天の斎庭 ~そらのゆにわ 天空神の溺愛に、勘違い神官は気づかない。え!?俺生贄じゃないの!?~

夏笆(なつは)

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「シライ?シライってば!・・・ねえカハ様。何か俺、いけないこと言った?」 

 シライの目の前で手を振るも反応の得られない佳音が、焦ったようにカハに問う。 

「ああ、いや。佳音はぎょくが何かもよく分かっていなかったのだ。無理もない。そしてまあ。天空神がこうなるのも無理はない」 

 思考を放棄してしまったかのようにぴくりとも動かないシライを横目に、カハが小さくため息を吐いた。 

「ですが我が君。最初に天空の神様がきちんと細やかに説明していれば、このような事態になっていません」 

「ヒスイ様の仰る通りです、水の神様。自分できちんと説明するので口を挟むなと言っておいて、この体たらく。我が主ながら何と情けない」 

 ヒスイも蓮も呆れたように首を振り、シライへの同情など微塵も無い。 

「で、でもシライはずっと俺に甘くて優しくて、こんなの生贄への扱いじゃないっておかしく思ったのに、それ以上考えなかった俺も」 

「ですが佳音様は、馴染んだら儚くなる運命だと思っていたのですよね?」 

「特別な贄への待遇だと思っていたのなら、無理もありません」 

 佳音が言ってみるも、ふたりの態度は変わらない。 

「佳音。ぎょくについて、我が説明してやろう」 

 おろおろしているとカハがそう言って笑みを零したので、佳音は慌てて姿勢を正し、未だ立ったまま意識を飛ばしているシライを何とか動かして、カハとは反対側の隣に座らせた。 

 そしてヒスイと蓮もその場に待機させたまま、カハが口を開く。 

ぎょくとは、ひと言でいうのなら、その身を完全に造り変えて完全なる伴侶とするもの、だ」 

「造り変える。それが、馴染ませるってこと?」 

「そうだ。玉を相手に呑み込ませ、精を注いで馴染ませることでその者は眷属となり、更に身籠ることの出来る身体となる。つまり佳音は、その玉が完全に馴染んだ暁には天空神の眷属となり、天空神の子を身籠れる身となっているわけだ」 

「俺が」 

「天空神は、初めからそのつもりだったのだ。求婚の言葉などは無かったのか?」 

「言われていない、と思う」 

「そうか。それは天空神が悪いな」 

 ぽんぽんとカハに頭を撫でられ、佳音は首を傾げた。 

「カハ様の言うことを疑うわけじゃないけど、シライはそんなこと思ってないんじゃないかな」

 そんな話になったこともない、と佳音はこれまでを振り返る。 

「なら、何故今このように放心していると思う?」 

「それは」 

「我は、余りに通じていなかったことに強い衝撃を受けた故、と見るな」 

 カハが困ったように見つめるシライの目は、光を失って焦点も合わない。 

「ならば佳音様、我が伴侶となりませんか?」 

 その時ヒスイに言われ、何の冗談をと言いかけた佳音は、予想外に真面目な瞳に息を飲んだ。 

「それは良い案だな」 

「天空の神様の眷属となる途上ですから、今すぐという訳には行きませんが、馴染んだら直ぐにでも移動して」 

「ヒスイ?」 

「ああ、大丈夫ですよ。天空の神様の眷属となると同時に、水神の力も扱えるようになる予定ですから」 

 元々そうなのだから、佳音にとっては住む場所が変わるだけだとヒスイが笑う。 

「佳音と共に住めるのは良いな。食事も散歩も執務も共に出来る」 

「それに、やがて私と佳音様の間に子が生まれれば、毎日会えるし抱けます」 

「それは楽しみだ」 

 カハとヒスイが楽し気に会話をするなか、佳音はおろおろとふたりを見た。 

「でも俺、シライと約束していて」 

「それについては、我が代替案を出す。心配要らぬ」 

 磊落に笑うカハに、佳音はふるふると首を振る。

「で、でも俺が責任取るべきことだと思う。約束したのは、俺なんだから」 

「佳音。責任感が強いのは良いことだ。しかし此度の場合、咎人は佳音ではないではないか。代理でこれほどの責を負うなど不要だ」 

 きっぱりと言い切られ、佳音はカハの袖を掴んだ。 

「ちが・・そうじゃなくて。責任じゃなくて、俺がシライの傍に居たい。生贄じゃなかったら俺はシライの何なの、って思うけど、傍に居ていいなら居たい」 

「佳音」 

「はじめは確かに、願いを叶えてもらった代償、っていうだけだったけど、シライの傍にいて、俺、シライを好きになったから。だから、傍に居たい」 

 ひし、と縋り付くように言った佳音に、カハが優しい目を向けた。 

 

 
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