木乃伊取りが木乃伊 ~監視対象にまんまと魅了された婚約者に、婚約破棄だと言われたので速攻了承したのに・・・保留ってどういうことですか!?~

夏笆(なつは)

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一話

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「アラベラ・ハンブリング!貴様、俺がチェルシーばかりを寵愛するのが悔しくて、彼女へのいじめを繰り返しているそうだな。下劣な奴め」 

 王立貴族学園の食堂で、婚約者であるサイラス・フェルトンにそう叫ばれた時、アラベラは白々とした思いでため息を吐き、視線だけで周りを見た。 

 そこには、好奇に満ちた生徒達の視線に混じって、予定通りアラベラの探す者達もいる。 

 それは、王家から派遣されている影。 

 

 証拠撮影は、問題無いようね。 

 それにしても、お昼時の食堂でなんて。 

 これでは、お昼ご飯が食べられないではないの。 

 

「聞いているのか!?アラベラ・ハンブリング!俺がこのような事を言うのは、どうせ、チェルシーの魅了のせいだと思っているのだろうが、違う!俺は、チェルシーの魅力を知ったのだ!貴様など、足元にも及ばない慈悲と深い愛情をな!」 

 

 はあ。 

 ああ、そうですか。 

 分かりましたから、もうお昼ご飯にしていいですか。 

 すっかりおさぼり君と化した貴方や、そもそも学園に何しに来ているの、状態で授業に出ない、今貴方が腰に張りつけているご令嬢とは違って、私、とても忙しいのですけれど。 

 

 うんざりと心の中で思うも、アラベラはそれを声にすることはしない。 

 もし声にしてしまえば、それも記録に残ってしまうのだから。 

 このような愚痴を王城の広間や研究室、その他色々な場所で幾度も再生されるなど、恥ずかし過ぎてこの先、生きていける気がしない。 

 まあ、尤も。 

 サイラスは、自業自得とはいえ、既にして幾度もそのような記録を残されているのだが、自分が言ったところで聞きはしない、それに、研究対象となっているらしいから、とアラベラは既に放置している。 

 因みに『そうか。サイラスは、アラベラ嬢に見限られたか』とは、その事実を知ったサイラスの父、フェルトン公爵の言葉である。 

 

「アラベラ・・・」 

 サイラスと対峙するアラベラの隣では、親友のエイミー・コール伯爵令嬢が、不安そうな顔でアラベラの手をぎゅっと握ってくれている。 

「エイミー、ありがとう」 

 チェルシーと関わり、サイラスの様子がおかしくなってから、心配しつつ傍に居てくれるエイミーの手を心強く握り返すアラベラの前で、サイラスが不敵な笑みを浮かべた。 

「魅了に掛かったのではない。俺は、俺自身が望んでチェルシーと真実の愛を育むと決めたのだ。よって、このような護符など不要だ!」 

 そう言うと、サイラスは、それ。 

 魅了に対して、防止、耐性を持たせる効力のある護符を、アラベラの足元に叩きつけた。 

 途端、見事に粉砕されたそれを見て、サイラスの隣でアラベラを見下すようにして嗤っていたチェルシーが、嬉しそうにサイラスに抱き付く。 

「ありがとう!サイラス!あたしもサイラスが大好き!」 

「俺もだよ、チェルシー。ずっと一緒にいよう」 

「でもぉ、サイラス。婚約者がいるって」 

 うるうると瞳を潤ませたチェルシーがサイラスを見あげ、次いで恨みがましい目でアラベラを見た。 

「心配ない。こんな奴とは、直ぐに婚約破棄をするから」 

「ほんとう!?」 

「ああ、本当だ」 

 チェルシーを安心させるよう、その頬を撫で、サイラスはアラベラに向き直った。 

「アラベラ・ハンブリング。貴様との婚約は、ここに破棄する」 

「分かったわ」 

「え?」 

 胸を張り、揚々と言い切ったサイラスはしかし、アラベラがあっさりとそれを認めた瞬間、その瞳を揺らす。 

「分かった、ってアラベラ・・・そんな簡単に・・・」 

「簡単ではなかったわね。でも、考える時間はたっぷりあったから」 

 言いつつ、アラベラはこの一年を思い返す。 

 

 長いような、短いような一年だったわね。 


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