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三、一度目の婚約解消
しおりを挟む『アダルジーザ。実は、騎士団長から娘婿にと望まれた』
はい、はい。
知っていますよー、だ。
前々世で、イラーリオからそう切り出されたアダルジーザは、前知識に感謝しながら落ち着いて頷きを返した。
『それで?イラーリオは、どうするつもりなの?』
『・・・いいお話だと、思っている』
騎士として活躍するイラーリオにとって、騎士団長に見込まれたというその事実は、大きな喜びなのだろう、とアダルジーザは未だ自身の婚約者である彼を見つめる。
騎士団長に認められた騎士というだけで、随分箔が付いたと聞くものね。
それに、騎士団長だけでなくご令嬢もイラーリオに夢中で、イラーリオもその想いに応えた、ともっぱらの噂だもの。
むしろ、美男美女で相愛で運命、邪魔なのはサリーニ伯爵の婚約者・・・つまり私、と言われているし。
ここは、私が引くのが一番よね。
『騎士団長のご令嬢との噂は、よく聞いているわ。とても、仲睦まじいとか』
自分が引くのが一番だと分かっていながら、思わず嫌味を言ってしまい、アダルジーザはそんな自分に辟易とした。
『・・・知って、いたのか』
『知って、というか、聞いて、というか。だってイラーリオ、私が騎士団へ差し入れに行くのも見学に行くのも駄目だと言ったけれど、騎士団長のご息女・・ジーナ・コッリ辺境伯令嬢は、毎日のように貴方を訪ねているそうじゃないの』
言いながら、アダルジーザは肩を竦めてイラーリオを見やる。
『アダルジーザが、騎士団に来るのは、駄目だ』
それでも、この期に及んでそう言って身を乗り出すイラーリオを見て、アダルジーザは、自分が行くのはそれほどに嫌なのか、と苦い思いが込み上げた。
『ええ。もう行きたいなんて言わないので、ご安心ください。というより、関係もなくなるのだから、二度と会うことも無いでしょう。サリーニ伯爵令息』
婚約以来、イラーリオと呼び続けて来たアダルジーザが家名で呼ぶと、イラーリオは分かりやすく傷ついた顔をした。
『アダルジーザ・・・君は、俺がこの話を受けると思っているのか』
え、何よその顔。
泣きたいのは、私の方よ!
『何を今更。先ほど貴方は、ジーナ・コッリ辺境伯令嬢との仲を、お認めになりましたよね?コッリ辺境伯家によると<邪魔な婚約者>さえいなければ、すぐにもサリーニ伯爵令息を婿に迎えられるのに、ということですわ。世間も同じご意見のようで、色々な方からご忠告いただきますの』
関係のある家からも、関係の無い家からも色々に言われて不快だとアダルジーザが言えば、イラーリオは顔を俯けてしまう。
『それは・・・しかし・・・いや・・・すまなかった』
『謝罪は不要です。愛する運命を引き裂く役目なんて、不愉快でしたけれど・・・さて。婚約解消については、家同士の話になりますので、こちらへ』
当然のようにアダルジーザが席を立てば、イラーリオが不思議そうにアダルジーザを見た。
『・・・もしかして、もう話し合いの場が用意されているのか?』
『もちろんです。話し合いだけでなく、破棄に関する書類も揃えてあります』
アダルジーザの言葉に、イラーリオはがっくりと項垂れた。
~・~・~・~・~・~・
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