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42.術
しおりを挟む「では佳音。私の手に手を合わせてください」
「はい」
脚の高い卓にヒスイと並んで座った佳音は言われるがまま、差し出されたヒスイの手に自分の手を合わせた。
「む。仕方無いと分かっていても、むかつくものだな」
すると、向かいに座っていたシライが眉間の皺を深くする。
「ふふ。天空の神様を翻弄するなんて、佳音はやりますね。気分がいいです」
「翻弄しているのは、ヒスイだと思うけ・・思いますけど」
「いいですよ、砕けた物言いで」
「でも、ヒスイは師になったのだし」
「構いません」
「じゃあ、ヒスイも砕けた物言いで!」
「くっ」
「ヒスイ殿は誰にでもそういう口調だ。佳音が気にすることはない」
駄目?と小首を傾げた佳音にヒスイが衝撃を受けている間に、シライがそんな必要は無いと言い切った。
「勝手に代弁しないでください」
「だが、本当の事だ」
「見せつけられている気分」
またも言い合うふたりに佳音が言えば、ふたり共はっとしたように佳音を見る。
その動作もぴたりと揃っていて、佳音は面白くない。
「佳音。そんなことは絶対に無い」
「そうですよ、佳音。むしろ私は、佳音との仲を天空の神様に見せつけたいです」
「それはオレの台詞だろう。ヒスイ殿と佳音は見せつけるような仲ではないのだから」
「まあ、今は未だそうですね」
「今は未だとは何だ、今は未だとは。この先も未来永劫無いわ」
「ねえヒスイ。気を整えるのって、こうして手を合わせているだけでいいの?」
はあ、また、とため息つきつつ、ずっと手を合わせたままでいるけれど、と不思議そうな顔をする佳音にヒスイがにこりと笑った。
「すみません。佳音の手があまりに気持ち良くて忘れていました」
「わざとらしい」
悪びれずに言うヒスイにシライがけっと軽蔑の声を漏らし、佳音は顔を引き攣らせる。
「佳音。私の手はお気に召しませんか?」
「そんなことないです。さらさらしていて、絹みたいに滑らかで」
「それは良かったです。佳音?何か聞きたいことでも?」
じっとヒスイの手を見つめる佳音の瞳に疑問を読み取ってヒスイが言えば、佳音が口を開く。
「うん。ヒスイも鍛えている、って言っていたけど手が凄くきれいだと思って。シライの手は剣を握る武人のようだけど、ヒスイの手は違うから」
「なるほど。よく見ていますね。いや、触れていると言うべきか」
「むかつくからそういう言い方はよせ」
「ごめん。ちょっと気になっただけなんだ。気にしないで」
無理に答える必要は無いと佳音が言えば、ヒスイが合わせていない方の手をぽんと佳音の頭に乗せた。
「大丈夫ですよ、秘密でもなんでもないので。そうですね、私は剣の腕はからきしですが、素手での闘いには少々自信があるのです。あとは術も扱うので、それに必要な体力づくりは欠かしません」
「術?それって火の神様が放った火の塊とかそういうこと?」
「火の神が放った・・・なんですって?」
佳音の言葉にヒスイが大きく目を見開き、聞いているだけで凍り付きそうな声を発した。
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