天の斎庭 ~そらのゆにわ 天空神の溺愛に、勘違い神官は気づかない。え!?俺生贄じゃないの!?~

夏笆(なつは)

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51.求婚

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「よくぞ言った、佳音。どこぞの不甲斐ない輩とは大違いだ」 

「え?」 

 満足そうに幾度も頷くカハに、佳音は混乱の瞳を向ける。 

「本当に。これほど佳音様に想われて、羨ましい限りです」 

 そしてにこにことヒスイに言われ、佳音ははっとなった。 

「もしかして、わざと」 

「試すようなことをして悪かった。しかし我は、本当に佳音に幸せになって欲しいのだ」 

「カハ様」 

「まあ、私としては本当に佳音様を攫いたいですが。どうでしょう、佳音様。私とのことも考えてみていただけませんか?」 

 しんみりとした面持ちでカハと瞳を合わせる佳音にずずいと寄って、ヒスイがその瞳を捉える。 

「ヒスイ」 

「佳音様は、私の容姿をどう思われますか?」 

「すっごく綺麗だと思うよ。初めて会った時、麗人って言葉がぴったりだと思ったくらい」 

 興奮気味に答える佳音に、ヒスイが嬉しそうに笑う。 

「ありがとうございます。では、性格は?一緒にいると苦痛ですか?」 

「まさか!ヒスイは色んなことを知っていて教えてくれるのに、ちっとも偉そうじゃなくて尊敬している」 

 真顔で言えば、ヒスイは益々嬉しそうになった。 

「嬉しいですね。ですが佳音様。それでは私がうぬぼれてしまいます」 

「うぬぼれ?」 

「ええ。私は佳音様に好かれている、と」 

 困ったように言うヒスイに、佳音が破顔する。 

「なんだ、そんなこと。うぬぼれでもなんでもないよ。本当に俺、ヒスイのこと好きだもの」 

「本当ですか?」 

「もちろん」 

「それは、どのくらい?」 

「そうだな。カハ様が居る時はヒスイが俺を様付けで呼ぶ。それが寂しいくらい」 

 腕で示すならこのくらい、と両腕を広げた佳音にヒスイが抱き付いた。 

「私も大好きです、佳音様!」 

「わわっ」 

 普段冷静に見えるヒスイの突然の動きに驚き、佳音は椅子から転がり落ちそうになる。 

「では、佳音。私と伴侶になってくれますか?」 

「ごめん。それは、出来ない。さっきも言ったけど、俺はシライを好きだから。ヒスイにもシライにも不誠実な事はしたくない」 

 ヒスイの目を見て真っ直ぐに言い切った佳音は、唐突に後ろから抱き締められ驚きのままに振り向いた。 

「佳音。オレも、佳音が好きだ。初めて見た時から、ずっと」 

「シライ。いつのまに、気を取り戻したの?」 

 これで決まった、と言わぬばかりの表情で告白したシライは、佳音にきょとんとした目を向けられて、ぴしりと固まりかけるも何とか意識を保ち、佳音を正面から見つめる。 

 佳音越しに見えるカハの目が、ここで男を見せねば佳音はやらぬと言っていて、俄然気合も入った。 

「佳音。ずっと誤解させていたこと、その事実に気づかずにいた事、本当に悪かった。今更と思うかも知れぬが言わせてくれ。佳音。オレの伴侶となって欲しい」 

「で、でも」 

「オレの想いは届いていないか?」 

「そんなことない。シライは、俺がここで過ごし易いように心を砕いてくれて、願いもたくさん叶えてくれた」 

 生贄にしては待遇が厚いと思っていた佳音だが、それが想い人に対する行動だとすれば納得も出来る。 

「それは佳音の方だろう。オレは佳音と過ごせてとても幸せだ。これからもっと、ふたりで幸せになりたいと思っている」 

「でも俺、何も出来ないよ?眷属にはなれるらしいけど、そもそもが人間だし。シライは天空神様なのに、いいのか?」 

「佳音こそ、身体まで作り変えられて。オレを嫌悪していないか?」 

 その言葉に蓮が『本当に今更、そこからですか』と遠い目をしているのが見えるも、シライは無視した。 

「それなんだけど。俺は生贄になるために慣れさせていると思っていたけど、違うってことだよな?むしろ、ここで生きて行くため?」 

「そうだ。今の佳音は未だこの部屋でしか生きられない。万が一、この部屋から出てしまうようなことがあれば、それは佳音の死を意味している」 

「そうか。だからこれが必要なんだ」 

 初めて知った、と佳音は自分に着けられた足枷を見る。 

「ああ。それがあれば、万が一にも外へは行けぬからな」 

「逃走防止だと思ってた」 

「まさか。オレが居る時ならすぐに対応できるが、それ以外の時は無理だからな。すべては安全のためだ。そうでなければ、着けたりしない。こんなもの」 

「でも、特別仕様で嬉しかったよ?」 

 佳音はにこりと笑うも、シライの眉は寄ったまま。 

「完全にオレの眷属となれば、外へも行ける。こんなもの、不要となる。それまで辛抱してくれ」 

「シライの方が、我慢が必要そうな顔してる」 

「佳音の度量が広いんだ」 

 そう言ってシライは、佳音の頬を両手でそっと包み込む。 

「佳音。こんなオレだが、ずっと傍にいてくれないか。唯一無二の伴侶として」 

「こちらこそ。俺でいいならシライの眷属に、そして伴侶にしてください」 

「ああ。永久を誓おう」 

 そしてシライは、そっと佳音の唇に自分の唇を寄せた。 

 
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