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20.今も覗き見
しおりを挟む「昨日は結局、何もしないで寝ちゃったけど、いいのかな。いや、何もしなかったわけじゃ、ないけど」
ひとり呟き、ひとり赤くなった佳音が、ぱたぱたと手で顔を扇ぐ。
昨日と同じようにシライと朝の支度をし、朝食を摂って執務へ向かうシライを見送った佳音は、祈りを捧げた後、ひとりになった部屋を落ち着きなくうろうろしてしまう。
「湯殿では色々したけど、注がれてないんだよな。シライはいい、って言ってたし、身体を気遣ってくれたのは嬉しかったけど」
二日連続では身体がきついだろう、と言ったシライの優しさは嬉しい。
『それに、湯殿で佳音に可愛がってもらったからな』
「うっぐっ」
思い返していて、要らぬ言葉とその時のシライの楽しそうな表情まで思い出した佳音が、ひとり撃沈した。
「シライってば、ほんと恥ずかしいことをさらっと当たり前のように言うんだもんな」
とても真似できない、と椅子に膝を抱えて座り込んだ佳音は、朝食の後片付けを終え退室していた蘭が戻ったのを見て立ち上がる。
「佳音様。天空神様よりお文です」
にこにこと言われ、佳音は文箱を受け取った。
「おお、今日もきれいな紙。お花も可愛い」
「佳音様のその嬉しそうなお顔をご覧になれば、天空神様も喜ばれるでしょう」
蘭の言葉に、佳音は文を開きつつ軽口を叩く。
「また覗かれてたりして?」
「はい、恐らくは。でもご安心ください。すぐに蓮様が執務へ引き戻されるでしょうから」
え?
ほんとに覗かれてるのか?
冗談だったんだけど。
さらりと蘭に言われ顔が引き攣るも、生贄ならしょうがないか、と思い切り、佳音は返事をしたためる。
「佳音様。本日は、天空神様もこちらでご昼食を召し上がられるそうです。なので、後ほどお仕度いたしましょうね」
「うん。よろしく」
自分達に丁寧語はやめてくれと蘭達三人に言われたけれど、未だ遠慮のある佳音は、蘭とが一番普通に話せると、にこにこ頷いた。
しかしその後、シライへと文を届け戻って来た蘭に着替えをと言われて固まった。
「着替え?お昼食べるだけなのに?」
「はい。もちろんでございます」
気合十分と感じる蘭を前に、佳音は顔を引き攣らせる。
いやいや、お仕度、ってそういうこと?
食事の用意かと思ったよ。
いや、ここではしたことないけども。
それにしても、昼食を摂るだけなのに着替えとはまたも認識の違いが、と思いつつ、佳音は軽く腕をあげて自分が纏う衣を見る。
「でも。朝、昨日とは違う衣に着替えさせてもらったから、清潔だよ?」
下着も完璧、不潔さの欠片も無い、と言う佳音に蘭は笑顔で言い切った。
「様々なお衣装を身に纏って天空神様をお喜ばせするのも、佳音様のお役目でございます」
「え?そうなの?それも、俺の役目?」
そっか。
これも生贄の役目っていうなら。
「はい。天空神様は、それは佳音様を愛でていらっしゃいますから」
「うん。分かった」
それならば生贄としての役目なら果たすまで、と蘭に促されて箪笥の前に立った佳音と、主の幸福に満ちた笑顔を嬉しく思い浮かべながら佳音の衣装を選ぶ蘭の間に、盛大な行き違いがあることをふたりは知らない。
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