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四話
しおりを挟む「なあ。この学園にいたチェルシー・ニーン元男爵令嬢って、詐欺の常習犯だったんだってな」
「聞いたわ。たくさんの平民や下級貴族の男性に魅了をかけて、色々貢がせていたって」
「え?じゃあ、フェルトン公爵子息も?」
「最初は、任務として接近したらしい。それが」
「木乃伊取りが木乃伊ってやつか」
「怖いな」
「でも、じゃあ」
「「「ハンブリング侯爵令嬢との婚約は、どうなるんだ?」」」
今、学園といわず王都といわず、最早全国区でチェルシー・ニーンが起こした魅了事件は、衝撃と共に人々の間を駆け巡っている。
そして、チェルシー・ニーン男爵令嬢とその鴨のひとりであったサイラス・フェルトン公爵子息を間近に見ていた学園生徒達は、こくりと息をのんでアラベラの動向を見守る。
「元々、仲が良かったものな」
「魅了が解けたら、フェルトン公爵子息はどうするのかしら」
「そりゃ、復縁を求めるだろうさ」
「でも、ハンブリング侯爵令嬢にしてみれば、今更なのではなくて?」
そして今、その渦中にあるアラベラは、遠くに自分達の噂を聞きながら、自分の願いを却下する父からの手紙を思い返し、脱力していた。
はあ。
婚約破棄の保留、って何よ。
言い出したのは、向こうなのに。
先方が言い渡した婚約破棄。
それを、自分は間違いなく了承した筈なのに、サイラスの父である宰相のフェルトン公爵はじめ、国王や王妃、果てはアラベラの両親まで婚約破棄は保留と笑顔で言い放った。
『俺が悪かった!慢心していたんだ。アラベラ、本当に申し訳ないことをした』
そして魅了の解けたサイラスは、迷うことなくアラベラの前で両手両膝を突き、謝罪の言葉を口にした。
『ちょっと、やめてよ!そんな、情けない姿を見せないで!』
『アラベラが、婚約破棄をしないと言うまで、俺は』
『それは、国王王妃両陛下と双方の家に依って保留にされているでしょ!幾度願っても、婚約破棄は保留、って返事しか来ないわよ!』
『保留じゃ駄目だ。婚約破棄は望まない、とアラベラがはっきり言ってくれないと安心できない』
そう言うサイラスに、アラベラは侮蔑の目を向けた。
『何を言っているのよ。婚約破棄を望んだのは、フェルトン公爵子息でしょうが』
『ぐっ・・・しかし、あれは俺であって俺じゃない!俺が愛しているのは、アラベラだけだ!』
『そんな大きな声で叫ばないで!』
『アラベラ!俺に機会をくれ!』
『しつこい!』
はあ。
なんで私が四面楚歌?
今日も今日とてサイラスに迫られ、国王や王妃、フェルトン公爵夫妻から、様々な催しにサイラスと共に招待される。
そして、頼りの両親は見守るばかり。
「アラベラ。アラベラが諦めるか、フェルトン公爵子息が諦めるか。どちらを選ぶにしても頑張って」
親友エイミーの励ましに、アラベラは今日も大きくため息を吐いた。
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