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29.その無意識の行動が

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「シライみたいなのを絶倫っていうんだ、きっと」 

 結局、昨夜遅くまで熱く交わり合い、その間ほぼ寝台の上で過ごす羽目になった佳音が恨めしい声を出す。 

 丸一日以上、本当に、ゆっくりじっくり貪られ、佳音はシライの底知れない力を思い知った。 

 絶倫。 

 それは、同期の神官が恋人に対して言っていた言葉で、その時の佳音にはよく意味が分からなかったが、今この時、実感とともにその言葉を口に出来ると、佳音はいつ果てるとも知れない、終わりの見えないシライとの情交を思い出した。 

「いや、俺も気持ちよかった、けど」 

 それでも休憩を挟んだとはいえ、一昨日の昼過ぎから昨日一日ずっとというのはやりすぎではないかと佳音は思う。 

「まあ、でも」 

『ああ、佳音。まだまだ足りぬ』 

 そう切なげに、けれど情欲の籠った瞳で見つめられ求めるように口づけられて、幸せだったとも思う。 

「でもほんと、凄い体力だよな。萎えないし、体力も続くってどれだけ凄いんだ」 

 無尽蔵に精力体力が沸き上がるシライと違い、動けないほどに疲れ切った佳音が、後孔が痛い、もう動けないと言えば、シライはあっさりと回復、治癒の術をかけた。 

「注ぐの、百回が目安って言ってたよな。どれだけかかるんだろうと思ってたけど案外早かったりして」 

 冗談のように呟いた佳音は、それが冗談抜きである現実に気づいて、ひとり撃沈した。 

「ああ、シライの爽やかさが恨めしい」 

 そして思い出すのは、すっきりとした爽やかな笑みを浮かべ出かけて行ったシライのこと。 

 あれだけの情交を繰り広げておいて、その淫靡さを微塵も感じさせないあの笑顔。 

『では、行って来る』  

 疲れも何も感じさせないきらきらの笑顔でそう言われた時、佳音は思わず口づけではなく頬に噛み付いてしまった。 

『誘いか?夜までいい子で待っていろ』 

 しかし、せめてもの報復だったそれもそんな風に変換され、思わせぶりな手に首筋を撫でられて、切羽詰まったのは佳音の方だった。 

「ほんっと悔しい」 

 シライの術のお蔭で、痛い所もないし、体力的にも問題は無い。 

 ただ、気力が削られただけ。 

 それがまた悔しいと、佳音はすっくと寝椅子の上で起き上がった。 

「それに気遣いも完璧だし。付け入る隙が無い」 

 思わず手で撫でた寝椅子の肘掛けは磨き込まれた木材で出来ていて、ずっと触れていたくなるほどすべすべだし、寝椅子本体は柔らか過ぎず固すぎない、最高の寝心地。 

 しかも布地は絹で手触りは最高だし、色合いも佳音の好みにぴったりで驚くほど。 

 この寝椅子は先ほど新たに運び込まれた調度で、佳音がゆったりと休めるようにというシライの優しさを感じ、佳音もとても嬉しかった。 

「確かに嬉しかったし、注がれるのも嫌じゃない。でもなんか、全部シライ任せっていうのが歯がゆい・・・そうか。俺、歯がゆいのか」 

 口に出して己の本心に気づいた佳音は、その場で立ち上がると、ひとり決意表明をした。 

「体力、付けよう」 

 今の自分にもそれくらいなら出来る、と佳音はその場で運動を始める。 

 まずは首を動かし、手首、足首を動かして、それからとにかく室内を歩き回る。 

「あの。佳音様、何をなさっておいでなのですか?」 

 そんな佳音に、シライへの返信の文を届け戻って来た杏が、不思議そうに声をかけた。 

「運動。体力欲しいから」 

 淀みの無い笑顔で答えた佳音は知らない。 

「なんてお可愛らしい。天空神様がお喜びになりそうなお姿」 

 足を高くあげ、腕を大きくふって歩く佳音を微笑ましく見た杏が連絡を入れたことにより、シライがかぶりつきで佳音を見ていたことを。 

 そしてその夜、再び激しくシライに抱かれることになるのは、最早佳音の運命である。 

 

 

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