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26.『明日休む』のその意味は

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「寝衣も空色なんだ」 

「ああ。今夜はオレの夢を見るといい」 

「うわ。気障きざ」 

 食事の後、歯を磨くのは何とか自分でさせてもらった佳音だが、寝衣への着替えは当然のようにシライが行った。 

 そしてその寝衣もまた当然のように淡い空色で、帯は少し濃いめの空色。 

「さて。休むとするか」 

「うん」 

 シライに手を引かれ寝台にあがって、シライの腕に抱き込まれて横になる。 

「苦しくはないか?」 

「全然。心地いいよ。シライは?」 

 もぞもぞと居心地よいように頭を動かした佳音が問えば、シライが苦い顔になった。 

「佳音を傍に感じているのに抱けないのだから、胸は苦しいな」 

「体調一番、無理禁物」 

「ああ、分かった」 

 佳音の物言いが面白いと、くつくつ笑うシライの胸を佳音が叩いた。 

「もう、ほんとに心配しているのに。何なの、このざわざわ」 

 収まらないざわざわを案じて言えば、シライが真顔で佳音を見る。 

「面倒な奴に仕掛けられた面倒な物を面倒な奴に起動された」 

「早口言葉?・・・って、それって大丈夫なの!?すっごく面倒ごとみたいだけど」 

「まあ、いつも三日ほどで収まるな」 

「そんなにかかるんだ」 

 それまでずっと、ざわざわが収まらないなんて、と佳音はシライの胸に手を当てる。 

 そこは、ひと際ざわざわしているようで佳音は落ち着かない。 

「案ずるな。それに、佳音に触れて、触れられていると、息もしやすい」 

「なら、ずっと触ってていいよ。俺も触っているから」 

「ああ。そうする」 

 心配そうにシライの胸に手を当てる佳音をぎゅっと抱き締め、シライがその髪に顔を埋める。 

 

 シライのざわざわ、早く収まりますように。 

 

 その胸に額を擦り寄せた佳音は、そう強く願った。 

 

 

 

 

「おはよう、佳音」 

「っ・・お、おはようシライ」 

 翌朝、目を覚ました佳音は、目を開けるなりとんでもない美丈夫を至近距離で見て固まった。 

「可愛い寝顔だった」 

「っ・・そ、そんなことより体調、体調はどう?・・・って、あれ?ざわざわしない?」 

 昨日あれだけ感じたざわざわがシライから消えている、と佳音はその胸に触れまくって確認する。 

「やはり、寝台の上では積極的だな」 

「なっ」 

「いつもなら三日は続く症状が一晩で収まった。佳音のお蔭だ」 

 揶揄うように言われ、真っ赤になった佳音が何を言うより早く、今度は真顔になったシライが嘘偽りの無い目を佳音に向けた。 

「俺は別にっ何もしてないけど・・・っ。収まったなら、良かった」 

 今度は自分の方がざわざわ、というか鼓動が速くなるのを感じつつも佳音が平静を装って言えば、シライが本当に眩しそうに佳音を見る。 

「ああ。ありがとう」 

 そしてそのまま鈴を鳴らす為、帳に手を掛けようとしたシライを佳音が止めた。 

「執務に行くのか?今日は休んだ方がいいんじゃないか?」 

 昨日のざわざわは尋常ではなかった、と佳音が言うも、シライはきっぱりと首を振った。 

「いや、今日ではなく、明日休みにしようと思う」 

「急ぎのお仕事があるなら、仕方ないけど。まあ、明日休めるならいいのか。無理は絶対にするなよ?」 

「ああ。今日も早く帰れるから、そこからゆっくりしよう」 

 にこりと微笑んで言うシライに、佳音も微笑みを返す。 

「今日早く帰れるなら、その方がいいね」 

 これでシライもゆっくり休める、と安心して言った佳音は、シライの名言通り、その日昼過ぎからゆっくりじっくりシライに貪られ尽くす自分の未来を未だ知らない。 

 

 

 
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