天の斎庭 ~そらのゆにわ 天空神の溺愛に、勘違い神官は気づかない。え!?俺生贄じゃないの!?~

夏笆(なつは)

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54.力の暴発

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「どうだ?ヒスイ殿からの課題は、熟せそうか?」 

 攻防を繰り返しながらも何とか身体を洗い合い、広い湯船に共につかるとシライが存外穏やかな声で問いかけた。 

「うーん、なかなか難しくて。ヒスイと手を繋げている時は簡単に感じられるんだけど、それをひとりで、ってなると上手く感じられないし、だから循環も出来なくて」 

 不甲斐ない、と肩を落とす佳音をシライが後ろから優しく抱き込む。 

「そもそもが、佳音には異質のものなのだ。焦ることは無い」 

「でも、課題って言われたのに」 

 初めの頃、天空城に住まって佳音の訓練をしてくれていたヒスイは、少し経って水神の城へと帰還した。  

 それからも二日と空けずに通いで訓練を続けていたのだが、今日から三日は来られないと佳音に告げ、ひとりで訓練の持続をすることを課した。 

「努力することが大事だ」 

 出来るかどうかは問題ではない、とシライは言うけれど、佳音は何とかしたいと今この時も力の循環を試みる。 

「もっと肩の力を抜け。そして、全身で自分のなかを巡る力を探れ」 

「それが分かれば苦労はないんだって」 

 やろうとはしている、と佳音は必死に自分のなかの力を探すも上手くいかずに焦れてしまう。 

「佳音。目を閉じて、ゆっくり息をしてみろ」 

「うん」 

「そうだ。ゆっくり息を吸って、吐いて・・・上手だぞ」 

 シライの声に従って呼吸を繰り返す佳音が、無意識なのだろう、シライに寄り添うように肩を寄せるのをシライは愛しく見つめた。 

「そうだ。そして、オレを思い浮かべろ。愛しい、恋しい、今すぐ抱かれたい」 

「こいしい、いとしい、いま・・・・っ。ちょっと待て!何か可笑しいだろう!」 

「何がだ。少しも可笑しいことなど無い。佳音のなかにある水神の力とオレの天空神の力はそろそろ拮抗しそうだと聞いている。ならば、調合性をより図るために必要なことだ」 

「それは分かるけど!今すぐ抱かれたい、ってなんだよ!?」 

「ん?愛しい、恋しいはいいのか?」 

「そっ、それは、俺のなかのシライの力を感じられそう、って」 

「ほう。オレを愛しい、恋しいと思い浮かべるとオレの力を感じやすいと言う事か」 

「悪かったな!」 

「悪いわけなかろう。むしろ嬉しい」 

 本当に嬉しそうに後ろから佳音を抱き締めたシライの、余りの勢いに湯がちゃぷんと揺れ、佳音の顔にかかった。 

「わぷっ」 

「すまない!大丈夫か?」 

「だいじょぶ」 

 驚いただけだと自分の手で顔を拭う佳音の頬に、シライがちゅっと口づける。 

「詫びだ」 

「これが?」 

「ああ。心を込めて」 

「し、シライ、ちょっと待って」 

 言いつつ、あちらこちらに口づけるシライに佳音が困ったように眉を下げた。 

「どうした?嫌か?」 

「こうしていると、シライの、天空神の力を凄く感じる。でもって、水神の力を感じにくい。このままじゃ、拮抗が取れるどころか崩れそう」 

「なっ」 

「だから、ちょっと待って。頑張って、水神の力を探るから」 

「ああ。分かった」 

 焦らなくていい、と佳音をぎゅっと抱き締めたシライは、それも今は待って欲しいと言われ、余りの難題に頭を抱えた。 

 佳音に触れることが出来ない。 

 その状態が辛くなったシライは、早々に湯殿を後にするも、その後の食事の際もお茶の際も佳音に触れることが出来ないせいで、苛々は益々募っていくばかり。 

 しかも目の前には、畳にちょこんと座る可愛らしい佳音。 

 今すぐ食べてくれと言わぬばかりなのに耐えろとは、と歯を食いしばったシライに佳音が眦を下げた。 

「シライ。ごめんね」 

「佳音が謝ることではない」 

「でも、俺もシライに触れなくて哀しい」 

「っ!」 

 何とか理性で押し殺していた欲を触発するような佳音の言葉、眼差しにシライのなかで何かが弾けた。 

「主!」 

「佳音様!」 

 蓮と蘭の叫びのなか、その場がシライの発した力に包まれる。 

「佳音!」 

 思いがけない天空神の力の放出。 

 己の力を抑制できなかったなど初めてのシライは、その事実に恐れおののき、すぐさま佳音の無事を確認しようとしてその場に固まった。 

  

 

 
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