」
「それは、結果論だろう。厳重に抗議・・・といっても、教員はあてにならないからな。ベーコン男爵家に抗議しても王家が握り潰すし」
「腐っているものね、ここの教諭陣。でも、王家はそろそろ」
意味深に言ったミリアムに、ランドルフも頷きを返す。
「ああ。そう聞いてはいるが、如何せん動きが遅い。ミリィは大丈夫なのか?精神的に酷い苦痛を味わわされているだけでなく、今日のように暴力まで」
「平気よ。ランディも、みんなもいるもの」
「ミリアム」
無理した様子もなく、さらりと言ってしまうミリアムを、ランドルフは心痛む思いで見つめた。
これまでもミリアムは、あのミルクティ色の髪の令嬢、エイダ・ベーコン男爵令嬢に様々な嫌がらせをされて来た。
理由は簡単。
それは、ミリアムがエイダが恋する第一王子クリフの婚約者だから。
そして、クリフもまた、エイダに恋をしたから。
しかし元々、ミリアムとクリフの婚約は、クリフの我儘で成立したものだった。
何故なら、ミリアムはランドルフの婚約者だったのだから。
ミリィを婚約者にと望み、貴族間の契約を歪ませ、王命で俺との婚約を解消させてまでミリアムと無理にも婚約したのは、クリフ王子自身のくせに。
それなのに、ミリィを不幸にするなんて許せない。
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