天の斎庭 ~そらのゆにわ 天空神の溺愛に、勘違い神官は気づかない。え!?俺生贄じゃないの!?~

夏笆(なつは)

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32.佳音

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「蓮。佳音をどう思う」 

 火の神の攻撃を佳音が無効化した翌日。 

 シライは自身の執務室で、難しい顔のまま蓮に意見を求めた。 

「佳音様ですか?大変にお可愛らしく賢くいらして、お迎え出来た事を至福と蘭や杏とも申しております」 

 真面目な顔をして、しれっと答える蓮をシライが睨む。 

「そんなことはオレが誰より知っている。そうではなくて」 

「神の攻撃を弾くのではなく、花びらとして舞わせ眩い光と化すなど聞いたこともありません。ただ無効化するだけなら、同等以上の実力者であれば可能でありましょうが。初めに主の<気野分きのわき>をざわざわと称して気づかれた時は、愛の力とは凄いと思いましたが、今回の件は愛の力だけでは流石に無理でしょう」 

 またもしれっと言い、にやりとした笑みを見せた蓮にシライは大きなため息を吐いた。 

「何やら含みを感じるが、まあいい。初めからそう言え」 

「ですが、佳音様がお可愛らしく賢くいらっしゃる、と杏も蘭も報告が凄くて。私も一日お傍に居たいと思うほどなので」 

 シライの側近兼侍従の自分には無理な相談だが、と蓮が心底残念そうに首を振った。 

「お前な・・・」 

 真面目なのか揶揄っているのか分からない蓮を見極めようとしたシライは、どうせ両方なのだろうと早々に諦め、首を振って話題を戻す。 

「そうだ。神であるあやつの攻撃をあのように無効化、浄化するなど、人間に出来るわけが無い」 

「はい。ですが、例外もあるということなのかもしれません。佳音様は神官でいらっしゃいましたし、神であっても罠に嵌って災厄をその身に被っている方もいらっしゃいますし」 

 蓮の言葉にシライは苦虫を噛み潰したような顔になるも、油断して火の神に厄介な物を身の内に埋め込まれたのは事実なので何も言えない。 

「しかし、如何に佳音が麗しい容姿をして、美しい声で祈りを捧げていた精励なる神官だったとしても、神の攻撃を浄化するというのは、無理があるだろう」 

「それは、その通りですね」 

 シライの言葉に、今度は蓮も素直に頷いた。 

「つまり、考えられるのは」 

「佳音様のご両親、は既に亡くなられているというお話でしたか」 

「ああ。佳音は戦災孤児だと言っていた。地上は、諍いの絶えぬ場所だからな。苦労したのだろうと思うと、胸が痛い」 

「それは、これから主が愛し癒してさしあげてください。ですが、それでは佳音様のお持ちになる力は」 

「佳音も知らないことがある、ということだろうな。ともかく、あやつが佳音の力に目を付けたことは間違いないだろう。今までより更に警護を強化しろ」 

「お任せください」 

 火の神をあやつという主君を諫めることもなく、蓮は力強く頷いた。 

 

 

 

  

 

「カハ様。お呼びでしょうか」 

「ヒスイか。実はな、天空城に宮乃みやのの波動を感じた」 

「天空城に、ですか?」 

「ああ。長い間察知すること叶わなかったが間違いない。我が授けた守護の力も同時に感じたからな。しかし何故天空城に居るのか」 

 長年の探し人の所在を漸く探り当て、喜ぶと共にその顔には苦渋が浮かぶ。 

「宮乃様は優れた巫女様でいらっしゃいます。もしや、天空神様が取り込まんとされているのでしょうか」 

「天空神が、か。しかし、そのような無体を強いるような輩ではないと思う。何かのっぴきならぬことがあり保護されている可能性も捨てきれないだろう」 

「神が人間を自城で保護、ですか?」 

 怪訝な顔で言われ、それが簡単ではないことを自身よく理解しているカハの表情が厳しいものになった。 

「もし囚われているのなら、一刻も早く救い出したい。しかし、いきなり我が乗り込むわけにもいかぬ」 

「なるほど、分かりました。そこでこのヒスイに動向を見極めてこい、ということですね」 

 得心した、とヒスイが笑みを浮かべれば、カハが大きく頷く。 

「すまぬが、他の者には任せられぬ。行ってくれるか?」 

「仰せのままに。我が君」 

 カハの言葉にヒスイは深く一礼して答えた。 

 

 

 

 
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