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48.誤解、曲解、勘違い
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「天空神!どういうことだ!」
ヒスイとカハがそれぞれの位置で絶叫するなか、シライは素早く佳音の元へ走った。
「佳音。今のはどういう意味だ!?」
「どういう、って。シライが言ったんだよね?俺がシライのものになったら、願いを叶えてくれる、村を助けてくれる、って」
きょとんとして言う佳音に、シライは完全に固まった。
その脳裏にあるのは『通じていないにもほどがある』なのだが、混乱し過ぎて上手く言葉に出来ない。
「シライ、どうしたの?あ、もしかして俺が生贄だって気づいていないと思っていた?」
「違う!」
ぽんと手を打つ佳音に、シライは大きく首を横に振る。
「え?生贄だって気づいていたことは分かっていた、ってこと?なら、なにを」
「だから、違う!」
言葉をみなまで言わせないシライの迫力に、佳音が目を見開いた。
「ああ。つまり佳音は、生贄のつもりで天空神の元へ来たということか?」
佳音の言葉を否定することしか出来ないシライと、何を否定されているのかよく分からない佳音の間に入るようにしてカハが尋ねる。
「つもりも何も、俺は生贄で」
「ふむ。どうしてそう思った?」
「だって、願いを聞いてくれたのだから代償を払うのは当然だよね?シライのものになるって、そういうことでしょう?」
え?
俺の認識間違っている?
急に不安になった佳音が周りを見ると、呆然としつつもカハが確認するよう佳音に問いかけた。
「つまり、佳音にとって天空神のものになるというのは、生贄となるということなわけか」
「うん」
力強く頷けば、佳音以外の全員が何故か遠い目をするなか、ヒスイがぽつりと呟く。
「これはつまり。究極の説明不足。そして、認識の不一致」
「え?なにヒスイ、どういうこと?」
「ああ、いえ。術とか融合の話以前の問題があった、と今気づいたものですから」
「術とか融合の話以前の問題?」
ヒスイの言葉に意味不明と呟く佳音の頭を、カハが優しく撫でた。
「佳音は、天空神に玉を与えられる儀式を行ったのではないか?」
「うん」
「その玉が何かは?」
「俺のなかに入れて、馴染ませるって。つまりあれが生贄の儀式なんだよね?」
真っ直ぐな瞳で答える佳音に、カハがそうかと頷く。
「其方は、宮乃も贄だったと言っていたな」
カハの言葉に佳音が慌てたようにカハの袖を掴んだ。
「言い方悪くてごめん。カハ様が宮乃さんのこと大事にしていたのはよく分かったし、宮乃さんもカハ様を慕っていたんだって今は分かるから、無神経な言い方してごめんなさい」
眉を下げて謝罪する佳音に、カハがゆっくりと首を横に振る。
「それが人間の常識なのだろう?謝ることは無い。佳音が、我たちに望まれた子だと分かってくれれば、それでいい」
「それは、よく分かった」
佳音が視線を向けるのは、カハが書いた親子三人の名。
「あれ、凄く嬉しかった。ありがとう」
改めて礼を言えば、カハも嬉しそうに笑う。
「それで佳音は、ここへ来てからのことをどう捉えていたのだ?ん?」
「ええと、村のことをお願いしたらシライが助けてくれて、その代償に俺はシライに食べられるんだと思っていたんだけど、気づいたらここに居て。で、玉の儀式があって、俺をここに馴染ませる必要があるって聞いたから、馴染ませてから肉体を食べるか、魂を吸われるかすると思っていたんだけど」
考え、思い出しながら言う佳音にシライが何か言いかけるも、カハがそっと阻止した。
「でも、純潔を保った人間の肉は美味しい、って神様が言ったっていう話を読んだことがあったのに、馴染ませるためにはその逆の行為が必要だって分かって、魂は違うのかなとか、馴染ませないと栄養として取り込めないのかなとか、色々考えてみたけど分からなくて」
佳音の言葉に、その場の全員がぎょっと目を剥く。
けれどそんな動揺に気づくことなく、佳音はその目を輝かせた。
「でもこの間シライが『身籠らせたい相手がいる』って言っているのを聞いて分かったんだ。俺、子どものための餌だったんだ、って。だってほら、人間の赤子だっていきなり大人と同じ物は食べられないでしょう?それと同じか、もしくはお腹の赤子の栄養として取り込むのに」
「佳音!」
「ひっ」
揚々と話ししていた佳音は、突然シライに両肩を強く掴まれ絶句した。
その空色の目は、異様な光を放って佳音を見つめている。
「違う」
「え?えっと、何が?」
挙動不審になる佳音の視線を捉え、シライがぐぐっと顔を寄せた。
「すべて、全部、合っていることがひとつも無いほどに」
「そんなに!?」
ひとつひとつ言葉を区切るように言われ、佳音は叫ぶような声をあげた。
「そんなに、だ。まず佳音は生贄などではない」
「え?違うの?」
「違う。そのようなこと、考えたこともない」
きっぱりと言い切られ、佳音は瞳を瞬かせる。
「考えたこともない?じゃあ、最初から違うってこと?」
「ああ、その通り。佳音の勘違いだ」
「でも、シライのものになるって約束したよね?」
「それは、生贄にするという意味などでは、断じて無い!」
びりびりと響くような声で言われ、佳音は硬直した。
「そして佳音。オレが身籠らせたいのは、お前だ」
「は?へ?お、俺を身籠らせたい?」
嘘偽りは無いと染み込むように深い声で言うシライを、佳音は虚を突かれたように見つめる。
「ああ、その通りだ」
「でも俺、男だけど?」
真心を込め見つめ、自信を持って言い切るシライに、佳音は戸惑いの声をあげた。
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