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46.新しい日常

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「ああ、佳音。いい感じです。私と佳音の間で、力が動いているのが分かりますか?」 

「うん。なんか、ぽかぽかしてきた」 

「佳音の気は清涼ですね。とても心地がいいです」 

 指示通り目を閉じてヒスイの気を感じている佳音は知らないが、そう言いつつヒスイは勝ち誇った目をシライに向け、シライの怒りは刻々と限界に近付いている。 

「主、我慢です」 

「分かっている」 

 水神の血を引いていると判明した佳音は、天空神の眷属として身体を造り変えると同時に、その身に内包する水神の力との均衡を保つ必要が生じた。 

『まあ、当初の予定と変わりませんよね』 

 さらりとヒスイは笑ったが、ただ気を整えるのと水神の力と天空神の力の均衡を保たせるのとでは、必要とする技量が違うとカハが言い、自分で佳音の面倒を見ると言い出すも『何を言っているのですか。我が君の力では強すぎます』というヒスイの言葉に撃沈した。 

 それでも『未だ何か別のものを感じる』という理由で、カハも三日に一度は天空城を訪っている。 

「はあ。水神が居なくともこの苛立ち」 

 しかしこれも佳音のため、と耐えるシライの元へ水神の来訪が伝えられた。 

 丁度その時、訓練を終えた佳音が瞳を開く。 

「頃合いを見計らう天才だな」 

 決して佳音の訓練の邪魔をせず、今日も好々爺然として現れるのであろうカハを思い、シライは諦めのため息を吐く。 

「主にとっても義父君ですからね。丁重におもてなししないと」 

「まあな。佳音は嬉しそうだ」 

 いつも何かと佳音へ土産を持ってくるカハのため、佳音も何か礼をしたいと言っていたのをシライは微笑ましく思い出した。 

「佳音。父が来たぞ」 

「あ、カハ・・・様?」 

 いつも通り天空神の眷属の案内で来たカハの声を聞き、笑みを浮かべて振り返った佳音がそのまま固まった。 

「どうした?佳音」 

「え?カハ様、だよね?」 

「ああ、そうだぞ」 

「髭が」 

「どうだ?似合うか?」 

 ふふん、と胸を張るカハは顎髭がきれいになくなっており、その印象の違いに佳音は驚愕する。 

「似合う。若い、格好いい!」 

 目を丸くした後、感動したようにそう言う佳音を嬉しそうに抱き寄せ、カハは思い切り頬刷りした。 

「これなら、痛くもくすぐったくもないだろう?」 

「くすぐったくはあるよ。え?もしかして俺が言ったから」 

 以前、顎鬚のある状態でカハに頬刷りされた佳音は、その慣れない感触に思い切り避けてしまったのだが、もしかしてそれが原因か、と、さあっと青ざめる。 

「元より、宮乃の気を探る間伸ばしていただけだ。気にするな」 

 人間の時間の流れを自覚できるようにしていただけだと言われ、佳音はそっとカハの顎に触れた。 

「宮乃さんのこと、ずっと想っていた?」 

「ああ」 

 もっと早く見つけていれば、子を身籠ったことに気づいていれば、そういった悔恨をカハが口にすることは無い。 

「俺、カハ様に会えてよかった」 

 それでも、その悔恨ごと、カハはこれからも宮乃を想って行くのだろうと佳音は思う。 

 そして、そんなにも深く想われる宮乃を羨ましいと思い、そんなふたりの間に産まれたことを誇らしく感じる。 

  

 それにきっとカハ様は、俺が思っていることにも気づいている。 

 

 カハの後悔とは違うかも知れないが、もしも自分が腹にいなければ母が死ぬことは無かったかもしれない、という思いのある佳音の心を、カハは恐らく見抜いている。 

 それでも言葉では何も言わず、ただ態度で佳音の存在を肯定してくれるのだ。 

 

 ほんと。 

 あったかい。 

 

 ここへ来てから、心が福福することばかりだ、と佳音が感謝しているとカハの視線が下へ向き、一気に機嫌が降下した。 

「それにしても、忌々しい足枷だ。今は天空神も居るのだ。外しても構うまい」 

 今日も佳音の足に着いている足枷を憎々し気に見るカハを、佳音が笑顔で止める。 

「また執務に戻る時に着けるんだから、このままでいいよ。痛くもないし」 

「そうは言っても」 

「水神。オレは佳音に足枷を着ける作業が何よりも厭わしい。そして、今日のオレには未だ執務がある。つまり、今外したとしてもまた着ける必要が生じるということだ」 

 苦悶の表情を浮かべて言うシライに、佳音が苦笑した。 

「おおげさ」 

「なるほど。着ける厭わしさと、着けている姿を見る辛さを天秤にかけた結果、ということか」 

 しかし大げさだと言ったのは佳音だけで、他は全員が納得した表情でシライを見ている。 

「え?みんな大仰」 

 突如その場を支配した物々しい空気に、佳音は仰け反るほどに驚いた。 

 

 

 
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